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梅の香、満ち足りて

動かざること山のごとし

聖飢魔Ⅱの重鎮、魔界の文化局長ゼノン和尚 御発生日記念作品

※当作品について、他ブログ、SNS等への転載は固くお断りします。



魔界―


王都ビターバレー

その中に唯一、居を構える屋敷

最高魔イザマーレ族の長の居住地として有名だ


その屋敷を取り囲むように存在する、広大な敷地には

愛する妻のおねだりに応える形で設えた豪華絢爛な庭園

文化局の森と併設する形で館が建設され、

やがて風景に溶け込み、民衆からも自然と親しまれるようになった頃

屋敷を挟んで反対側の敷地に、悠々とそびえ立つ梅の木

その梅の木をシンボルとして建設された巨大な建物


梅雨真っ只中の、鬱陶しい季節

ベルデは久しぶりに重い腰を上げ、梅園学園の中庭に行く


雨の恵みを受け、樹木は青々とした実が成り

独特の深い香りに満ちている


梅雨の中休みになると、副大魔王妃リリエルが

ちびっ子魔たちと一緒になって果実をもぎ取り、

真夏に向けてジュースや酒、梅干し作りをする


(その前に…)


以前、雷神界に出向いた時、紫雲に言われていたのだ


リリエルが人間に生まれ変わった、あの要塞の庭にあった

梅の木が、ついに樹寿を迎え輪廻の旅に出たという




自然界の法則だ


仕方のない事とはいえ、名残惜しく

せめて姿かたちだけでも、何かに残しておけないものかと

徒然、思い巡らせているのだという…


「それなら、写真にするか、絵に描いて、お渡ししますよ

イザマーレの敷地内にある梅の木は、リリエルちゃんの

生家の庭にあった木をそっくり移植させたものだから」


事もなげに応えるベルデに、紫雲は目を丸くして驚いた


「そ…そうでしたか…さすが、イザマーレ様…

リリエル様の大切な思い出はすべて、ひとつ残らず

護ってらっしゃるんですね…」


「要塞の庭にある樹木が樹寿を迎え

まもなく木霊も器に召還されると思う。でも、魔界にあると

なかなか紫雲くんたちの目に触れるのは難しいだろうから」


感涙に咽び泣く紫雲は、ベルデの言葉にさらに瞳を輝かせる


「白くて可憐な花が咲き、青葉が繁り、たくさんの実をつける

木の幹をつたい、遊ばせていただいた…

あの頃が、とても懐かしいのです」


「…そうか。確かに、リリエルちゃんをびっくりさせてしまった

あの時って、ちょうど、今ぐらいの時期だったよね(笑)」


毎度、ダンケルからの突然の呼び出しや

文化局で明け暮れる怪しい研究で多忙を極めるベルデだが

ちょうどイザマーレはプライベートルームの扉を消しているし

ウエスターレンも人間界での音楽活動で不在がちだ

ダンケルも、今秋に開催されるサミットの事でルンルン気分に違いない

束の間に取れた、ちょうど良い空き時間



ベルデはひそかに心躍らせながら

イザマーレの屋敷を通り過ぎ、学園の敷地に入り込んだ


中庭にたどり着くと、イーゼルを組み立て

大き目のキャンバスを設置すると、絵筆に色を付けて、描き始めた


………………

……


一心不乱。動かざること山のごとし。

気の向くまま、指先の指し示すまま、描き上げた


ようやく覚醒し、絵筆を置いて、客観的に俯瞰する


(…ま、こんなものかな)


さすがはベルデ。画伯の称号をもつ悪魔

その腕前は衰え知らずだ


パチパチパチパチ……


「…!…」


ふいに、聞こえてきたのは、遠慮がちな拍手の音

驚いて振り向くと、裕子がリナとソラと並んでテラスに腰かけ

ニコニコと微笑んでいた


「ケーキが焼けたから、和尚を呼んでくるようにって

リリエル様から言われて…」


「あ…そうなんだ。扉、ようやく開いたんだね~(笑)」

のんびりと呟いて、イーゼルを片付けるベルデ




「…まあ、いいや。とにかく急いで行こう。

皆、待っててくれてるんでしょ?」


画材道具を片付けて、魔法陣を出すベルデ


イザマーレたちが扉を開いたなら、

きっと雷神帝や雷帝妃、紫雲たちも挙って

遊びに来ているだろう


出来上がったばかりの作品を、渡してあげられるかもしれない

そして、人間界ではしばらくの間、梅雨空に悩まされる事だろう


天の川に運命の星が輝き、夏の夜空に大輪の花を咲かせるまで

悪魔の宴が盛大に執り行われた









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