梅の香、満ち足りて
- RICOH RICOH
- 2023年6月22日
- 読了時間: 1分
動かざること山のごとし
聖飢魔Ⅱの重鎮、魔界の文化局長ゼノン和尚 御発生日記念作品
※当作品について、他ブログ、SNS等への転載は固くお断りします。
Ⅰ
魔界―
王都ビターバレー
その中に唯一、居を構える屋敷
最高魔イザマーレ族の長の居住地として有名だ
その屋敷を取り囲むように存在する、広大な敷地には
愛する妻のおねだりに応える形で設えた豪華絢爛な庭園
文化局の森と併設する形で館が建設され、
やがて風景に溶け込み、民衆からも自然と親しまれるようになった頃
屋敷を挟んで反対側の敷地に、悠々とそびえ立つ梅の木
その梅の木をシンボルとして建設された巨大な建物
梅雨真っ只中の、鬱陶しい季節
ベルデは久しぶりに重い腰を上げ、梅園学園の中庭に行く
雨の恵みを受け、樹木は青々とした実が成り
独特の深い香りに満ちている
梅雨の中休みになると、副大魔王妃リリエルが
ちびっ子魔たちと一緒になって果実をもぎ取り、
真夏に向けてジュースや酒、梅干し作りをする
(その前に…)
以前、雷神界に出向いた時、紫雲に言われていたのだ
リリエルが人間に生まれ変わった、あの要塞の庭にあった
梅の木が、ついに樹寿を迎え輪廻の旅に出たという
Ⅱ
自然界の法則だ
仕方のない事とはいえ、名残惜しく
せめて姿かたちだけでも、何かに残しておけないものかと
徒然、思い巡らせているのだという…
「それなら、写真にするか、絵に描いて、お渡ししますよ
イザマーレの敷地内にある梅の木は、リリエルちゃんの
生家の庭にあった木をそっくり移植させたものだから」
事もなげに応えるベルデに、紫雲は目を丸くして驚いた
「そ…そうでしたか…さすが、イザマーレ様…
リリエル様の大切な思い出はすべて、ひとつ残らず
護ってらっしゃるんですね…」
「要塞の庭にある樹木が樹寿を迎え
まもなく木霊も器に召還されると思う。でも、魔界にあると
なかなか紫雲くんたちの目に触れるのは難しいだろうから」
感涙に咽び泣く紫雲は、ベルデの言葉にさらに瞳を輝かせる
「白くて可憐な花が咲き、青葉が繁り、たくさんの実をつける
木の幹をつたい、遊ばせていただいた…
あの頃が、とても懐かしいのです」
「…そうか。確かに、リリエルちゃんをびっくりさせてしまった
あの時って、ちょうど、今ぐらいの時期だったよね(笑)」
毎度、ダンケルからの突然の呼び出しや
文化局で明け暮れる怪しい研究で多忙を極めるベルデだが
ちょうどイザマーレはプライベートルームの扉を消しているし
ウエスターレンも人間界での音楽活動で不在がちだ
ダンケルも、今秋に開催されるサミットの事でルンルン気分に違いない
束の間に取れた、ちょうど良い空き時間
Ⅲ
ベルデはひそかに心躍らせながら
イザマーレの屋敷を通り過ぎ、学園の敷地に入り込んだ
中庭にたどり着くと、イーゼルを組み立て
大き目のキャンバスを設置すると、絵筆に色を付けて、描き始めた
………………
……
…
一心不乱。動かざること山のごとし。
気の向くまま、指先の指し示すまま、描き上げた
ようやく覚醒し、絵筆を置いて、客観的に俯瞰する
(…ま、こんなものかな)
さすがはベルデ。画伯の称号をもつ悪魔
その腕前は衰え知らずだ
パチパチパチパチ……
「…!…」
ふいに、聞こえてきたのは、遠慮がちな拍手の音
驚いて振り向くと、裕子がリナとソラと並んでテラスに腰かけ
ニコニコと微笑んでいた
「ケーキが焼けたから、和尚を呼んでくるようにって
リリエル様から言われて…」
「あ…そうなんだ。扉、ようやく開いたんだね~(笑)」
のんびりと呟いて、イーゼルを片付けるベルデ
Ⅳ
「…まあ、いいや。とにかく急いで行こう。
皆、待っててくれてるんでしょ?」
画材道具を片付けて、魔法陣を出すベルデ
イザマーレたちが扉を開いたなら、
きっと雷神帝や雷帝妃、紫雲たちも挙って
遊びに来ているだろう
出来上がったばかりの作品を、渡してあげられるかもしれない
そして、人間界ではしばらくの間、梅雨空に悩まされる事だろう
天の川に運命の星が輝き、夏の夜空に大輪の花を咲かせるまで
悪魔の宴が盛大に執り行われた
コメント