謎の要塞
- RICOH RICOH
- 2024年10月29日
- 読了時間: 11分
秋の夜長シリーズ Ⅲ
そもそも…彼女って、何なの??
花の謎に迫ったら、さらに謎だらけ………
柔らかい草むら
そよぐ風は優しく、周りから生活音も聞こえてくる
タンポポ、シロツメクサ、ナズナ、レンゲ…
小さな花々に囲まれ、草の絨毯にしゃがみ込む
幼い子供-推定3歳
平和の象徴のような光景の中で、その子供は一人
不機嫌そうにふさぎこんでいた
「もうすぐ、おうちにもどりなさいっていわれる。でも…
いやなの。リリ、あのおうち、だいきらい…」
ひとり呟くその言葉を受け止めるのは、静かに咲いている草花だけ…
唯一、大好きだった近所のおじいさんも、どこかに行ってしまった
呟いた事でとりあえず気が済んで、シロツメクサを摘んで
花かんむりを作り出す
「リリエル~!!そろそろお家に入りなさい。
もうすぐピアノのお稽古でしょ!!」
「…」
予想通りではあるが、ぶぅ~っと頬をふくらませて
不満そうな顔を隠そうともしない
その時
パシャパシャ…
シャッター音が聞こえて、見上げた
逆光になってよく見えないが、学ランを来た男の人だった
その男の人に優しく抱っこされる
「…どうしたんだ?リリエル。
またそんなところで泣いていたのか…?」
「イザムおにいちゃん…」
キョトンとした顔で、見つめ返すリリエル
「…(笑)ちょっと用事があって。お前のじいちゃんに会ったら
すぐに戻ってきて、遊んでやるからな」
男性に抱っこされたまま、家の中に戻って行く。
その途端、リリエルの自由時間はなくなる
3時間のピアノの稽古
夜ご飯を食べたら、寝る時間までひたすら勉強…
「…あれ、そういえば、イザムおにいちゃんは?」
「何言ってるの。あんな子、さっさと帰ったわよ。それより
計算ドリルは終わったの?じゃ、応用問題。分かったわね?」
(…あそんでくれるって言ったのに…)
母親に隠れるように、口を尖らせながら
ひたすら問題を解いていくリリエル…
抗わない理由は、それが一番早く自由になる方法だと知っているから
リリエルが生まれ育った家には
子供用の玩具といった類のものは一切なかった
なかった、というより、いつもどこかに隠され
遊ぶ時間を許されなかったのだ
唯一、親戚一同が集まる正月と、夏の花火大会の時だけは
ドンジャラや人生ゲームで、遊ぶことを許されていた
親戚の子供たちに混じって、その中にいつも、
その男性も必ず居たのだ
夏は肩まで腕まくりして、色っぽく
サッカー選手のような、男の人
「リリエルはまだ小さいから、ゲームは無理だな。
おいで。抱っこしてあげるから」
大きな兄姉、親戚の中で、埋もれる程の小さいリリエルは
いつもその男の人に抱っこされた膝の上で
いつの間にかウトウトと眠り込んでいた
一度だけでなく、何度も…それは間違いなく記憶に残っている
それなのに、その人がどこから来たのか、何しに来ていたのか
何も知らないのだ
……公設秘書の仕事をしながら、時折思い出す
(そう言えば、あのお兄ちゃん、名前が……
閣下の人間の御姿の時のお名前と一緒だった…
…ん!?ま、まさか😱…)
隣にいるイザマーレをチラっと窺うリリエル
素知らぬ顔をしながら、咳払いをする副大魔王だ
それから数年たち、リリエルは小学生になっていた
何かあると度々来てくれていた「イザムおにいちゃん」は、
いつの間にか姿を現さなくなっていた
家族全員で正座をして、朝食の時間だった
リビングの広い窓からは、目の前の庭を一望できる
その庭に、突然バサバサっと降り立った、一羽の雄鶏
家族全員が目を丸くして驚いた
それもそのはず。
普通の鶏でも突然民家に入り込んだら驚くだろうが、
その雄鶏は、明らかに他とは何かが違っていたのだ
黄金の毛並み。首筋に翡翠と赤の鮮やかな模様を纏い
厳かなオーラを放ち、威風堂々と降臨なさったのだ
降り立ったその場で仁王立ちになり、
家の中の様子を見つめるかのようにじっと視線を送り続ける
そのうち、年上の兄姉が騒ぎ出す
「ねえ、家で飼わない?」
「そうだよ!ねえ、父さん、お願い!!」
「逃げるかもしれないじゃない」
「そうだな…じゃ、このまま正午まで居続けたら、考えようか…」
その黄金の雄鶏は、正午どころか真夜中になるまで微動だにせず
降り立った場所に居続けたのである
家族にとって最初で最後のペットとなったが、
果たしてペットと呼べるのか…
まず誰の言う事も聞かず、人間の手には決して触れさせない
下手に近づくと蹴り飛ばされる
それでいて、朝だけでなく、好きな時間に高らかに鳴くのだ
そんな、途轍もなくエラそうな雄鶏だった
さすがの黄金の雄鶏も、一羽だけでは寂しかろうと
近所の知り合いに頼み、雌鶏と番にさせた
たくさんのヒナを産み出し、一時は何十羽にもなるほどの
大所帯になっても、黄金の毛並みは鳴りを潜めることもなく
一層輝きを増していく。
近所で飼っている犬に襲われ、犠牲になる鶏もいた
病気になって寿命を迎える鶏もいたが
黄金の雄鶏は、最初の姿のまま、威風堂々と君臨し続ける
家族の守護神のような存在になっていた
その黄金の雄鶏の末路を、リリエルは知らない
ある時、父親から突然告げられたのだ
「もう、この雄鶏は何年間も我が家に居続けた。
これ以上、我々のような人間が
何かをして良い存在とは思えない。
知り合いに、譲ることにしたらな」
鶏一家ごと、知らない場所に連れていかれた
…大事なものは、いつも突然、奪われるのだ
……
それにしても、あんなに偉そうな雄鶏
後にも先にも見たことないな……
だいたい、毛並みが黄金って……
ん?……黄金………???
………そういえば…最高魔軍が地球デビューしたのって
あの雄鶏が飛んできた、その頃だったような………
え、まさか……!?😱😱😱
再び隣のイザマーレをそっと窺うが、
今度は絶対に誤魔化したいのか微動だにしない
未だに、その黄金の雄鶏の正体は謎のままである
やがて、歳月は過ぎ、リリエルは高学年になっていた
4年生の時、学校代表として地域の音楽祭に出る
合唱隊のメンバーに選ばれた
何もしなくても、ある程度、高音域が出せる少女を
音楽科の教師が見逃す筈はなく、
「リリエルちゃん、きみは、合唱クラブに入るべきだよ」
と、しきりに勧誘してきた
歌うことは、とても楽しいと感じていたリリエルも
親に相談してみる。だが…
「ダメです。それだと、8月にコンクールあるじゃない。
あなたは、夏期講習があるでしょ?無理よ。辞めなさい」
「…じゃ、もう一つやりたかったバトンクラブなら良い?」
「仕方ないわね。地区祭りのパレードがあるのは7月ね。
それなら許してあげます」
何とか許可を貰って、バトンクラブに入部したリリエル。
毎日、朝練と昼練、放課後の部活動
校舎の影で練習を繰り返す日々。
小柄ながら、体操着にパステルカラーのミニスカートで
踊り回るリリエル。その姿を人目見ようと、教室の窓に集う
男子生徒で鈴なり状態になる
いつの間にか、センターで大技を繰り出す役に
選ばれるようになり、リリエルも充実していた
その最中に、母親からの命令が下る
「あなた、もう受験でしょ。
いつまでもそんな事をしてないで
何も活動のない文化部に移りなさい。
もう、先生には伝えてありますから」
リリエルが少しでも楽しいと感じ始めると
いつでも突然、それを奪われるのだ
結局、抗うことも出来ず、バトンクラブも辞め
仲の良かった友達からも距離を置かれるようになる
毎日、数時間かけて都心まで進学塾へ通うだけの日々
そんな年の暮れ。
お正月用のおせち料理を作っていたリリエルに、兄が近寄って来た
当時、大学受験を控えて、妹のリリエル以上に
自由の効かない日々を過ごしていた兄
「いいか。今日の紅白で『最高魔軍』の順番になったら
このカセットテープに録音してくれ。リリエルにしか頼めない。
お前ならきっと出来る。頼むな」
「…へっ?さ、さい…せいきまつ?」
「違う💦さ、い、こ、う、ま、ぐ、ん!!分かったな?」
「うん…分かった。上手く録音できなかったら、ごめんね」
その日の夜、テレビ画面の向こうに見たのが
リリエルにとって、最高魔軍との出会いだった
イザマーレの煌びやかな姿、伸びのある艶やかな歌声、ド派手な演出……
全てに目を奪われ、しばらくテレビの前で動けなくなっていた
当然、兄から頼まれた録音は上手く行くはずもなく…
だが、その時から、リリエルの中で何かが変わった
これまで、窮屈過ぎる日々に疑問を持ちながらも
抗うことが出来ずにいた自分を、捨てることにしたのだ
最初の抵抗は、年明けすぐにあった中学受験。
入試の際、答案用紙の一部を必ず未記入にした
その結果、親が行かせようと企んでいたカトリック系の
私立中学受験は失敗に終わり、心から望んでいた公立中学に
進学したのである。
地元の公立中学校は、その地区で最も評判の悪い
やんちゃな学校として有名だった
「そんな所に行ったら最後。虐められるよ、あなた」
そんな風に罵る母親の言葉は、聞き流していた
入学してみると、確かに評判に違わず、なかなか個性的な校風だった
一人はパンチパーマとサングラス姿で、竹刀を携え
もう一人は同じく厳つい表情でバットを構えて校舎内を練り歩く、
2人の教師
とても怖そうに見えるが、実は生徒たちの人気者。
校舎のあらゆる場所にタムロするやんちゃな生徒たちも
彼らが来ると、仕方なさそうに教室へ戻って行くのだ
男女問わず、強いマウントがその学校にもあった
中途半端に校風を乱すような我儘な不良は、
マウントの頂点に立つ代表からは
いつも酷い目に遭い、泣かされ続ける
だが、その代表に、なぜかいつも可愛がられるのが
リリエルだったのだ
入学したてのリリエルはひとり、昇降口で靴を履き替えている
その近くでは、学校に飴を持ち込んだ事がバレて、
不良グループに泣かされている生徒
リリエルに気づいた代表の女の先輩が、声をかけてくる
「あ、リリエルちゃん♪今から帰るの?気をつけてね。
今日も塾なんでしょ?」
「あ…はい(*´艸`*)」
「いや~ん。リリエルちゃんて本当に可愛い♪ね、飴あげようか?」
そう言って差し出してくるのは、
その数秒前に叱り飛ばした相手から没収した飴
「い、いえ…大丈夫です💦」
「えっ この飴、嫌いだった?ごめーん…」
その途端、罵声が聞こえるのだ
「おいっせめてもっとマシなのを持ち込まんか!!この役立たずが!!」
「あ、あの…💦すみません…飴は大丈夫ですから…💦」
「…キャー(≧∇≦) リリエルちゃんて、本当に優しくて可愛いよね♪
じゃ、また明日ね♪♪」
そんな風に見送られるのが、日常茶飯事だった
中学に入ると、いじめられるどころか、たくさんの友達が出来て
夏になると毎日のように近所の川原で花火をして遊んでいた
町中をパトロールして回る不良グループに、必ず取り囲まれる
「おいお前ら、誰の許可をもらって遊んでやがる?」
「…い、いえ…あの…」
(ダメダメ!話しかけちゃダメだよ、無視が一番だから!!)
そんな風に怯えながら小声で話し合う友人たち
だが…
「…って、あれ?リリエルちゃん…?」
不良グループのどうみても代表が、
その場に居る中学生の中にリリエルの姿を見つけると
態度が一変する
「あ…はい。こんばんは(*´艸`*)」
「な~んだ。おい、お前ら、これでちょっと買い込んで来い」
従えていた下部たちに命令を下し、数分後には
近くのコンビニで買ってきてくれたお菓子や飲み物、
新しい花火で溢れかえる
いつまで経っても終わらない…
なぜか分からないが、いつでも守られ、
可愛がられるリリエルだった
疑問に思った事を聞かずにはいられないリリエルは
その不良さんたちに聞いてみた
「あの…いつもありがとうございます。とても優しくしていただいて…
私は何もお返し出来ないのに、どうしてですか…?」
「何言ってんの!!
リリエルちゃんのような子を、雑に扱っちゃいけないの。
それくらい、馬鹿なあたしたちだって分かるよ。」
「そうそう。なんかこう…違うよね。オーラというか…」
「それに、リリエルちゃんって、あたしらのような馬鹿にも、
いつも優しく微笑んでくれるじゃない?大好きなんだよね~」
……
だからと言って、何の力も魅力もない、
ただの少女をあそこまで甘やかすかな…?
口元に手を当て、考え込むリリエルを眺め、
ほくそ笑むイザマーレ
リリエルは気づいていなかったが、その頃から、
大事な時はその世界のトップを狙えばいい
そんな習慣が、自然と身についてしまったのだ
さて、人間時代のリリエルが
幼いころから艱難辛苦を味わい続けた生家
家の中からは、庭が一望できる広い窓があるのだが
建物そのものは、魔界の文化局を思わせるような
鬱蒼とした木々に囲まれ、
一歩足を踏み入れたら抜け出せないような
恐ろし気な雰囲気を醸し出している
リリエルが出会った先々で親しくなった友人は皆、
まずその建物の印象に畏怖を抱く
リリエルの事を気に入り、
競い合うように思いを寄せてくる男の子たちは皆
不良グループの代表からこの家を知らされ、
その後は一切、寄り付かなくなる
その難関を乗り越え、家の中に招待された途端
針のむしろのような対応に晒され、逃げ出すように帰って行く…
いつしかそこは、「謎の要塞」と呼ばれ、
今も人間界のとある場所に鎮座しているのである
🌷謎の要塞 Fin.🌷
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