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屋敷


パタン……


シャワーを浴びた後、バスタオルで身体を拭き

真っ白なバスローブを身に纏う


ワシャワシャと濡れた髪を簡単にタオルドライする


鏡を見て、適当に手ぐしで整え、簡単にスキンケアをする


「……」


自分から見ても、呆れるほど肌艶が良い

いくら心に鍵をかけ、見ないふりをしていても誤魔化しきれない

分かりやすい自身の変化に、ため息を零す


「Anye、ただいま」


「…あ…」


バスルームから出て、Anye用に宛がわれた部屋に向かう途中

ちょうど階段を昇って来たイザマーレに声をかけられた


「お帰りなさいませ…すみません…シャワーを頂きました。」


軽く会釈して、俯きながら通り過ぎ、部屋に入っていくAnye


プライベートルームの扉が閉まる音が扉越しに聞こえる

ホッと息を吐き、身繕いを始める…




事件の後、彼らと一緒に魔界に連れ戻された後

イザマーレの屋敷で暮らすようになったAnye


昼間は魔界図書館に足蹴く通い、魔界の歴史を読み込んで

大魔王ダンケルを中心に最高魔イザマーレ族により統治されている

王都の仕組みなどをじっくりと学んでいく


(…それなら…明確な意思の元、厳しい処罰を下したのも…

当然だったのね……)


出会った当初から、イザマーレに抱いた感情が

自然と腑に落ちていく


一見、容赦ない残酷さだけがクローズアップされがちだが

なんの理由もなく見下すような真似はしない


副大魔王という要職で、

多岐にわたる半端ない量の仕事をこなしているため

同じ屋敷にいても、顔を合わせる機会はそんなに多くない


だが、完全に無視されるわけでもなく

あんな風に、普通に言葉を交わす事もある


そして…


無謀な襲撃を繰り返していた頃は、

容易く返り討ちに遭い、組み伏せられていたが

Anyeが屋敷で暮らすようになってからは

無理に身体を奪われることもなく、穏やかな日々が続いていた




こちらは副大魔王のプライベートルーム


廊下でAnyeと言葉を交わし、彼女が部屋に戻って行くのを見届け

1魔、無言で衣装を脱ぎ捨て、部屋の中にあるシャワールームへ入る


「……」


濡れた髪をかき上げ、物憂げな表情を浮かべる


Anyeを守っていく

そう決めたからには、これまでのような、

行きずりの(いや、無理やり襲うような)関係ではなく

Anyeの望むように寄り添ってやるべきだと思っている


なので、湧き上がる食欲を堪えながら、我慢をしている日々なのだ


だが……


応急処置として宛がった、彼女の部屋には

構造上、シャワールームがない


風呂上りに出くわしたのが自分だったから良いものの…

そうじゃなくても、あんな風に見つめてくるのか?

…ったく…無防備にも、程があるだろう……


デスクにあるベルを鳴らし、使用魔を呼び出す


「湯冷ましのお茶を頼む。これから客室に向かうから、

2魔分、よろしく頼むな。」


『…畏まりました♪』




「……フッ…」


イザマーレは今でも時折、

あの頃の日々を思い出しては楽し気に笑みを浮かべる


無鉄砲にも自分に攻撃をしかけ、全力でぶつかってきたAnye

(ククッ…怪我してばかりだったな)


ログハウスで抱きしめた時のAnye

(緑色のワンピースも、悪くなかったけどな…)


それから、屋敷で暮らすようになってからのAnye

(…さすがは、雷神界の姫君…)


新しい綺麗な衣を与えれば、より美しく輝きを増していく


扉をノックすると、姿を現した部屋の主

「…!…」


「失礼するぞ。吾輩もシャワーを浴びてきた。

湯冷めのお茶を用意したから、お前も一緒に、どうだ?」


「…あ、すみません。ありがとうございます…////」


そう言って、部屋から出ようとするAnyeを押し止める


「そんな無防備な姿で出歩くな。」


「!…も、申し訳ありません…////お見苦しいところを…」

真っ赤になって俯くAnye


「いや…だから、そうではない。

この部屋にはシャワールームがないからな…」


女性としてあるまじき行為と指摘されたと思い込むAnyeに

すかさずフォローを入れながら、部屋の中を見回すイザマーレ




「今日は、この部屋で過ごせば良かろう?それから…」


そっと引き寄せ、優しく抱きしめる


「これからは、吾輩のプライベートルームで過ごせ。

それならシャワールームも完備しているから、

問題は解消されるだろ」


「!!…え…」


思いがけない言葉に戸惑い、見上げるAnyeの口唇に

イザマーレの口唇が重なる


胸が高まり、目をギュッと瞑るAnye

そんなAnyeの髪を撫で、微笑むイザマーレ


「これまでのように、お前の気持ちを踏みにじってまで

無理強いはしない。とって食ったりもしないから…」


「!/////」


その時


「イザマーレ。お茶を持って来たぞ」


「おや、ウエスターレンか…」


「1階で使用魔たちが慌てふためいていたぞ(笑)

お前らの邪魔にならんよう、

タイミングに悩んでいたようだから、代わりに持ってきてやった♪」


「ウエスターレン長官、お帰りなさいませ…お茶も、わざわざ

ありがとうございます////」


扉越しに顔をひょこっと出し、礼を伝えるAnye




「どういたしまして♪俺も、イザマーレの意見に賛成だ。

この部屋は、ゆくゆくは俺の根城にしたいと思ってな。

イザマーレ、どうだ?」


「そうだな。公務の効率を考えると、その方が格段に楽だな」

ウエスターレンの提案に異存はなく、即決して承諾するイザマーレ


「…ま、そんなわけで。今日の所は、俺の他には誰も来ない。

安心して良いぞ♪」


目を細めて目配せし、ニヤッと笑いながら部屋を後にするウエスターレン


「…………////」


改めて2魔になり、見つめ合う


「やはり…このお部屋は、元々、

ウエスターレン長官がご使用になっていたんですね?」


「! そうだ。気がついていたか?」


「ええ…少し、オーラが残ってましたから」


「なるほどな…」


「?」


「襲撃して来た時も、精度が高くて感心していた。

オーラを元に割り出していたのか…」


「!…で、でも!全然ダメだったじゃないですか…💦」


イザマーレの言葉に、Anyeは口を尖らせ

魔力入門書を取り出して確認し始める

「何回やってもダメでしたもん……(´・ω・`)」




「(笑)仕方ない。教えてやろう

お前は何時だって正しかった。数値も間違いなく

入力出来ていた。そのお前の軌道を吾輩が僅かに反らしていた。

それだけの事だ🎶」


「!!!」


解き明かしてみれば、簡単過ぎる秘密に

打ちのめされつつ、それでも腑に落ちないAnye


「シレッと簡単なように仰るけど…予備動作もなく

また、ぜんぜん違う場所に飛ばして命を奪うことも

容易く出来るはずなのに……ずるいなあ……」


「(笑)だが今は、もうそんな事を気にする必要はないだろ?

まあ…お前が追いかけっこを楽しみたいというなら

いくらでも付き合ってやるが……」


「(´∀`*)ウフフ…」

楽しげに微笑みながら、首を横に振るAnye

いつの間にやら緊張も解れ穏やかな空気に包まれながら

ベッドに腰掛け、ウエスターレンが持ってきたお茶で喉を潤す2魔


「…何もしないって…本当に?」


「…えっ」


暫くして問いかけてきたAnyeに、思わず聞き返すイザマーレ


「…やはり…私はお子ちゃま……だから?////」


「なっ…何言ってるのだ、そんなわけないだろ💦」

今度はイザマーレが狼狽し始める。だが…




「…! あ?まさか、お前…」


ある事に思い至り、驚いて見つめると

恥ずかしそうに俯いたままのAnye


「…全部…覚えてます。悲しいくらい冷静に

全てのことをインプットしてましたから……」


「Anye…」


出会った時のことを思い出しながら

イザマーレは優しく抱きしめる


「…これからは、お前だけで抱え込むのはよせ。

心配事や不安があれば、遠慮なく吾輩を頼れ。良いな…?」


「…イザマーレ閣下…」


静かに見つめ合う

Anyeの瞳に宿る光に微笑み、口づけを交わす……





そのままAnyeに寄り添い、夜明けを迎えた


「…ん…」


「Anye、目覚めたか…?」


腕の中で目を覚ましたAnyeに呼びかけるイザマーレ


「あ…はい////おはようございます…」

恥ずかしそうに顔を赤くするAnyeに微笑み、髪をポンと撫でる


ベッドから抜け出し、手早く衣服を身に纏い、仕度を整えるAnyeを

静かに見守るイザマーレ



「…約束どおり、今日からは吾輩の部屋で過ごせ。良いな?」


「お気遣い、ありがとう…お世話になります…////」

俯きがちに呟いて、ペコリと頭を下げるAnye


「よし。おいで、Anye」


そのままAnyeをプライベートルームへ連れて行き、

執務の準備のため、身支度を整えるイザマーレ


「昼間も、ここで自由に過ごして構わない。

使用魔にも伝えておくから、心配するな。」


「……」


返事をしないAnyeに、振り返ると

ソファにちょこんと座り込み、

手にしていた魔力入門書を夢中で読み込んでいた


(…ふっ…相変わらずだな…)




心の奥で呟き、ため息がちにほくそ笑みながら

部屋を出て行くイザマーレ


リビングで手早く朝食をとりながら、ウエスターレンと談笑する


「あの調子なら、頼まなくても、日が暮れるまで読み込んでいるだろうな♪」


「そうだな…だが、どうだろう…そんなに好きなら、いっその事

学ばせてやったらどうかと…」


「なるほど。では、編入させるにふさわしい学園を選ばなければな♪」




🌷ラディアとAnye Fin.🌷



 
 
 

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