嵐が丘
- RICOH RICOH
- 2024年11月26日
- 読了時間: 7分
リニューアルされたばかりの魔界美術館の前に
豪華な馬車が横付けされる
紅蓮の悪魔がピッタリと張り付き、厳重な警備体制の元
馬車から姿を現した、黄金の怒髪天
緋色のあでやかなジャケット。肩には黒のタッセル
ボトムはシックな黒だが、華やかに刺繍された紋章が
厳かなオーラを引き立てる
その立ち姿だけで風さえも動きを止め、酔いしれる
続いて降車するAnye
薄紫色のシンプルなフォーマルワンピース
裾がゆったりとした、エレガントな装い
髪に百合の花飾りが映える
やがて闇のオーラが出現し、ダンケルが降臨する
イザマーレが頭を下げ、大魔王を出迎える
「陛下。滞りなく準備は終えております」
「うむ、ご苦労。そう言えば、お前に会うのも久しぶりだな」
律義なイザマーレに対し、心底嬉しそうに笑いながら
隣に控えるAnyeにも気さくに声をかける
「ダンケル陛下…その節は、お世話になりました」
礼儀正しくお辞儀をするAnye
「私が考案し手掛けた自信作だ。ようやくお披露目となったな。
セレモニーの後は、お前たちも存分に楽しんで行ってくれ給え♪」
そう言いながら、赤カーペットの上を優雅に歩いていく
王宮専属の音楽隊によりファンファーレが鳴り響く中
建物の入り口に大魔王と副大魔王が並び立つ
たくさんのフラッシュが焚かれる中、運ばれてきた鋏を手に取り
高々と掲げる
ダンケルの動きに合わせ、
一緒に目の前のテープに鋏を入れるイザマーレ
参列していた貴族魔たちから沸き起こる拍手
Anyeもその列に加わり、
魔界のツートップ2魔のやり取りを、興味深く眺めていた
……
こけら落としのセレモニーは順調に終わり、
各々、美術館の中に入っていく貴族魔たち
受付に設置された記帳台を見つけ、ワクワクしながら
自分の名前を書き込むAnye
(わーい、一番乗りね☆彡)
「Anye…いや、今日は書かなくても…
正式に招待されているのだから、要らないんだぞ?」
「えっ💦そうですけど…せっかく用意されてるのですから…」
すかさずイザマーレがツッコミを入れるが、腑に落ちないAnye
「はいはい。ここに来た記念にもなって、良かったな」
真面目過ぎるAnye。おちゃめな彼女の様子を
満足そうに眺め、髪を撫でるイザマーレ
傍で見ていたウエスターレンも、笑いを堪えていた
美術館の入口すぐのところに、壁一面に刻まれた壁画
イザマーレと一緒にAnyeが一歩、足を踏み入れた途端
光と花の来訪を待ちわびていた壁画が覚醒し
自らの意思で刻まれた物語を立体的に再生させる
「……!!」
目の前で繰り広げられる光景に圧倒され、
全てを全身で受け止めているAnye
その隣で、真剣なまなざしで遥かなる未来を見据えるイザマーレ
「Anye…奥も見てみようか」
「…あ、はい…」
イザマーレの声にハッとして、一緒に奥へと進んでいくAnye
主役たちが通り過ぎた後、壁画は元の姿に戻り
来場者たちを静かに見守る
大魔王の即位から、魔界の歴史……
進んでいくにつれて、全てが堪能できる見事な作りになっていた
これまで、魔界図書館に足蹴く通い、興味深く読み漁っていたAnye
書物を読んで、想像を膨らませていた世界が具現化された景色に
目を奪われ、ひとつひとつ、丁寧に鑑賞していく
酒池肉林、強奪、愛欲……
悪魔の爪に引き裂かれ、生贄に処される魔女
美しく散り果てた魂を胸に抱き、滴る血の海を貪る残虐な宴
断頭台に送られる、数多くの犯罪者
悪魔という生を受けた以上、避けて通れない残酷さを象徴する絵画
その壮大な物語を、感慨深い面持ちでじっくりと味わうAnye
「怖いか?Anye」
怖がり逃げ出そうとしても、許すつもりはなかったが
敢えて問いかけるイザマーレに振り向き、キョトンと首を傾げる
「怖い…?何故ですか?」
「いや、誰でも普通は思うだろ。
こんなシーンばかりクローズアップさせれば」
半ば、自虐的にため息をつくイザマーレ
Anyeは微笑み、改めて絵画に目を向ける
「確かに…展示品ですし、それらを誇張させるのは仕方ないですよね。
それに、実際はこれらの作品以上にもっと残酷で、
容赦ないことも、分かっています。
私は全て、身を以て体験しているもの……♪」
「……」
「そして……もう私は、多くの事を知っているの。
貴方達悪魔は、何の理由もなくこれらの行為を犯すわけではない。
明確な意思の元、お互いを理解し合う強固な絆により
紡ぎ出される強大な力で森羅万象をも司る、
類まれなる戦士なのだと……」
率直に、素直な気持ちを伝えるAnyeに
心の憂いが軽くなるのを感じながら、イザマーレは静かに微笑み
繋いでいる手を、もう一度握りしめる
ふきぬけになっている廊下に出ると、
ひときわ観衆でにぎわう一角に気がつく
一面クリスタルの壁、中央に、美しく飾られた翼……
「これ……まさか、ラディアの……」
横に据え置かれた説明書を読み、じっくりと見つめるAnye
「…真実とは…こんな風に、いつでも恣意的に捻じ曲げられ
闇に葬られる。こんな事も、吾輩にとっては日常茶飯事だ。
だが、それを恥とも思わない。
お前の仲間を痛みつけ、残酷な仕打ちをした事は確かだからな。
Anye、こんな吾輩が憎いか?」
イザマーレの問い掛けに、静かに微笑み、改めて
美しく煌めく翼を眺めるAnye
「…親友が、聞いて呆れると思われるかもしれないけれど…」
そう言い置いて、話し始める
「ラディアの背中に生えていた、この翼を見る度に
怖くて仕方がなかったの。
ラディアの周りを取り巻いていたフェアリーたちも
そのオーラは邪悪なものしか感じられなくて…」
「……」
「いつか、恐ろしい事態を招くのではないか……そう思っていながら
彼女を止める事が出来なかった。
そうこうしている内に、貴方が目の前に現れたの」
真っ白に光を放つ翼を見上げ、在りし日の風景を思い浮かべるAnye
イザマーレはその景色を見ながら、Anyeの告白を聞き続けている
「どうにかして、ラディアの翼を引き剥がしたい……でも
彼女を傷つけずにどうやって……?そんな風に考えあぐねていたのは
私の方なのよ」
「なるほどな…」
イザマーレは、その時のAnyeの事を、今でもハッキリと覚えていた
「たしかにな…あの時のお前に、一族に対しての恨みを感じる事はなかった
やはり、そういう事だったか……」
「いつまでも煮え切らず、躊躇ってばかりいた私の目の前で
いとも簡単に引き剥がして見せた…そんな貴方に対して
怒りよりも、憧れを抱いた…ラディアから嫌われるのも、当然よね」
自嘲的に笑みを浮かべ、振り向いて歩き出そうとしたAnyeの手をとり
引き寄せて耳元で囁くイザマーレ
「サラッと重大な告白をしておきながら、
吾輩の質問には全く答えていないぞ」
「え…あ!…///////」
ハッと我に返り、恥ずかしそうに俯くAnye
「だから…それはもう、伝えたじゃない。
誰かを憎み続けるのは、苦手なの…」
「(笑)…そうだったな」
フッと笑うイザマーレ
「たくさんの出来事や、邪念をすべて取り払った時、
私の心に残っていたのは、貴方に対する憧れの気持ち、それだけだったの」
「……」
「だから、好きになったのは、私の方がずっと先です。
会長には負けないんだから(*´艸`*)」
「…Anye…」
くるっと表情を変え、おどけて見せるAnyeに
イザマーレも穏やかに微笑み、抱きしめる
「…そんな勝負に何の意味がある?どうせなら
どちらがより強く、愛し続けるか…そんな毎日にしていかないか?」
「…え…」
「夫婦になろう。Anye。吾輩の妻となり、笑顔の花を咲かせてくれ
これからもずっと、永遠にな…」
「…!!…///////」
顔を真っ赤に染め、ボーっとするAnye
顎に手を添え、顔を近づけ微笑むイザマーレ
「Anye、返事は?」
「…ハッ…え、えっと…あ、あの…っ…///////」
ハッと我に返り、慌てて挙動不審になるAnyeの口唇を塞ぎ
そっと離す
「返事は『はい』だ。それ以外、認めない。分かったな…」
優しく抱きしめ、再び深く口づけ合う
後日、情報局監修の情報誌が刊行された
「副大魔王、ついに婚約!!お相手は噂の彼女!!」
「思い出深いモニュメントの前で、渾身のプロポーズ!!」
「婚約者の就学に合わせ、正式な婚礼の儀は…」 etc
嵐が丘にある魔界美術館が人気のデートスポットとして話題を呼び
多くの来場者でにぎわいを見せることになる
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