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罠と蜜


悪魔の物差しで眺めれば…


公設秘書シリーズ、完結となります




さて、魔界の年中行事とも言える

副大魔王妃の地方行脚を終えてから数か月…


その間も、ベロチーバの態度が軟化する事はなく

領地内の悪魔達からは、矢継ぎ早に陳情が届く


ただ、あまりにも頻度が多いのと、

彼らにとっては、数少ないリリエルとの交流の場が

途絶える事を危惧しているだけなのだ


電子メールのやり取りでは、さすがに迷惑だろうと察する彼ら

行脚ツアーに毎回のように同行してくる低級魔たちに

手書きの陳情書を託すようになった


どんな些細な理由でも、リリエルの傍に近づけるのであれば

快く引き受ける低級魔たち


いつの間にか、専用の郵便配達魔となり果てていた

そんな光景が日常になっていた頃


苺と一緒に植えたみかんの苗木が芽吹き、

間もなく花を咲かせようとしていた

ベロチーバの厳しい監視の中、みかんの苗木を見れば

数か月前の楽しい時間がよみがえる


「あの時は、何だか楽しかったよな…」

「また来てくれないかな、お妃様…」


「馬鹿野郎、お忙しいんだ。

そう毎回呼びつけるのも悪いじゃねーか」


「…なんだよ、お前は会えなくても良いってのかよ」

「そ、そんな事言ってねーよ」


「あんなスゲー奴らが、わんさかいるのか、王都ってやつは」




イザマーレをはじめ、最高魔軍の揃い踏みを

初めて目の当たりにした彼ら

少しだけ、中央への憧れも抱き始めたのかもしれない


「なあ、お妃様がお忙しくて来れねーっていうなら、

俺たちが会いに行っても良いんじゃねーか?」


「!!」


「この苗木の一部を持ってよ。綺麗に咲いた花を見たら

きっと喜んでくれるに違いねーよ」


そんな彼らの会話を耳にした低級魔たち


「おう!お前ら、良いこと言うな♪それなら王都まで案内してやるよ。

早速行こうぜ。着いてきな♪」


というわけで、

今度は低級魔と領地内の悪魔達による王都への遠足が始まる…


プエブロドラドの近辺に到着し、宴会を始めてしまう彼ら


住民たちは、周囲の物々しい雰囲気に戦々恐々となっている


噂を聞きつけたLily‘sたちも、誘い合わせて様子を見に来る


「…ま、毎回思うけど、よく、あんな怖い形態をした悪魔達と

普通に会話するよね、ダイヤちゃんも…」


「うんうん、リリエル様がいる時だけは機嫌が良さそうだけどね💦」


その時、片隅に置かれたG ホイホイを踏みつぶしてしまう


「………あ…」

目の前で潰されたホイホイに、改めて震えて固まるLily‘s




一方、領地内の悪魔によるトラブルを察知したベロチーバは

慌てて駆けつける


「領地内のルールは、私が決めたルールだ。だが

領地を離れ、王都に向かえば、それは適用外だろう。

こいつらの監督責任は私だ。すまない…」


「…領主様…」


「おらっボサッとしてないで帰るぞ!!お前ら…

散らかしたゴミは、きちんと持ってこい。

分かってんだろうなあ!!

何度お前らの尻拭いをしてると思ってやがるんだ!!

そんなに暇なら、さらに重労働を課してやろうなあ。

分かったか―!!」


領地に帰る道すがら、

悪魔達に怒鳴り散らすベロチーバ


引率されてスゴスゴと移動する悪魔達


(おい、また来ような…♪)


そんな事を囁きながら………


一部始終を見届けたLily‘s


「はあ…💦凄かったね(^-^;」


「…ま、まあ…仕方ないよ。ホイホイなら、

リリエルちゃんが何個も出してくれてたから、まだあるしね」


そう言って、粛々と 2 個目のホイホイを設置する




さて。

そんな些細な事に懲りるわけない、領地の悪魔達

その後も度々、王都を訪れては

プエブロドラド近辺で低級魔たちと宴会を繰り広げる


片隅に毎度置かれているホイホイに、興味津々になり

酔った勢いで、ホイホイ内の探検を始める


「なんだ…都会にある秘密の場所っていうからよお、

覗いてみたが、なんもねえな」


「なんか壁に書いてたけどな。あんな嘘書いてどうすんだろな」


「俺たちの領地で領主様の事をあんな風に書いてみろ。

末代まで呪われっぞ」


「…そうだよなあ💦」


「なんだ、つまらんな………グシャッ」


「あ!!おい……💦」


「あ、わりい💦ついうっかり、握り潰しちゃったな(^-^;」


「もー!!勘弁してくださいよ、何個目??」

見回りに来たダイヤが苛立ちながら、新しいホイホイを設置する


「なあ、ウニ。お前、ちょっと前からその変なの置いてるけど、何なの?」


「アンタらには関係ない…んだけどね。

肝心の奴らは、なかなか捕らえられなくて…」


「ん?なんだ、何かを捕まえるために置いてんのか。」

「へえ…中にいる人間ねえ…」




「なになに…え、そんな大それたものだったの?

気づかずに踏んじまってごめんな」


「俺たち、お前ら人間に手を出しちゃいけないって

散々言われてきたけど…

でも、その人間を捕まえたら、褒めてもらえるのか?」


「お妃様も?喜んでくれる?…マジ?」


「魔力は使っちゃダメなんだな。この変なのに誘い込むだけって事か…」

「へえ…妙ちくりんだけど、上手く行くといいな。頑張れよ、ウニ」


そんなダイヤと低級魔たちのやり取りを、ぼんやりと眺めていた

領地悪魔たちの元に、再び慌てて駆けつけてきたベロチーバ


「お前ら!!性懲りもなく………」


「あ、領主様!! なあ、捕まえるなら何か罠を仕掛けたらどうだ?

なんか、良いのないかな」


「…はあ?」

青筋を立てながらも、その場に居合わせた悪魔たちの言葉と

ダイヤの足元に置かれたホイホイを睨み付けるベロチーバ


「…縄張り外の事だ。私には関係ない事だな。

おらっいいから帰るぞ!! 分かってんだろうなあ!!!」


ホイホイの事については何も触れず

悪魔達に怒鳴りつけながら、引き上げていくベロチーバ


「一番良いのは、なにか餌を置く事じゃねーか?」

「お前、賢いな!! そうだよな…」


連れ戻されながら、好き勝手に呟く悪魔達




「黙ってついて来い!!

お前ら、相当の覚悟はできてるんだろうなあ!!」


怒号が飛び交い、噴煙をまき散らしながら

スタスタと移動していくベロチーバ


領地内に戻ると、すかさず特定の場所に向かうベロチーバ

不思議に思い、首を傾げながらも黙って従う悪魔達


ベロチーバは立ち止まり、腕を組みながら

不敵の笑みを浮かべ振り返る


「今回の罰を言い渡す。この果実を摘み取り、

今夜中にでも王都に届けてやれ。

太古の昔から言い伝えられている“アダムの林檎”さ。

甘い蜜の香りに、罪深い人間などイチコロだろう。」


………!!………


「私が指図するからには、失敗は許さない。

これで少しはあの小娘に借りも返せるからな!!分かったか!!」


その頃、プエブロドラド近辺で

ハルミちゃんの散歩に来ていたプルーニャに低級魔たちが声をかける


「あ、お前。この前、お妃様と一緒に遊びに行った奴だよな」


「!…あ、は、はい。楽しかったですね。ありがとうございました♪」


「良い事、教えてやろうか。領地の奴らの噂を聞いたんだけどよ

お前らが仕込んでる、あの変なのに仕掛ける餌を、

あのベロチーバが作ってるみたいだぞ」


「!!…え?」


「俺たちも、そろそろまた顔見せに行くんだが…

お前は俺たちを怖がらないみたいだし…連れて行ってやろうか?」


「!!! 是非!! お願いしますっ ハーちゃん、行こう♪(≧∇≦)」




こうして、低級魔たちと一緒に、

ベロチーバの領地へ向かったプルーニャ


「お前…何しに来た!!お前は人間だろ?

小娘~あんにゃろ、何してやがる!!」


「安心してください。私は自分で来たのです。

ベロチーバ様にお会いしたくて」


「はあ?」


「私たちの為に、力を貸してくださるなんて!!

ありがとうございます!!!ベロチーバ様!!」


「///////な、なんだよ、お前たちの為な訳ないだろ!!

これは、私のルールでやってるだけだ!!!!」


何を言われても、嬉しくて仕方ないプルーニャは

ニコニコと笑顔のままだ


そこへ、プルーニャを迎えに、セルダが現れる


「あ!代官♪ そうや、ひとつお願いしてもいいですかね」


そう言いながら、こっそり内緒話をするプルーニャに

セルダはにこやかに笑う


「しゃーないね。俺しかおらんけど…♪」

そう言いながら、ある曲のイントロを奏で始める


「おいっ そこのお前!!私の領地でギターなんか弾くな!!

何度言えば分かるんだ!!!」


怒鳴りつけるベロチーバに歩み寄り、にっこり耳打ちするプルーニャ


「うふふ…♪これ、実は『アダムの林檎』っていう曲なんですよ!!

ベロチーバ様の育ててくれる林檎が、間違いなく美味しく実りますように♪」


「…!…そ、そうだったのか…///////」




真っ赤になったのを誤魔化すように、せっせと作業を進めるベロチーバ


悪魔達は、数か月前の奇蹟の時間を思い起こし

お互いに目配せしながら、ベロチーバに従い、笑顔で持ち場に当たる


「あれ~、セルダ。何してんの~?」


しばらくすると、雷雲に乗り、空中散歩をしていたラァードルが

雲の上から稲妻を轟かせ、リズムよくドラムを鳴り響かせる


一緒に乗っていたスプネリアも、

プルーニャと一緒にノリノリになって眺めている


「…あの脚の長いのは、来ないのか(ボソッ)」

知らないふりをしながら、ボソッと呟くベロチーバ


豊かに実った「アダムの林檎」を手に

プルーニャを肩ぐるましながら、王都へ向かう悪魔達


目を丸くして、出迎えるLily‘sたち


「アダムの林檎」を罠に仕掛けたホイホイ

肝心な犯人たちより、純粋に入り込む信者で溢れ

慌てて止めに入る低級魔たち


王都に来る度に、捕まった奴がいるか

楽しみで覗き込む領地の悪魔達


実は、「本物」の怖い悪魔の実体を

これでもかと見せつけられた犯人たちは

己の器の小ささを嫌という程思い知らされ、

敢えて逆らう気など、消滅していたのだ


だが、いつ新たな「迷惑モノ」が現れてもいいように

ホイホイの補充がなくなるまで、見慣れた光景になっていく…




🍎罠と蜜 Fin.🍎

公設秘書の目安箱シリーズ 終





 
 
 

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