top of page

大樹の思念


かつて…


天界の神は、各界に生まれた女性を

自らの元に差し出させる取り決めを交わしていた


ある時、雷神界の皇帝夫妻の元で生み落とされた一粒種

愛情に溢れた夫妻の元で、すくすくと魔法を覚え

化身してみると、可愛らしい愛嬌たっぷりの女の子


元々、天界の動きに賛同できかね、注視していた皇帝は

女の子を守る為、花の姿に戻し、妃の生まれた故郷に預けた


多くの草花に囲まれ、心豊かに育っていく彼女

水瓶の傍で女の姿に戻り、沐浴をしていた


背後から舌なめずりしながら忍び寄る蟲に襲われ

驚きの余り、激しく動悸した


「…?」


静かになった気配に、不思議に思い

怯えて瞑っていた目を開くと、信じられない光景が映り込む


仰向けになり絶命している蟲を

周囲の草花が取り囲み、自らの肥やしにするべく引きずり込む

蟲は憐れにも引き裂かれ、粉々になり消滅していく


草花は、元の穏やかな空気に戻り、Anyeを優しく見守り続けるのだ


だが、そんな平和な日々も長くは続かなかった

その土地でシンボルのように生繁っていた柿の木が

偶然通りかかった天使によって燃やされたのだ


自然界の連鎖が破壊され、枯れ果てていく草花たちは

Anyeを守る為、自分たちの全てを捧げ、命尽きていく




枯れていく柿の木

朽ち果てていく草花

摩擦で焦げ付き、息絶え絶えの天使……


あまりの衝撃に自我を忘れ、トランス状態に陥ったAnyeは

胸の鼓動に突き動かされ、謡を紡ぎ出す


母なる大地の懐に

全てを受け入れ 生命を育む偉大な土に感謝せよ

大地を愛せよ 誉めよ 讃えよ……


Anyeの謡に 風がそよぐ

雨雲を引き寄せ、雷が鳴り響く

生命はめぐり 瞬く間に再生させていく


「…Anye…」


名を呼ばれ、我に返り、瞑っていた目を開くと

柔らかな羽を持つフェアリーに化身した草花たち

青い葉を生い茂らせ、息を吹き返した柿の木

そして…


白い羽根に鋭気を与えられ、ゆっくりと目を覚ます天使……


「…大丈夫?…貴女、お名前は…?」


そっと声をかけるAnyeに、ハッとして起き上がり

辺りを見回しながら、矢を構える天使


その時、強い光に覆い尽くされ 目を眩ませる

やがて再び目を開いた時、純粋無垢な笑顔を向ける


「私はラディア。貴女の親友になってあげる。よろしくね」


「……」


羽搏きもせず、天界へ向かう事さえ忘れているラディアに

違和感を覚えながらも微笑み、手を差し伸べるAnye



全ては…


常にAnyeを執拗につけ狙う天界の神が

巧妙に仕組んでいた企みだったのだ


思わぬ誤算は、Anyeの無償の愛の力により

潜伏させたラディアが記憶を失った事…


それでも、Anyeに対する屈折した劣等感から

激高する感情に流され、容易に自分自身を見失うラディア

諮らずも天界の意図する通りの筋書きが動き出す…


全てを知っていたのは…

唯一、Anyeの傍に在り続けた柿の木のみ…


Anyeの背負い続けた哀しみ、耐えがたい孤独に

堪えていた感情が葉を茂らせ、幹に涙の水を吸い上げさせる

陽が昇るごとに草木を湿らす朝露は…

Anyeが夜ごと流し続けた涙…


あの日、突然、花の元に舞い降りた黄金の雄鶏こそ、

無償の愛を解き放つための光の道標…


絶望の謡に背き、Anyeを突き放した柿の木の思念が

実を結ぼうとしていた…



🌷前編 Fin.🌷



 
 
 

最新記事

すべて表示
校長のサロン

「理栄先生!!本当ですか…!!」 噂を聞きつけたスプネリアとリリア、ムーランの3名が駆けつけると 同じように見に来ていたプルーニャ、ダイヤと出くわす 「あら?早速、いらっしゃったわね♪お疲れ様です♪」 理栄がニコニコと微笑んで出迎える...

 
 
 
魔鏡学園

「イザマーレ、お帰り…っておい」 副理事長室で待ち構えていた守衛ウエスターレンが、一瞬固まる 「…浮気か?」 ニヤッと目を細めるウエスターレン 「ウエスターレン…馬鹿な事を言うな」 言葉とは裏腹に、静かに笑みを浮かべるイザマーレ 「あ、あの…」...

 
 
 
交錯

生徒会室で眼光鋭くモニターチェックしながら 紫煙を燻らせていたウエスターレン 突如、一番手前にあるモニターが光を放ち、画面にノイズが走る すらっとした指先を巧みに動かし、相手からのメッセージを受け取る 「…マジか。了解した。」 軍服を着こみ、すぐさま部屋を後にする …………...

 
 
 

コメント


©2022 by 里好。Wix.com で作成されました。

bottom of page