top of page

屋敷のある日


秋の夜長シリーズ Ⅱ


非日常…それはいつでも、奇蹟への道標…




魔界―


ある日、副大魔王イザマーレの屋敷に訪れた珍客

1階のリリエルの部屋の隣にある、小さなドア

中は地下に続く螺旋階段があるだけ…

その階段を登って、品の良い面立ちの男が姿を現した


リビングのソファで待ち構えていたのは、屋敷の主。


「お待たせいたしました。お呼びでしょうか、イザマーレ様」


「ご苦労。わざわざ手間をかけさせて、すまないな」


イザマーレの律儀な言葉に、ますます恐縮する


「いえいえ💦 とんでもございません。こうして再び

イザマーレ様からご用命を申しつけられるとは…

身に余る光栄です」


「…お、ようやく来たか。ランソフ」


そこへ、2階から降りてきたウエスターレンが気さくに声をかける


「こうなってしまうと、さすがに魔の手不足過ぎるからな(笑)

よろしく頼むな」


「…かしこまりました。リリエル様のご容態は如何ですか?」


「魔力で強制的に眠らせてる。何を言っても

頑なに休もうとしないからな」


屋敷の紅一点、リリエルは今、

真っ赤な顔で寝込んでいた

寝息も荒く、息苦しそうにしている




……


事の経緯はこうだ。


数日前に遡る。

いつものように、穏やかな朝を迎えた屋敷

その日はイザマーレが人間界でレギュラー出演している

TV番組の収録日だった


キッチンで珈琲を淹れるリリエルを抱きしめ

髪を撫でるイザマーレ


「リリエル、今日は珈琲にミルクを入れてくれないか」


「!?…あっ、わかりました🎶 少しお待ちくださいませ💕」

珍しすぎるオーダーに驚くが、とりあえず

言われた通り、ミルクを用意するリリエル


「よろしくな💕」

軽くキスをして、リビングに向かうイザマーレ


「……」

リリエルは少し気がかりな表情で見送る

触れた口唇が、いつもより少し熱かったのだ


リビングで朝食を食べる間のイザマーレは

いつもと何ら変わらない


秒刻みでその日のスケジュールを把握し

後は、侍従のお迎えを待つだけ……


だが…


「今日はやけに、空調が効きすぎてるな。

昨夜寝違えたのか、身体の節々が痛いんだよな」




そんな事を呟くイザマーレの異変にウエスターレンも気がついた


「…イザマーレ。この屋敷に空調などあるか。

すべて、お前のオーラでコントロールしてるだろう」


「えっ💦そ、そう言えば、そうだな(笑)」


「お前、昨夜もちゃんとリリエルを抱いて寝たのか?」


「///そ、そうだが……」


「それなら『寝違えた』は有り得ないな。リリエル、昨夜

こいつはちゃんと寝てたのか?」


「そう言えば…一度寄り添って頂いた後、

お部屋にあるPCでお仕事をなさってました…」


気づかれていたのかと焦るイザマーレ

「リリエル💦す、すまんな。最高魔軍の活動も始まるので

いつも以上に仕事が終わらんのでな💦💦💦」


「汗をかき、半裸の状態でか…?」

そんなイザマーレにスっと近寄る影

「!!……ウエスターレン💦///」


慌てるイザマーレの額に、自分の額をくっつけるウエスターレン

その目つきがいつも以上に鋭いように感じるのは気のせいか…


「リリエル。体温計を持ってこい」

「こちらです。どうぞ」

すかさず体温計を差し出すリリエル


ピピピ…


「38度。(´-д-)-3 しっかり発熱してやがるな?」




「💦💦💦えっと…だ、大丈夫だ

その体温計、壊れてないか?(^_^;」


往生際悪く、生放送の欠席だけは避けたいと抗うイザマーレ

そんなイザマーレの言葉には耳を貸さず

淡々と悪魔軍に目玉蝙蝠を飛ばし、

イザマーレの公欠を申し伝えるリリエル


「閣下💕何も心配なさらないで、今日はゆっくりお休み下さい。」


にっこり笑顔ではあるが

反論は許さないという凄みのある表情で

リリエルに見つめられ、ようやく観念するイザマーレだった


さて。


自分に与えられた職務に関しては

並大抵ではない責任感と強い信念を持ち続ける

副大魔王……


発熱のダルさより、周囲に与える影響の大きさと信者に与える打撃

それを深慮しすぎて、誰よりもその心を痛めるのだ


何を言っても、PC仕事だけは続けようとする

イザマーレの性格など、知り尽くしているウエスターレンは

魔力でベッドに縛り付け、ベルデに調合してもらった

千年香妃花を煎じて飲ませる

あまりの不味さに、さすがのイザマーレも思わずむせて、心が萎える


「よし。ちゃんと飲んだな。あとは今日1日、部屋から外出禁止!!

俺もリリエルも傍にいるから、安心して休め。分かったな?」


「……すまないな」

その頃になると、さすがに倦怠感が増してきたのか

大人しく布団に包まるイザマーレ…





どれだけ時間が過ぎたのだろう……

目を覚ましたイザマーレ

ゆっくり眠れたからか、ダルさは随分、解消されていた


「閣下💕よく眠れましたか?

お口直しに、白桃ゼリーお持ちしましたよ💕」


イザマーレの様子に気がついたリリエルが

ガラスのお皿を持ってベッドサイドに行く


「…リリエル、すまなかったな。だいぶ、楽になったぞ」


「良かった(*^_^*) でもまだ、少し安静になさってくださいね。」


そう言いながら、イザマーレの寝間着を着替えさせる

熱を計ってる間に、全身の汗を軽く拭き取っていく

「…37.2度。だいぶ下がったな」


安心したように、白桃ゼリーを食べて

少し嬉しそうなイザマーレ


少し胃の中が満たされた途端、

節制した別の食欲が湧き上がる


「…しかし、久しぶりの熱のせいか、身体中バキバキだ💦

リリエル、按摩してくれないか?」


「勿論ですよ💕喜んで💕💕💕」



上半身を肌けた状態で、愛する妻からの按摩

少し振り向けば、可愛らしい薄ピンクの口唇………

堪らず重ね合わせ、舌を絡めていた……




そのまま、翌朝を迎えた時

患者がすっかり入れ替わっていた


まんまとイザマーレの風邪をうつされ

より重い症状ながら、いつも通り

家事をこなそうとするリリエル


だがやはり、そんなリリエルの囁かな抵抗は

すぐに見抜かれ、魔力で無理やり寝かしつけられた


少しでも、リリエルの気苦労を減らそうと

人間界の屋敷からランソフを呼び寄せたのだ


イザマーレはランソフを連れてプライベートルームへ行き

ベッドで寝ているリリエルに声をかける


「リリエル。ランソフを呼び出したぞ。

何も心配はいらないから、ゆっくり休め」


「…ランソフ。見苦しい姿でごめんなさいね

でも、来てくださってありがとう💕」


「リリエル様…お任せくださいませ。

あとでよく冷えたシャーベットをお持ちしましょうね」


「!!オレンジのシャーベットね🍊💕楽しみ(*^^*)」



熱の割に、元気そうな姿のリリエルを見て安心しつつ

イザマーレをチラッと見遣りほくそ笑むランソフ


「イザマーレ様、王子様のキスの効き目は抜群のようですな💕

ですが、無理は禁物ですから…今日はお2魔様とも

ずっとお部屋でゆっくりなさってくださいませ。では…」




頭を下げて、ランソフは部屋から出ていき

離れにいる使用魔を呼び寄せた


「さあ。リリエル様の代わりを補うため

魔の手はいくらあっても足りないが、何とか協力を頼むよ」


「かしこまりました。ランソフ殿。

我々はこんな時のために離れに住ませて

もらっているのですから」


そう言いながら、かつての持ち場に散らばっていく

使用魔たち……



手を繋ぎながらぐっすり眠るイザマーレとリリエル

ベットの端に腰を下ろし、イザマーレのさらさらな金髪を

優しく撫でるウエスターレン


あどけない顔で眠るイザマーレを見ていると、

外の騒ぎに気付いた。


「何かあったのか?」


不思議に思い、窓辺に行くと

屋敷の前に大勢の悪魔達が集まっていた。


副大魔王夫妻の体調不良の話は

何故かあっという間に魔界に広がっていたのだ。

それぞれがお見舞いの品を手に、

夫妻への面会を希望していた。


このままでは収まりがつかないと判断したウエスターレンは

直ちに構成員に臨時招集をかける




門のところに机を並べ、お見舞いの受付を始めるバサラとセルダ。


「ちゃんと並ぶんよー!そこ、横入りしない!

閣下達には会わす訳にはいかんから、

目玉蝙蝠にメッセージ入れて欲しいじゃんね」


大声で状況説明をするセルダ。

その横で、メッセージが吹き込まれた目玉蝙蝠に番号をつけ、

魔名と見舞い品を記し、面会希望者のリストを作成するバサラ。


その後ろでは、ベルデとラァードルが見舞い品の仕分けをしていた。


「これは弱ってる2魔には良くないね。ラァードルこれ食べちゃって」


「えっ?吾輩が食っても良いのか。」

戸惑いつつ、嬉しそうなラァードル


「せっかく2魔の為に持ってきてくれたのに

捨てるのはもったいないでしょ。だから食べちゃって。

あ!これも日持ちしないから、ラァードルお願い。

えっと、これもちょっと今は無理かな。セルダとバサラ!

後でこれ食べといてね」


のんびりと声をかけながら仕分け作業を黙々と続けるベルデ


Lily‘sもそれぞれに見舞い品を持ち、屋敷を訪れていた

面会が出来ず、目玉蝙蝠にメッセージを入れるなら…と

いったん、目玉蝙蝠を預かってプエブロドラドまで戻り、

皆で合唱をしてお見舞いのメッセージとした


一方、リリエルが心配でならなかったが、職務を放棄する訳にもいかず

もやもやしながら巡回をしていたダイヤ。


境界の当たりを見回っていると、声をかけられた

「あ!ウニ頭!」

「おーい、ウニ頭がいたぞ」




振り返って見ると、境界付近にワンサカ集まっている低級悪魔達…


「私の名前はウニ頭じゃないわ!何度言えば覚えるのよ、まったく…」


ボヤくダイヤを無視して、低級悪魔達が話しかける


「ウニ頭!お妃様と副大魔王様の具合が良くないんだって?」

「ウニ頭!俺達は何も出来ないけど、早く良くなるように

呪ってると伝えてくれ」


思いがけない言葉に驚くダイヤ


「なぁ、ウニ頭。リリエル様はこんな俺達にも優しくしてくれた。

恩返しがしてぇ」


「だからせめて呪いだけでも伝えてくれ、頼むウニ頭」


話の内容は感動出来るのだが、

言葉の端々に「ウニ頭」と固有名詞が入るため

ダイヤは感動と怒りが入り混じり、苦笑する


「…わかった。あんた達の気持ちはちゃんとリリエル様にお伝えするわ」


喜びの声に包まれる低級悪魔達

その喜びの声を遮るようにダイヤの声が響く


「それから!私の名前はダイヤ!次にウニ頭って呼んだら、

二度とリリエル様には会わせないからね(怒)」


ダイヤの宣言に、黙ってコクコクと頷く低級悪魔達

それを見て満足気な顔で巡回に戻って行った


ようやく任務を終え、ダイヤがイザマーレの屋敷に行くと、

門のところに山のように積まれた見舞いの品

その前に疲れ果てた全構成員の姿




ダイヤに気付いたバサラが声をかける

「あ~。ダイヤちゃん、お疲れ様」


「お疲れ様です…皆さん、大丈夫ですか?」


その言葉に、視線だけ上げたセルダが答える

「めっちゃ疲れたのん。仕事してる方が楽じゃんね」


「吾輩はもう腹いっぱいで限界だよ」


「お腹がいっぱい?え?どういう…

ラァードル殿下がお腹いっぱいって、よっぽどですよね(^-^;」


呆れつつ、不思議そうに首を傾げるダイヤ


「お見舞いの品でも、今の閣下達には良くないものもあったからね。

でも捨てる訳にもいかないでしょ。だからラァードルに食べて貰ったの」


のんびりと話す和尚の言葉に納得していると

屋敷の扉が開いてウエスターレンが出てきた


「皆、お疲れさん。いろいろとありがとな。助かった。

イザマーレとリリエルの体調も良くなった。夕食の準備が出来てる。

2魔からのお礼だそうだ」


イザマーレ夫妻が元気になったと聞いた4魔は

ほっとした顔をして屋敷に入っていく。

その姿を見送っているダイヤにもウエスターレンが声をかける


「ダイヤもお疲れ。今日も低級悪魔達に絡まれて

大変だったみたいだな(笑)すぐにダンケルも来るから、

お前も一緒に来いよ。」


ウエスターレンに促され、

ようやくリリエルに会える喜びにウキウキしながら

屋敷の中に入っていくダイヤ


その後ろではランソフ達がお見舞いの品を屋敷内に運び込んでいた




リビングのテーブルには所狭しと並べられた料理の数々


おお~…と皆一様に感心しながら眺めていると

キッチンの奥からオルドが出てきて、それぞれの席に配り始める


イザマーレとリリエルは、奥のソファに並んで座り

ランソフからの細やかな気配りに、穏やかに対応していた


「美味い!! さすがだね~…」

「疲れたけど、頑張った甲斐があったじゃんね」


「ほんと、めっちゃ美味いわ」

「クスクス…ダイヤちゃん。このメニューなら野菜も難なく

食べれるみたいじゃない」


「( ゚∀ ゚)ハッ!そういえば…そうかも…(笑)」


「これだけの御馳走なら、吾輩も別腹だな♪

ほんと、めっちゃ美味いよ。」


ウエスターレンはイザマーレ達の居るソファーに座って

談笑していた


3魔用の食事をとり分けて、運んできたオルドに

リリエルが嬉しそうに話しかける


「オルド先生…流石ですね。

瞬く間に皆さ魔の舌のとりこになさるなんて

やはり、まだまだ敵わないなあ…」


「本日は、お客様用にお作りしましたから…

イザマーレ様やウエスターレン様の嗜好に合わせ

健康も配慮されながら毎日お作りするのは、本当に大変な事ですよ。

きっとお2魔様も、私の料理より、

リリエル様の回復と手料理を待ち望まれてるはずです」


オルドは柔和な表情でリリエルに応える




「そうだぞ、リリエル。何としても、

お前だけは早く回復してもらわないとな♪」


オルドの言葉を受けて

ウエスターレンもリリエルの髪を撫でる


「はい…ご迷惑をおかけして、申し訳ありません💦」


「ウエスターレン。それではまるで、

リリエルを炊事当番にしか見てないのと一緒だぞ。

たまには良かろう。ゆっくり羽を伸ばす事も必要だ。」


イザマーレも負けずにリリエルを抱き寄せ

惜しみなく髪を撫でる


「ところで、イザマーレ。俺も、お前の事を待ちわびだぞ。

遠慮するな。俺に抱っこされろ♪」


「なっ…///////」


ウエスターレンの思わぬ発言に、

顔を真っ赤にして戸惑うイザマーレ

だが、そんな反応は端から承知の上だ


「一日中、姫君を独り占めしてどんな気分だ?

まさか…俺様が居なくても寂しくない…なんて事は…」


そこまで言われて、焦り出すイザマーレ


「れ、レン…お前にまでうつしてしまっては、申し訳なかろう…?💦」


そんな事を言いながら、

イザマーレの小さな指はウエスターレンの白シャツの裾を

握りしめている


「構わないさ。それでお前と片時も離れずに居れるのならな…💕」

そっと顎に手を添え、口唇を重ねる

「……///////」




リビングに集う、構成員やダイヤの存在も忘れ

繰り広げられる甘~いやり取りに、

半ば呆れ、半ば尊敬しながら、黙って見守る客魔たち


その中で、何食わぬ顔で、いやむしろ、

心から嬉しそうな表情で付き従うランソフとオルド

そして、微熱のせいか、誰よりもうっとりと眺めているリリエル


翌日、

情報局管轄から刊行された雑誌には、

この時の2魔のキスシーンと

普段以上に色っぽい恍惚とした表情のリリエルの写真が

ドアップで掲載された


それから数日間、

副大魔王執務室と情報局は機能不全に陥ったが

魔界中の悪魔は雑誌を夢中で読み漁り、

いつも以上に平穏な空気で溢れかえったという…



🌷屋敷のある日 Fin.🌷





 
 
 

最新記事

すべて表示
校長のサロン

「理栄先生!!本当ですか…!!」 噂を聞きつけたスプネリアとリリア、ムーランの3名が駆けつけると 同じように見に来ていたプルーニャ、ダイヤと出くわす 「あら?早速、いらっしゃったわね♪お疲れ様です♪」 理栄がニコニコと微笑んで出迎える...

 
 
 
魔鏡学園

「イザマーレ、お帰り…っておい」 副理事長室で待ち構えていた守衛ウエスターレンが、一瞬固まる 「…浮気か?」 ニヤッと目を細めるウエスターレン 「ウエスターレン…馬鹿な事を言うな」 言葉とは裏腹に、静かに笑みを浮かべるイザマーレ 「あ、あの…」...

 
 
 
交錯

生徒会室で眼光鋭くモニターチェックしながら 紫煙を燻らせていたウエスターレン 突如、一番手前にあるモニターが光を放ち、画面にノイズが走る すらっとした指先を巧みに動かし、相手からのメッセージを受け取る 「…マジか。了解した。」 軍服を着こみ、すぐさま部屋を後にする …………...

 
 
 

コメント


©2022 by 里好。Wix.com で作成されました。

bottom of page