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紫蘭の受難 第三章


シセンと白蛇に、スプネリアが声を掛ける


「あ、あの…… シセンさん…… 白蛇さん……

ご、ごめんなさい……」


頭を下げ、泣きながら謝り、今の思いを吐露し始める


「わ、私は、魔界に呼んで頂いてから、そんなに時間も経ってないし

プエブロドラドで、時折殿下の姿が見れるだけで満足してました

あなた方から見たら、私なんて赤子みたいなものだと思います

どうしたら雷帝妃様みたいになれるのか、いっぱい考えたけど

考えれば考える程分からなくなって……

またリリエル様が来てからは、自分はいない者扱いで……

寂しくて悲しくて……嫉妬してしまって、

その場から居たくなくて飛び出して……

皆様に迷惑ばかりかけて……もう、どうしていいか判りません……

どうしたらいいんですか?!」


泣きじゃくりその場にへたり込んでしまう


「…スプネリア様、お妃様の様になれとは誰も言ってませんが?

貴女様だけでなく、どなた様も雷帝妃様にはなれません

素直になれば良いのです」


『人間というのは、つくづく愚かな生き物ですな

周りの目ばかり気にして、肝心な事を見失う

それに、誰かに頼らなければ生きて行けぬのか?

実に頼りなく、放っておけぬ存在ですな』


「ふっ…… 確かに私共から見ましたら、

仰る通り貴女様は産まれたての赤子みたいなもの。

だからこそ、ラァードル様やイザマーレ様のお傍で

しっかりとお勉強し直しなさい

そして、ラァードル様だけを真っ直ぐ見て、

素直に愛して差し上げれば良いのです」




「……真っ直ぐ……素直に……(泣)」


「ラァードル様の御心をスプネリア様が乱してはなりませぬ。

判りますね?スプネリア様はラァードル様に選ばれ

愛されてるのです。もっと自信をお持ちになれば良いのです。

くよくよ悩んでも前には進みませんぞ」


「……はい、分かりました。もう、くよくよ悩むのはやめます!」


涙を拭き、新たに決意を固めたスプネリアがそこにいた

白蛇がそっと近づき呟く


『後、ご自分の力量を理解なさいませ。貴女様に守って貰うほど

私は落ちぶれておりません!!ですが…ありがとうございました。

シセン殿を救って頂きまして……』


スプネリアは驚く

まさか、白蛇から礼を言われると思って無かったからだ

戸惑っている所に、ラァードルが姿をみせた


「シセン、ここにいたんだ

天界からミカエルが来たんだ。来て貰える?

スプネリアはどうする? 天界の者だけど、ミカエルは

大丈夫だよ。会ってみる?」


ラァードルに問い掛けられ、

少し躊躇したが会ってみる事にした



謁見の間では、雷神風神の両帝と雷帝妃が

ミカエルを迎え入れて談笑していた


「親父ぃ~ シセン達連れて来たよ」


ラァードルの声掛けで皆が振り返る


その中に、黄金の髪に威圧感漂う天使が1名……




スプネリアはその雰囲気に圧倒され、後退りしてしまう


振り返ったミカエルは、スプネリアの姿を捉え

ジロジロと見返してくる


「……ふーん、この子がラァーちゃんのねぇ……」


「そうだよ、スプネリアっていうんだ。よろしくね、ミカエル」


「お初だけど、なんか見てるとイラッとしてくるね。

何でだろ(笑)」


そう言い放つミカエル

あまりの言われ様に内心イラッとするスプネリア


「ま、いっか♪それより、用件はなんだ?」


シセンが簡単に事の経緯を説明すると、ミカエルは笑い出す


「その父娘、馬鹿だろ。で、処刑前に今の天界の現状ってやつを

話せばいいのかな…?」


「そういう事。お願いするよ」


「ヨッツンハイムの事なら、我々も聞いておかなければな。

マミィはどうする?」


「それは私も一緒に聞きたいですわ。帝」




シセンと白蛇の案内の元、ホセとグリアを監禁している

地下牢に向かう





牢の中にいるグリアを見た瞬間、ミカエルは笑い出す


「コイツらが天界に来たがってる父娘だって!?

こんなヤツらに来られても、邪魔なだけだ

今天界を纏めてるのは、この俺だから、お前らみたいなのは

1歩も入れる気ないけどな!!」


「あ、あんた誰よ?それに天界纏めてるのは

ゼウス様じゃなかったの?」


「はあ?いつの時代の事言っているんだ?

あんなハゲジジイのゼウスなんか出る幕はもうどこにも無い!!」


「!」


「天界に奉公させて媚びる世界など、

人間界以外にはどこにもねーぞ?

無償の愛に向けた刃の代償は、そう簡単に解けはしない」


「………」


ミカエルの言葉に固まり震えるグリア。


一方、聞いていた雷帝妃は薄らと涙を浮かべていた

これまで見たことの無い険しい表情に、スプネリアは驚く


「ヨッツンハイムも、あの時にあいつが破壊して消滅したしな。

まあ、媚びるなら、まだ魔界の方が可能性はあるかもしれないが、

無理だろうな(笑)何せ、ツートップが自分らの正妻を

溺愛してるからな💕」


ミカエルの話を聞きながらグリアを見ていた雷帝妃が

冷ややかに言い放つ


「貴女……娼婦にでもなりたかったのかしら…

夢見ることは自由ですものね。

でも……多分、無理なんじゃないかしら?」




「くだらんな!!そんな事でマミィを怒らせるとは…

それだけで万死に値する。ここはシセンと白蛇に任せて戻ろう。

マミィ、おいで。では頼んだぞ。」


「『畏まりました』」


2名を残し、地下牢を後にした




雷神帝からの命を受けた白蛇は、グリアを閉じ込めている牢の中に入る

白蛇を見たグリアは悲鳴をあげ牢の中を逃げ回るが、隅に追い詰められ

大蛇となった白蛇に巻き付かれジワジワと締め上げられていく

べキッバキッボキッと全身の骨が軋み折れる音が部屋中に響く

やがて白蛇の身体は細く針金の様になりながら更に締め上げていく

グリアの身体はバラバラになり消滅していった


その様子を見ていた、父のホセは放心状態で呆然とへたりこんだ


全ての行為を見届けたシセンは白蛇を引連れ、謁見の間にいる

雷神帝達の元に行き、無事処刑が終わり、

ホセは放心状態である事を報告した





報告を聞きながら、涙ぐむ雷帝妃を慰める雷神帝

その傍で優しく声を掛けているミカエル


謁見の間の扉の横で、

皆の様子を遠巻きでぼんやりと

見ているしかないスプネリア


彼らが醸し出す凄まじいオーラに近寄れないのだ


その場にしゃがみこみ、

ラァードルから贈られたペンダントをただ見つめていた


「……リア? スプネリア?」

「ひゃっ! び、びっくりした…… 何?」


不意に声掛けてきたラァードルの声に驚き、慌てふためくが、

その横から覗き込んでくるミカエルに嫌悪感しかないスプネリア


「……やっぱ、見れば見る程イライラしてくるね

ウエスターレンも水臭いよな、あの時に

俺も誘ってくれたら良かったのにな」


「……それってどういう事? ミカエル…

初対面でそんな言い方しなくてもいいんじゃない?」


「…イライラするなら、私の顔を覗き込む必要ないと思いますが…?

殿下、私部屋で待ってていい?敵視されてるようだし💢」


「吾輩の傍に、見える所にいたらいい」


「……じゃあ、そこのバルコニーに居るから」


ラァードルはミカエルの言葉に驚き、

スプネリアも負けじとミカエルに言い返し、バルコニーに出る




「あれ? ラァーちゃんは、

ウエスターレンから何も聞いてないの?

あの子の出生の秘密を…」


ミカエルは意外、といった表情で首を傾げる


「えっ…風帝妃様の種が由来だとは聞いてるけど……」


「あのなあ、花の種から女が生まれるか?

普通は花が咲くだけだろ?」


「…そうだよね💦」


「花が女に化身するには、

身近にいた何かの思惑ときっかけが必要なんだ。

花の意志だけでは、女で居続けることは難しい。

それには、ある魔法が必須条件だからな」


初めて聞く話に、戸惑いを隠せないラァードル


「あの子の場合も例外ではない。

お前たちは長い間、離れ離れだったし、まして

相手は人間だしな。自分の力で化身する事は不可能。

花を見守り続けたアイツの思惑が加わってるのは間違いない」


「…アイツって……?」


「光に寄り添う紅蓮の悪魔、ウエスターレン。それから

ウエスターレンの炎に焼かれたリリエルの種だ」


「!!!」


「ウエスターレンは、リリエルの種を潰して燃やしたと言っていたが…

ま、アイツらのことだからな。そんな些細な事はどうでもいいんだろ」


「そうだったんだ…知らなかったよ💦…スプネリアの出生の秘密が

ウエスターレンとリリエルちゃんなのは分かった

だけど、スプネリアをそこまで毛嫌いするほどの事?」




腑に落ちないラァードルはミカエルに問い詰めるが

ミカエルはそれ以上何も言わず、静かに笑うだけだった


そこまでのやり取りを見ていた雷神帝が、話に加わってきた


「そりゃ、彼はイザマーレ君の片割れだしね💕」


「!!!?!?」


「…それこそが、イザマーレ君の意思だったんだよ。

息子よ。お前も、この秘密は厳守してやれ。大事な仲魔だろ?」


深い眼差しで見つめる雷神帝


「……そうだったんだ……えっ…てことは

ミカエルは……てことは、母ちゃんは……

そうか……えっ、もしかして吾輩以外、

皆、知ってたの?シセンも、紫雲も……?」


シセンは、穏やかな表情で応える


「ぼっちゃん。今、父帝殿が仰ったように

極一部の者しか知ることを許されない

門外不出の秘密なのですよ。

帝がイザマーレ様を裏切るわけ御座いませんでしょう?

直接、教えていただいたことは御座いません。」


「!そ、そうなんだ💦」


「ですが…何となく、そう感じておりました。

ミカエル様のオーラは、とても馴染み深いように

感じておりましたので……そうでしたか。

片割れ…という事は、ひょっとして……(笑)」




「…ん?ああ♪よく覚えているぞ。シセン殿💕

ところで…残りの父親はどうすんの?誰がやるの?」


「お手玉するか😁」とニヤニヤし始める雷神帝の横で

「稲妻じゃん?」と提案するラァードル

シセンも不敵な笑みを浮かべて前のめりになっている

「一網打尽にしましょうか」


「ふーむ…イザマーレ君にお譲りしたかったけど

帰っちゃったしなあ」

やや残念そうに呟く雷神帝



『帝。決着がつかなそうなので、とりあえず奴をボールにして

連れ出しましたが』


白蛇が表情ひとつ変えずに、身体を器用に駆使して

ぐるぐる巻きに縛られたホセを引きずり出してきた


「へへっ面白いじゃん」

ラァードルが軽くスティックを回すと閃光がホセの足元を狙う


「ひっ…」


思わず条件反射で飛び上がるホセを

紫雲が尾ひれを使って放り投げる


「こりゃあいいな♪」


雷神帝も、シセンも加わり、円陣パスをし始める

時々ミカエルも加わり、床に激しく叩きつける

バウンドしたホセボールを次々に投げ飛ばしていく


その光景に、クスっと笑みを浮かべながら

少し寂し気な瞳でバルコニーに佇む雷帝妃




雷帝妃の様子に気づいていたが、どんな言葉を掛けていいのか

思い悩み離れた場所から伺っていたスプネリア

傍に居た壱蛍にこっそり耳打ちをする


「壱蛍…… 殿下に内緒でお願いしていいのか分からないけど

魔界に行ってリリエル様を連れて来て欲しいの…ダメかな?」


「私も先程、父に相談したところ、

スプネリア様と同じ事を言ってました。

リリエル様をお連れした方が良いと……」


「やっぱり! 私も一緒にと思ったけど、また迷惑に

なってしまうからお願いしてもいい?それと、リリエル様には

雷帝妃様のご様子はくれぐれも内緒にしてね…」


「分かりました! 行ってきます」


魔界に向かって飛び立った壱蛍を見送る





……


魔界のとある場所にヒト型で降り立った壱蛍


ラァードルとスプネリアの日頃の会話の中で、

魔界に関する用語と認識した言葉を頼りに

辿り着いた先は、プエブロドラド


かつて、スプネリアが使用していた部屋の前だった


「……」


そこからの行先を思いあぐねて

辺りをキョロキョロと見回していると

後ろから声がかかった


「あれ…貴方は…新しく来た信者さんね?

どうされましたか?」


黒い軍服姿で警備しているダイヤだった



「あ、あの…申し訳ありません。不慣れなもので…

実は、リリエル様にお会いしたいのですが…」


丁寧な物腰で話すその男性に、警戒心は薄れるが

素性を知らない者をいきなり、リリエルに紹介するのは

どうなんだろう…


判断に迷うダイアは、ひとまず警備室に連れて行くことにした


「分かりました。こちらへどうぞ。

少し詳しくお話を聞かせてください。貴方…名前は?」


「失礼しました。私は壱蛍と申します。

以後、よろしくお願いします」





壱蛍は穏やかに返事をして、素直にダイヤに着いていく


警備室の手前の部屋で椅子に座らせ

ダイヤは奥の部屋に入って行った


「長官~。新しい信者さんかな?

リリエル様に会わせて欲しいと言われたんですけど…」



ダイヤの報告を受けて、確認に行くウエスターレン


「なんだ。誰かと思ったら、壱蛍じゃないか。」


「ウエスターレン様、お忙しいところ、申し訳ありません。」


ウエスターレンの屈託のない話しぶりに、安心したダイヤ


「やはり、お知り合いの方でしたか?

そしたらお屋敷まで、長官にお願いしてもよろしいでしょうか

…でも、ひょっとして、閣下と扉を消してますかね…💦」


「ふっ その心配はなさそうだ。壱蛍、俺が連れて行ってやる。

ていうか、俺の住処でもあるからな(笑)」


「!!そうでしたか…では、よろしくお願いします」




ウエスターレンが壱蛍を連れて魔法陣で消えた途端

警備室に姿を現したダンケル


「あれ?陛下~(≧∇≦)」

嬉しくなって抱きつくダイヤ


「ダイヤ。今、ここに客が居ただろ?」


「よく分かりましたねえ。

今、長官と一緒にお屋敷に向かいましたけど」

ニコニコと話すダイヤ


「悪魔ではない波動だったからな。雷神界からの使者か。

ここの所、頻繁にあるな。時節柄とは言え、大変だな」


「! そうだったんですか!! ええ~いいなあ。

私も一度は行ってみたいな~…」


「それなら、一緒に連れて行ってやろうか?

お前の望みなら、叶えてやるぞ♪」


「…へっ? まさか…今すぐ…?💦」


驚きつつ、ワクワクするダイヤに

不敵の笑みを浮かべるダミアン


「もちろん、いいよぉ~」


次の瞬間、ダンケルの背中に現れた黒い羽根に抱かれ

2魔とも姿を消していた





一方、瞬時に屋敷に辿り着いたウエスターレンと壱蛍


「イザマーレ、ただいま。リリエルに客を連れて来たぞ。」


執務室に居るイザマーレに声をかけると

珍しく、殺伐とした空気が漂っていた


「ああ、ウエスターレン、お帰り。客とは壱蛍だな?

波動で分かった。リリエルとも話してた所なんだが…💦」


「? どうした…?」


「壱蛍さん、こんにちは。長官たちがこちらに向かった直後に、

プエブロドラドに陛下が行かれて💦」


「はあ?…それで?」



「ダイヤを連れて、雷神界に向かわれた💦💦」


……


一瞬の静寂


次の瞬間、ここ数か月では

最も強い怒りのオーラが解き放たれた


「あ~い~つ~らあああああ💢💢💢💢」


爆音と共に、金と赤と花のエネルギー体が

猛烈な勢いで飛び立って行く


ポカンと眺めていた壱蛍

数秒後、ハッとして慌てて後を追う





宮殿の庭でホセをボールにして遊んでいた最中、

闇のエネルギー体で姿を現したダンケルとダイヤ


強い波動を感じ取り、構えていたシセンが穏やかに出迎える


「これはこれは。大魔王殿。ようこそおいでくださいました。」


「ああ、お邪魔するよ。何やら楽しそうじゃないか♪」


シセンに連れられて、庭に向かうと

気がついたミカエルが呆れながら笑い出す


「なんだよ、ダンケル。后も一緒か?

お前ら、ちゃんとイザマーレ達に伝えてきたのか?」


「楽しいことには目がないもんでね♪」


アッケラカンと笑うダンケルの背後に

猛烈な波動が生じ、追いかけてきた

イザマーレ、ウエスターレン、リリエルが姿を現す


有無を言わさず、ダンケルの首根っこ捕まえて、

邪眼を開いて睨みつけるウエスターレン

「何してやがる?ダンケル…?」


イザマーレも、黙ってはいるが

全身から怒りのオーラを漂わせ、じっと見ている


その隣で、ふっと周りを見たリリエルは

「なんか楽しそうなことしてますね~💕」

と、凄んだ目でニッコリ微笑む


イザマーレの理性ギリギリな怒りと

リリエルの視線に焦ったダンケルは、

慌てて立て直し、取り繕う




「そっ…そうだろ?

楽しそうだから、ダイヤにも見せてやりたくなって……💦」


「ふーん……リリエルもやってみたーい。閣下~💕」

リリエルはニコニコしながらイザマーレを見つめる


「リリエルは、あんな穢らわしいもん触るな。

我々が遊んでやるから💕」

と、ウエスターレンと一緒にリリエルを飛ばし合うイザマーレ


「(≧∇≦*)キャハハ キャハハ」


「ダイヤも~(ノ≧ڡ≦)☆」


ウキウキ楽しんでるリリエルを見て

仲魔に入りたくて駆け寄るダイヤだったが

強い力で引き寄せられる


「!?…えっ、ミカエル様…?💦」


「間違えるんじゃねーぞ?お前はこっちだ💕」


ニヤッと笑いながら、ダイヤを放り投げるミカエル

見ていたダンケルは激怒するが、怒鳴りつけようとした途端

飛ばされたダイヤが抱きついてくる

ダイヤの感触にご満足のダンケルは

「…なかなか良いな💕ミカエル、もっとやれ♪」


「いやぁぁ…もう目が回る(@_@;)や〜め〜て〜🌀」


いつの間にか、ダンケルとミカエルのキャッチボールになっていた


ダイヤがキュ〜と目を回してもやられ放題


「まだまだ〜ψ(`∇´)ψフハハ〜!目を回しても可愛いぞ!」




ダンケルは笑ってミカエルに投げる。


「ダイヤちゃん起きろ!楽しみはこれからだぞ!」


ミカエルもダイヤを受け止め、ペチペチ頬を優しく叩く


ホセのボール遊びに飽きた残りのメンバーは

それぞれのキャッチボールをニヤニヤしながら見つめていた


そのうち、ハッと気がついたラァードル

「大丈夫なの?魔界の全トップ、みんな来ちゃったよね💦」


「(笑)邪魔したな。長居はしない。それはそうと、

リリエルには何か用事があったんじゃないのか?」


笑いながら尋ねるイザマーレ


イザマーレとウエスターレンの2魔は、

キャッチボールされるリリエルの笑顔で、

幾分、怒りが治まった様子だった


「あ、そうでした。壱蛍さんに頼まれたんですよ。

ね?スプネリア様💕…ってあれ?ここにはいらっしゃらないの?」


キョトンと首を傾げるリリエル


「スプネリアが呼んでたのね?ごめん💦」


何となく察したラァードル

そこへ、雷帝妃がそっと近づき、リリエルを抱きしめた


「…!お母様……?どうなさったの?」


「(´∀`*)ウフフ ううん…なんでもないの💕

ただ、すごーくリリを抱きしめたくて……

そしたら、私の前に姿を見せてくれるんだもの💕」





「…お母様……/////」


静かに、抱きしめ合う母娘

そうしている内に、雷神界で起きた出来事と

雷帝妃の悲痛な胸の内をすべて理解したリリエル

そっと見つめ合い、優しく手を握る


「お母様…私の勝手な行動のせいで、

お母様に辛い思いをさせてしまって申し訳ありません。

本当に私は、悪い娘ですよね」


恥ずかしそうに俯きがちに語り始めるリリエルを

イザマーレは静かに見つめている


「でも、それでも私は、自分の過去を悔いてはいません。

私は…どうしても、愛する方をお救いしたかったの…

お許しください……」


薄っすらと涙を浮かべ、それでも微笑むリリエルの瞳は

あの時と何も変わらず、光を捉え続けている


「本当にたくさんの、愛と励ましのお陰で、

私は今はとても幸せです。

だから、お母様、もう泣かないで…お願いします……」


イザマーレとウエスターレンは、

お互いに目配せし合いながら

穏やかにリリエルを見守り続けていた


「リリ……馬鹿ね💕そんな事、思ってないわよ

ただ、あの時、貴女を見守ることしか出来なかった

そんな自分が悔しいの。それだけよ。

私にとって、貴女は自慢の娘なの💕

愛してるわ、リリ……」


雷帝妃はようやくいつもの笑顔になり、

リリエルを強く抱きしめる





目を回しながらも、ダイヤはしっかりと聞いていた

あのヨッツンハイム出来事を…

結晶同士でも知らない事が多い…


リリエルがどれだけ辛い日々を過ごしたか…

イザマーレの事を思い

1魔で天界に向かい、過ごした日々を…


それに比べて、片割れとは言え

リリエルの辛い日々をダイヤは知らない。

悪魔化になる前はかなり嫉妬や暴走もした

そんな事は許されない事は分かっていたが…

感情が抑えられなかった


ダイヤはふと、昔の事を思い出していた…


想いを巡らして佇むダイヤ


そのすぐ近くで、溢れる涙を止める事ができずに咽び泣く紫雲…





この感動の坩堝の中、くだらない末端貴族の処刑など

どうでも良いと思えてきたラァードルたち


「…で、どうするよ?」


「もし、処理に困っているなら、魔界で預かろうか?

この程度のゴミ屑などワンサカいるし、

猫の遊び相手くらいにはなるだろ」

太っ腹な提案をするダンケル


「雷神界のオイタについては、我々は治外法権だからな。

その前に、お利口さんで魔界に戻ってもらおうか?!

話はその後だ💢💢💢💢!!」


再び怒り始め、ダンケルとダイヤを引きずって行くウエスターレン


「(苦笑)まあ…お困りなら、いつでも力にはなるぞ?

今回は、とりあえず失礼する。リリエル…おいで。」


イザマーレはリリエルを髪に乗せ、立ち去って行く





ホセボール遊びに飽きた、雷神界の主だった面々


イザマーレ達が去った後、雷神帝がシセン、白蛇に命じ

瀕死状態になったホセを魔袋に押し込んだ


「コイツは吾輩が魔界に連れて行って、

イザマーレにお願いしてくるよ

それより、スプネリアは何処にいるかな……?」


「ラァードル様……スプネリア様ならこちらに」


壱蛍が居場所を示す

バルコニーの隅に死角になる場所があり、そこに座り込んでいた


「スプネリア……、お前がリリエルちゃん呼んだの?」


「……ごめん…… 雷帝妃様の様子を見てたら呼んだ方が良い様な

気がして…… 勝手に壱蛍にお願いして……魔界に行って貰ったの……

リリエル様じゃないと雷帝妃様は救えないと思って……」


「……それで、来てくれたんだ

だけど、陛下とダイヤちゃんも来たのには驚いたけどね(笑)」


「びっくりしたわ……(汗)」


「ところで、リリエルちゃんがスプネリアを探してたのに

どうして出て来なかったの?」


「……母娘の語らいの場の邪魔になるし、

ここから全部見てたから……それに今は合わせる顔無いし……」


「そっか…… でも、リリエルちゃん呼んでくれてありがとね」


「……怒ってない? 勝手に壱蛍にお願いして魔界に行かせた事…」




横で話を聞いていた壱蛍が声を掛ける


「事前に父の相談したら、父もスプネリア様と同じ考えでしたので

行って参りました……申し訳ありません」


2名の話を聞いて納得したラァードル


「怒る必要ある?リリエルちゃん来てくれて、

母ちゃんは喜んでいたよ」


「……それなら良かった……殿下、今から閣下の所に……?」


「ちょっとコイツ預けに行ってくるよ。

すぐ戻るから宮で待っててくれる?」


「うん……待ってる……」

ラァードルに抱かれ、壱蛍に乗り皇太子宮に戻り、

魔界に向かうラァードルを見送った


………


イザマーレの屋敷に着いたラァードル


「サムちゃん、ごめん。やっぱ、コイツ預かって貰っても良いかな?

後2~3日したら戻って来れるから、その時ちょっと

相談したい事があるんだけど、良いかな……?」


「分かった。…お前も大変そうだな、色々と…(笑)」


含み笑いをして見送るイザマーレ





台風のシーズンオフまで、あと少し。

作業も佳境に入っていた


壱蛍と白蛇にスプネリアの事を頼んでいるが、

カラ元気に振る舞うスプネリアの様子が気になっていた


出生の事も、話してやらなきゃと思いつつも、話しそびれていた

昼過ぎには作業が終わり急いで宮に戻る


「壱蛍、白蛇、今戻ったけどスプネリアの様子は……?」


「ラァードル様、お帰りなさいませ

スプネリア様ならずっとあちらにいらっしゃいます」


『本日はぼんやりとしておいでで、

お声掛けしてもお耳に届いていないようです』


「そっか、分かった……後は吾輩が見るから、下がって良いよ」


スプネリアの傍に寄り頭をポンと軽く叩く


「あ……殿下、お帰りなさい。今日は作業終わったの?」


「ただいま。今日の分は終わったし、明日で今年分は

全部終わるよ……ねえ、スプネリア? この前から何塞ぎ込んでる?

リリエルちゃん呼んでおいて隠れているのも、

不思議に思ってたんだけど」


「……何も無いよ。貴方達のオーラというか……

気にやられたのかな?訳も判らず初対面から敵視されたし

出て行ったらまた何言われるか……なんか疲れちゃった……」


「ミカエルの事? アイツは……」




「止めて! 天界なんてどうでもいい

あの方の話し方思い出すと、

人間界での嫌な記憶が浮かんでくるし

聞いたところで、私に何ができるの?!

この世界に呼んで貰えただけで満足してるから……」


「スプネリア、なんで泣いてるの?それに震えてるし……」


「……へ?な、涙?な、何でだろ……?!

へへっ、自分でも判んないや…… どうしたんだろ……?」


気が付かない内に涙が溢れ、身体が震えていた

自分で涙と震えを抑えようとするが、なかなか止まらない


「何に悩んでるのか判らないけど

我々が付いているんだから、遠慮なく頼ってくれな。判った?」


抱きしめられラァードルの言葉に何度も頷く



魔界に戻ってからは、見た目変わらないような感じだったが

何かに怯え、元老院から出る事が少なくなった

眠りも浅く、食欲もなくなる……



ラァードルの前では心配かけまいと、いつものように振舞っていた

だが、独りになると得体の知れない不安が襲いかかってくる

眠りに着くと、悪夢に魘される日々が続いていた





ある日の午後、

ラァードルはイザマーレのところに行くと言って

出かけて行った


暫くすると、セルダとプルーニャが訪ねてきた


「やっほー、ラァードルはいるかな?

ちょっと確認したい事あって来たんだけど……」


「あ、代官、プルーニャさん、いらっしゃいませ……

……殿下なら、先程閣下のところに行くと言って

出掛けたところなんです」


「あ、そうなんだ。閣下の所ね。

じゃ、そっち行ってみるわ。 ありがとうね」


「……あ、良かったらお茶だけでも……?」


そう声掛けするスプネリアの顔をじっと見つめるセルダ

元老院に初めて来たプルーニャは周りを見渡し、

スプネリアの様子を見ていた


「あ、あの……? 代官…私の顔に何か付いてますか?」


「…ちゃんとご飯食べて、

睡眠はしっかり取らないとダメじゃんね。

スプネリアちゃん、お茶は本来の元気な姿に戻ったら

その時にゆっくりと戴くよ」




「あら♪殿下、いらっしゃいませ。」


「リリエルちゃん、雷神界では色々と世話になったね。

サムちゃんいるかな?」


屋敷に姿を現したラァードルを、暖かく迎え入れるリリエル


「どうぞ、中にお入りください。」



ラァードルはイザマーレのいる執務室に入って行き、

リリエルはプライベートルームにあるキッチンで

お茶を淹れていた


その時、魔法陣が現れ、中からセルダとプルーニャが姿を見せた


「あら?代官に、プルーニャ様まで♪いらっしゃいませ」


リリエルはニコニコしながら、お茶のカップを2つ追加する


「リリエルちゃん、邪魔するよ。さっき元老院に行ったんだけど

ラァードルもこっちって言うから…」


「そうでしたか。どうぞ。殿下も先にお見えになっております。」


リリエルは頷き、4名分のお茶を用意して、一緒に執務室へ向かう


「閣下…代官がいらっしゃいましたよ♪

プルーニャ様は、こちらへどうぞ(´∀`*)ウフフ…」


セルダを執務室へ通してから、

プルーニャと一緒に一階のリビングに降りていく


「今日も、ハルミちゃんとのお散歩デート?良いなあ。」

ニコニコ微笑みながら、プルーニャと談笑し合うリリエル




執務室では、仕事の手を一切止めずに

ラァードルをチラッと見遣るイザマーレ


「ラァードルか。…吾輩に何か用事か?」


「うん…ごめんね、ちょっと相談というか…」


奥歯に物が挟まったようなラァードルの様子に

ひとまず手元の書類だけ捌き切り、真摯に向き合うイザマーレ


「どうしたのだ?お前らしくないな(笑)」


「…やっぱり、そう思う…?…よね💦💦」


尋ねておきながら、全てを見透かしているようなイザマーレに

言葉にしなくても伝わる惑いを受け止めて貰えたことで安堵し

次の瞬間には、いつもの飄々としたラァードル殿下の姿がそこにあった


そこへ、リリエルが淹れ立てのお茶を持って、

セルダと共に部屋に戻って来た


「閣下、失礼します。殿下、代官もいらっしゃいましたよ♪」


「あれ?セルダ、どしたの?」


「邪魔して悪いね。ほら、あいつ。確か『ホセ』だっけか?

奴の処置について、一応確認取ろうと思ってね。

俺、こう見えて最悪拷問所の責任者じゃんね♪」


「! あ、そうか💦悪かったね。セルダにも面倒掛けて…」


「いや、そんなの日常茶飯事じゃんね。ただの事務連絡よ。

その事でさっき、元老院に行ったんよ。そしたら

ラァードルは閣下のとこに行ったって言われたもんで、俺もこっち来た」


「そ、そうだったんだ…スプネリアに会ったんだね?」





「ああ…なんか、よう分からんけど、

雁字搦めになっとるようだね(笑)」

ニヤッと笑うセルダ


「……」


セルダの言葉に、再び考え込むラァードル


「誰かに何かを言われて、心に突き刺さるというのは

実は、自分自身が常日頃から抱え込んだ悩みに向き合わず、

目を逸らし続けた己の責任でしかない」


「!…サムちゃん……」


「俺もそう思う。そして今、

手足を縛りあげ、身動き取れずにいるのも

過去にそれを選んだ自分の意志なんだよね

なかなか、それには気付けんけどね」


「…未来の選択を怖がり、俯いてばかりっていうのは……💦」


「…目隠しをしたまま、綱渡りするのと同じだな(笑)

その度胸があるなら、何も恐れる必要もないだろう♪」


答えが分かっていながら、おどけて尋ねるラァードルに

立て板に水の如く、スラスラと受け応えるイザマーレ


「そうだね。それなら前を向いて、自分の意志を貫いて

進むべき道を選んだ方が絶対良いじゃんね(笑)」

セルダも、笑いながら追随する


「ただそれは、誰かに教えてもらったのでは意味がない。

自分で気づく事が、何より重要だからな。」


「…そうだよね…💦吾輩も、つい

スプネリアの事、庇い過ぎちゃったかな」




「恋は盲目ってのは、人間界にある言葉だろ?あまり気にするな♪」


気さくに励まし、リリエルの淹れたお茶を飲むイザマーレ

リビングにいるリリエルとプルーニャの様子に気がつき、ほくそ笑む


「…ラァードル。過去はどうあれ、今のお前たちは

どう考えても恵まれているじゃないか。

今の環境に何の不満があるって言うのだ? 

まずその事に、早く気づく事だな。

だが…どうやら、その心配もなさそうだぞ(笑)」


「…へっ?」


謎かけのようなイザマーレの言葉に戸惑うラァードル


「クククッ どうやら、世話好きのおせっかいな輩は、

リリエルの周りには事欠かないようだな♪」


……


「どうもすみません💦 突然お邪魔しちゃって……」


恐縮しつつ、ソファに座りながら

リビングから見える屋敷の様子を

繁々と興味深く眺めるプルーニャ


「(´∀`*)ウフフ 良いのよ~。…プルーニャ様?どうしたの?」


「えっ、アハハ。いつもLily‘sのみなさんと

お邪魔させてもらってるけど、改めて、広いお屋敷やなぁ~って。

さっき、代官に連れて行ってもらったんですよ。

陛下のいらっしゃる魔宮殿の隣の…えっと…」





「…ああ、元老院ね♪うんうん。あそこも広いよね。

何せ、建物の中にかつては副大魔王様の居室が

あったくらいだから…」


「そうそう、元老院!そういえば、そうやんね?

でも…あちらではそこまで広い気がせぇへんかったんですよ。

…なんでやろ?」


「うーん…枢密院もあるし、中にいる悪魔の数も違うからかな…?」


「…そうか!こちらにはリリエル様と閣下と長官の

お3魔だけですもんね。」


なるほど、と納得するプルーニャ


「でもリリエル様。嫌な事思い出させるかもしれへんけど…許してな。

あの有名な事件の前は、このお屋敷にも使用魔さん、

ぎょうさんいてはったでしょ?」


「ん?…クスクス…大丈夫よ。気になさらないで♪」


気を遣いながらも、興味がある事は聞いてみたいプルーニャに

リリエルはにっこり微笑んで、話を続ける


「使用魔さんたちの事ね? 私が悪魔化する直前まで、

住み込みでいらっしゃっいましたよ。ランソフも、オルド先生も…」


「リリエル様…なんでやろ…

元老院?あそこには人手というか、魔の手がめっちゃあるのに、

スプネリアちゃんにはそれが見えてないみたいに、淋しそうやったんよ。

あの中で淋しいのは、可哀想に思えてしもた」


「……」


考え込みながら話をするプルーニャに向き合いながら

スプネリアの様子と、その背後に起きていたことを

全て察するリリエル





「リリエル様もやけど…いつも一魔で抱え込んでしまいはる。

今、スプネリアちゃんはそんな感じなのかもしれませんね…

淋しい時はみんなが一緒にいるよ🎵って教えてあげたい。

分かって欲しいんです」


そんな風に吐露するプルーニャを、優しく見つめるリリエル


「でも…ちっとも私だけで抱え込んだりなんか、してないよ?

いつも、何だかんだ、甘えさせてもらってる。

スプネリア様にも、皆のその思いが伝わると良いよね💕」


微笑みながら、少しだけ首を傾げるリリエル


「リリエル様にも言うてるんですよ❗️

いつも周りの心配ばっかり…嬉しいですけど、そんなん淋しい…

私らに淋しい思いさせんといてください(๑˘・з・˘)」


「もう~プルーニャ様ったら…♪」


鼻息荒く断言するプルーニャに、嬉しそうに微笑むリリエル


「あ…でも、閣下には内緒で💦怒られますんで💦💦💦」


急にコソコソ話し始めたプルーニャ


「それは、もう遅いな」


!!


急に姿を現したイザマーレに驚き、冷や汗をかくプルーニャ


「あ、閣下♪お話、終わりましたか?

今日は皆さまでお食事していって貰っても…?」

髪を撫でるイザマーレに、上目遣いで見つめるリリエル




「ああ、構わないが…」


「リリエルちゃん、ありがとね。

吾輩は元老院に帰るよ。また今度ね♪」


「クスっ は~い♪

じゃ、代官とプルーニャ様と…ハルミちゃんね♪」


ラァードルを見送りながら、ワクワクし始めるリリエル



その後、ウエスターレンも交え夕食を囲む


その間も1名、ブツクサと考え込むプルーニャ


「独りじゃ怖くて出てこられへんの?しゃあないな。

ほら、一緒に行こ♪」


うんうん…私なら、そう言うに決まってる


「ハルミちゃんの散歩の後で良かったら、いつでも来るから。

そうや。代官がお仕事の時はスプネリアちゃんも一緒に散歩しよ🎵

ハルミちゃんの選ぶ道は面白いねんで(笑)」


頷きながら、細かい事まで詰めていくスプネリア


「あっ❗️閣下にお願いして、リリエル様もお誘いしよう♪

たまには私らにも、リリエル様を独占させて貰いたいよな✨」


独り言のつもりが、盛大に声に出ているプルーニャ


「閣下には、ハルミちゃんがリリエル様も一緒が良いって言うんで…

お優しい閣下ならお許しくださるかと…ダメですか」


駄目だと即答しようとしていたイザマーレも、言葉に詰まる


「週末だけなら、たまにはな💦

なにせ、リリエルも超忙しいからな?」




雷神界で感じたものが、帰ってきたら消化されるかと思いきや

日に日に、スプネリアの中で寂しさと孤独感が増して行く


雷帝妃やリリエルには叶わないが、

自分なりにやっていこうと藻掻いた


だが、誰からも必要とされてないと感じ、

過去の記憶と重なり雁字搦めの状態になっていた


だだ、そんな状態を打破して自分自身を替えたいと思っても

その方法が見い出せずにいた


苛立ちばかりが募り、涙だけが溢れ湧いてくる……

いっその事、気が狂ってしまえば楽になれるのにと思える程に……



元老院から出掛けることも無くなり、女子会の誘いも体調不良を

理由にして参加しなくなっていた

部屋からも出なくなり、ずっと独り自問自答を繰り返す


「自分は何故まだここにいるの?必要とされてないなら何故追放しない?

何の為に雷神界に行ったの?悪魔と神の権威を見せつける為に

連れて行かれたの?雷帝妃様とリリエル様がいれば安泰だよね?

人間の私には、魔力も能力も何も無い……

殿下の支えになりたいなんて、おこがましかったんだよね?

迷惑ばかりかけて……」


そんな事ばかり頭の中で渦巻いていたが、ふっと立ち止まる


「……リリエル様ってこんな事で悩んだりしないよね?

常に閣下と長官に護られて……ニコニコしてて……

何もかも1魔で完璧にこなせるのだから……」




ある日の事、元老院の前に仁王立ちする一人の女性

元老院の大きさ、広さに一瞬たじろぐが


(凄いな💧負けへん❗️)

「すみませーーーん(絶叫)スプネリアちゃんいますかぁーーー

あ、私プルーニャと言います。怪しい者ではありません(笑)

スプネリアちゃんに会いにきました❗️」


広い元老院に響き渡る大声


直ちに枢密院からイザマーレの屋敷に向けて

目玉蝙蝠が飛び立って行った


屋敷の執務室で、飛んできた目玉蝙蝠を

イザマーレはそっと指に止まらせる

内容を把握した途端、笑いを堪える


「報告ご苦労。構わないから通してやれ。

ミルよ、すまないが、ラァードルの居室の前まで

連れて行ってくれ」


「そういう事ですか…安心しました。

畏まりました。お連れします💕」


枢密院から表扉に姿を現したミルに連れられ

無事、ラァードル達の居室を訪れると

事情を察した使用魔たちに快く受け入れられる


「ようこそおいで下さいました。

副大魔王様より承っております。どうぞ、こちらへ」


ハルミちゃんを抱き抱え、ニンマリ笑顔のプルーニャを

スプネリアの部屋の前まで案内し、

ミルはにこやかにその場を立ち去る




スプネリアの部屋の入口で

コンコンコンコンコンコンコンコン


遠慮なく連打されるノック音


「スプネリアちゃんおるんやろー❔

一緒にハルミちゃんのお散歩行こ❗️

スプネリアちゃんに拒否権ないから、はよ出てきてな💕

…ハルミちゃん、もうちょっと待っててなぁ(聞こえよがし)」


そう言いながら遠慮なくドアを開け部屋の中に入ってくるプルーニャ

目を丸くして固まるスプネリア


「スプネリアちゃん。何があったかは聞かへん。

聞いても多分、スプネリアちゃんの気持ちにはなられへんから…

私が言いたい事は1つ!

スプネリアちゃん…探したい答えがあるんやったら、

いつまでも下ばっかり見ててもしゃあないで。

答えはやってきてくれへんから。やったら、一緒に探しに行こうや!

私がどこまででも、いつまででも付き合う! 1魔にはさせへんから。」


にっこりと宣言するプルーニャに

驚いて思わず顔を見上げるスプネリア


「プ、プルーニャさん…💦」


「スプネリアちゃんはこの世でたった一人で、殿下の大切なお妃様。

誰にも変わりはでけへん。ほんで、Lily‘sの大切な仲魔!!

スプネリアちゃんの淋しい顔見てると、私らまで淋しくなる。

スプネリアちゃん…淋しいとか辛いとか、もっと私らにもぶつけて。

私らは何があってもスプネリアちゃんの側におるから…

そうや❗️これからは一人で考え込む時間を、

ハルミちゃんと散歩に行く時間にしよ🎵

ハルミちゃん色んな道知ってて、色んな景色を見せてくれるんよ✨」




「え…えっ…💦」


目を白黒させるスプネリアの手を取り

戸惑う様子も構わず連れ出すプルーニャ


元老院の外で待っていたセルダに

「もっと大人しく行けなかったの?(笑)」

と突っ込まれつつ、髪を撫でてもらって嬉しそうなプルーニャ


愛猫ハルミちゃんも、にゃあ~ん💕と可愛い鳴き声で

喜んでるようだった




突然のプルーニャの訪問で

あっという間に外に連れ出されたスプネリア


「ち、ちょっと💦プルーニャさんどこ行くの?勝手に出ると

殿下にまた迷惑かけちゃう……駄目だって……💦

大人しくしてないと……」


「迷惑!?それだったら最初から殿下が出てくる筈やろ?

まあ、出て来ても無視して、スプネリアちゃん連れ出すけどね(笑)

スプネリアちゃんが大好きな殿下は、こんな事で迷惑って思うん?

そんな御方なん?ちゃうやろ?」


「!」


「だから、今胸の奥で燻ってる嫌な感情は捨てにいこ!

いつまでも考えてたら、しんどいだけやん!

捨てていかなきゃ!また明るいスプネリアちゃんに戻る為なら

いつでも何処までも付き合ってあげるからさ!」


プルーニャが屈託のない笑顔でスプネリアに話し掛ける




「……自分でもどうにかしなきゃって思ってたけど

方法が分からなくて……(泣)

プルーニャさん……時間掛かるかも知れないけどいいの?」


「任しといて!大船に乗ったと思いなさい!」


泣き出したスプネリアを抱き締め、その背中を優しくなでる

ふっと視線を感じ元老院の方にプルーニャが顔を上げると

ラァードルがバルコニーから微笑みながら2人を見ていた

そして、優しく囁く


「そうか、サムちゃんが言ってた世話好きなお節介者って

君の事だったんだね(笑)

プルーニャちゃん、スプネリアの事お願いするよ

なんとか引っ張り出してやって欲しい……」



少しづつゆっくりで良いから、周りを見渡しておいで

そうしたら自ずと答えが出てくる筈だから……

何かあればすぐ助けてやるから心配しなくても良いよ

いつまでも待っててやるから……





Fin.



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