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薔薇と青空


森の通り道を抜けると、広い草原に辿り着く

柔らかな草木がそよ風に揺れ、見上げる空の青さに目を奪われる

草原の中央に、ゆっくりと回転しながら鎮座するクリスタルの薔薇


「…どうだい?なかなかの場所だろ?」

風帝妃は歩みを止め、薔薇を愛おしげに眺めてから空を仰ぎみる


リリエルは、目を閉じて、溢れそうな涙を堪えている



そんなリリエルの髪を撫でながら、イザマーレが呼びかける

「バナトラ、こちらにおいで」

「はい、閣下…」


「分かるか?ここは、かつてお前が永久の眠りについた場所だ。

風神夫妻の愛に見守られながらな。なるほど、お前の墓に相応しく

抜けるような青空だな」


「…!やはり私は、かつてここで暮らしていたのですね?

何があったのか、教えて貰えませんか?」


「勿論だ。お前にひとつの物語を見せてやろう

リリエル、おいで。泣き止んだか?ここではお前の力が必要だと

あれほど言っておいただろう(苦笑)」


「///わ、分かってます!あの…よろしくお願いします💦」

真っ赤になりながら、イザマーレと手を取り合い、

ゆっくりと息を吐き出すリリエル


贅沢な観客が見守る中、ある歌が紡ぎ上げられる




強烈な光一色の天界から見た、青空

残虐の日々に傷つきながらも

Lilyelの瞳から消える事のなかった一筋の光

泣き疲れて横たわるLilyelの涙を拭いていた

自らの震える手先

そして最期に聞いたLilyelの断末魔の叫び……

ショックのあまり、ガラス玉のようになった目で

最期に見上げた故郷の青空……



……

静かな森の底に眠りにつき

最果ての地、人間界で再び産声をあげた皇女バナトラ


恋焦がれた青空に抱かれ、風神夫妻の愛の元で

死にゆく時、お前は笑顔で旅立っていったのだ


紫蘭と百合、そして薔薇……

花々の力に満ち溢れたこの場所で

安らかに眠りについたお前は

次の生命となり、やがて息吹くその時まで

その瞳で何度も見上げた事だろう


そんなにも恋焦がれた青空は、今はお前のすぐ傍で寄り添い

曇りのない笑顔を振りまき続ける


かつて、傷ついたLilyelに唯一心を寄せたバナトラ

今生では何も恐れず、お前の好きなように生きろ

青空に負けないほどの笑顔で……


……





全てを悟ったバナトラ

そして、照れくさそうに目を逸らしながら

抱きしめる風帝妃Bletilla

これまでにない穏やかな表情で見守る風神帝


遥かなる時空を超え、再会を果たした親子に

そっと寄り添い続ける、澄み渡った青空……




ふたつの薔薇 Fin.




 
 
 

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