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魔界美術館


「校内パンフレット?」


「そうだ。前期・中期・後期ごとに発行することになっている。

前期分はもう締め切りが迫っているから、すぐに編集を始めてくれ。」


「…はい。畏まりました。」


舞踏会が終わり、週明けの月曜日

昼休みに呼び出され、生徒会室に出向くと

これまでと何も変わらず、鬼会長から指示を言い渡されるAnye


「内容は交換留学生の滞在日記…などは如何でしょうか」


「ああ、悪くないな。それと、先日の舞踏会の事も大々的に載せたら良い。」


「あ、はい。畏まりました。」


「画像はベルデが撮っているはずだから、

選りすぐりを提供してもらえ」


「分かりました♪では早速、作業を始めますね。

過去ログを参考にしたいので、とりあえず図書コーナーに行ってまいります。

あ、ついでに、このカタログも返してきちゃおうかな…」


部屋の隅に置いてある鞄の中から、ファッションカタログを取り出し

すぐさま隣の校舎に向かうAnye


図書コーナーは、本校舎と魔女部の間に設けられた

オープンスペースにある。日当たりが良く、解放的な雰囲気で

Anyeもお気に入りの場所だった


カタログを返却し、過去ログの中から校内パンフレットを探していると

ガタターン…と大きな物音がした




振り返ると、留学生のスプネリアが椅子から転げ落ちているのを、

ラァードルが手を貸して抱き起こしているところだった


(あら…あの方たち…良い雰囲気ね♪)


静かに微笑み、再び書棚に視線を戻す


「……あ。」


ちょうど目の前に飛び込んできたのが、魔界歴史百科事典


「…………」


舞踏会の途中からずっと、気にかけている事があった

イザマーレに、Anyeの知らない重要な秘密があり、それが

これまでもずっと、イザマーレを悩ませている何かだということ…


だが、すぐに気を取り直し、作業を進める


(あんなにも高貴で、途轍もないオーラを纏う悪魔でさえ

抗えないほどの何か…そんなものを、ちっぽけな脳ミソで

いくら考えたって、ひねり出せるはずないもの…)


校内パンフレットの過去ログを手に入れて、

職員室、本校舎の研究室と順番に足を運ぶ


イザマーレが事前に話を通していたようで、打ち合わせはサクサクと進み

ホッとするAnye。何故だか、自分に対する周囲の態度に違和感を覚えるが

深く気にせず、何種類かの書類の束を抱きかかえ、生徒会室に戻って行くAnye


「会長、ただいま戻りました。」


「おかえり、Anye。…百科事典は借りてこなかったようだな」

デスクで大量の契約書を捌きながら、チラッと視線を向けるイザマーレ




「え、あ…///」

見透かされていたことに気づき、目を泳がせるAnye


「学長の挨拶文は手に入れたのか?」


「あ、いえ…学長は不在でしたので、伝言してもらえるよう

担任の先生に頼んでまいりました。後程また、伺います」


手に抱えた書類をテーブルに揃えて置きながら、時間を確認するAnye


「会長が事前に手配してくださったんですね。皆さま、すぐに

対応してくださって、助かりました。あ、あと、ベルデ様は、後程

画像を届けてくれるそうです」


「そうか、分かった。ベルデの画像は吾輩が受け取っておく」


デスクから立ち上がり、Anyeの持ち帰った資料に目を通しつつ

午後の講義に向かおうとしている彼女の腕を引き寄せる


「Anyeの講義が終わる頃に迎えに行くから。頑張れよ」

軽めのキスをして、首元にチュッと口づける

赤く染まった刻印を満足そうに見つめるイザマーレ


「…! か、会長…あのっ////」

焦ってアワアワするAnyeの髪をポンと撫で、耳元で囁く


「これ以上はお預け。続きはまた後でな♪」


「…!…////」

真っ赤な顔で固まるAnyeに、不敵な笑みを浮かべる


「…どうした?早く行かないと遅れるぞ。それともこのまま喰われたいのか?」


「!!し…失礼します💢💢💢💢💢💢」

ハッとしてから膨れっ面になり、プンスカしながら駆け出すAnye




午後の講義が終わり、ノートや筆記用具を鞄にしまっていると

突如、ざわめきが起こる


「Anye。イザマーレ様が迎えに来てくださったわよ。」


「えっ」

クラスメートの魔女から声をかけられ、驚いて後ろを振り向くと

出入りする魔女の波をかいくぐり、こちらに向かってくる

イザマーレが視界に入る


「会長!!魔女部の校舎まで、いらしてくださったんですか💦」


「何度も往復させるのは時間の無駄だからな。学長室へ行くんだろ?

吾輩も一緒に行くから、ついて来い」


「あ、はい。わざわざすみません…ありがとうございます」

慌てて立ち上がり、イザマーレの後をついていく


元の喧騒に戻った教室では

2魔のやり取りを興味津々に眺めていた留学生たち


「なんだかんだ言っても凄くいい雰囲気だよね? あの御二方は(笑)」

「ホントよね~」


そこへ、颯爽と姿を現した紅蓮の悪魔


「あ、ウエスターレン長官!!」


「よお♪舞踏会ではお疲れさん。…て、あれ?Anyeは?」


「すれ違いですね。先程、会長さんが迎えに来られて、行っちゃいましたよ」


「もう…本当に。Anye様をあんな風にこき使うなんて…

閣下も意地悪だなあ…」




「そうか。ちょうど手に入ったチケットがあるから、

渡してやろうと思ったんだが…まあ、良いや。

で?あいつら、何処に行ったか分かるか?」


「たしか…委員会のお仕事の関係で、学長室に行ったみたいです」


「長官、チケットって…?」


「ん、ああ。嵐が丘にある魔界美術館のチケットだ。

展示物が新しくリニューアルされたのを機に、

民衆にも公開することになったから」


「へえ…美術館、ですか」


「そうだ。Anyeに見せてやったら喜ぶと思ってな。

だが、そうか…学長室か。連れ立って出向くとは…♪」


ニヤッと笑い、意味深に呟くウエスターレン


「長官…?どういうことですか?

学長室に何か、特別な意味でもあるんですか?」


不思議に思い、前のめりになって問い詰めるリリア


「フッフッフ…ま、明日の情報誌を楽しみに待て。」

八重歯を覗かせ、瞬間移動で消えて行くウエスターレン


後に残された留学生たち


「……もしかして」

「お付き合いを正式に発…////////」

大きな声で言いかけたプルーニャの口を慌てて塞ぐスプネリア

「!! そうなのかな?」

「嘘――――!!まさか、そんな風には見えなかったけど……💦」




学長室


「失礼します。前期の校内パンフレットに掲載する

挨拶文を受け取りに参りました。」


「あ、はい。事前に伺っております。こちらでお願いします。」


部屋の主は、学園のトップとは言え、

出迎える相手は魔界全体のNO.2であり、最高魔イザマーレ族の長だ

そんなイザマーレに対し、丁寧な物腰の好々爺。Anyeへの対応も穏やかだ。


デスクの引き出しから原稿を取り出しながら

揃って現れたイザマーレとAnyeをチラッと見遣る


「…ところで…あの…お揃いで、ここまでいらっしゃったという事は…

つまり、そういう事…なのですね?」


含みを持たせた学長に、キョトンと首を傾げるAnye

その横で、ニヤッと不敵の笑みを浮かべるイザマーレ


「そうだ。まあ…こいつが必修科目を履修し終えるまでは、

このまま在学させるつもりだ」


「…え、あの…?」


戸惑いながら、イザマーレと学長の顔を交互に見つめるAnye

学長は一瞬、深いまなざしでAnyeを見つめ、感慨深げに頷いている


「そうですか。畏まりました。では本日より

あなた方2魔の私的交際を正式に認めましょう。」


「…!!…あ…///////」


イザマーレと共に、学長室へ出向く

その意味にようやく気付き、固まるAnye




「ですが、あの…他の学生たちの目もあります。

校内においては、なるべく節度ある行動を…あ、い、いえっ…

何でもありません…」


誓約書を取り出し、サインしながら、やんわりと釘を刺す学長だったが

物凄い勢いで睨み付けてくるイザマーレに気づき、慌てて姿勢を正す


「…よし。では、パンフレット用の挨拶文も手に入った事だし

生徒会室へ戻るぞ、Anye」


ボ~っと固まったままのAnyeと手を繋ぎ、立ち去るイザマーレ


…………

……


「…か、会長…あの…///」


手を繋いだまま、ズンズン進んでいくイザマーレに

未だに動揺したままのAnye


「(笑)ほら、早く来い。まだ今日は、やるべき事が残っているだろ」


「!…あ、そうですね。そうだ、画像は手に入りましたか?」


「ああ、受け取っている。」


笑いを堪えるイザマーレの言葉にハッとして、すぐに切り替え

何とか歩調を合わせ、ついていくAnye


生徒会室に辿り着き、ベルデから受け取った画像を広げるイザマーレ


美しくドレスアップしたAnyeと華麗にダンスを披露するイザマーレの姿

留学生たちと共に、テーブル席で穏やかに談笑する構成員たちetc…




「…やっぱり、とても素敵ですね…」


数ある画像の中から1枚を手に取り

感慨深げに正直な感想を述べるAnye


貴公子の装いのイザマーレが、

1魔で穏やかに笑みを浮かべている画像だった


(…ずるいなあ…)


Anyeの心から聞こえてくる声に、含み笑いをするイザマーレ


「お前の好みにピッタリの、理想の王子だったか?」


「えっ…あ…///////」


ドキッとしながら、ある事に思いを馳せるAnye


「…お、覚えて…らっしゃった…のね…💦///////」


…私の相手は、強くてカッコ良くて、素敵な王子様って

決めているの♪まやかしの愛でも、折角なら楽しみたいもの…♪


「忘れるわけなかろう。お前からの愛の告白だもんな。

かなり遠回しではあったが…(笑)」


ニヤッと笑うイザマーレに、Anyeは目を瞠る


「えっ…そ、そんなつもりは…な…///」

言いかけたAnyeを引き寄せ、口唇を塞ぐ


「…///////💦💦」


「なかったとは言わせないぞ。ま、どちらでも構わないけどな♪

あの時、お前の理想の相手になってやろうと決めたのだ。

それなら、文句はないだろ」




「……」

事の真相が分かった瞬間、心の底から湧き上がる想い

イザマーレに対する愛しさが無尽蔵に溢れ出し

胸の鼓動を抑える事も出来ず、目を逸らす事すらできない


そんなAnyeに微笑み、優しく抱きしめ髪を撫でるイザマーレ


「畏れるな。まやかしではない、お前の愛の魔法で

もっと吾輩を楽しませてくれ。これからも、ずっとな…」


再び口唇を重ね、深く口づけ合う……


……しばらくして、そっと口唇を離し、見つめ合う2魔

お互いに苦笑いをしながら、同時に振り向く


目の前のソファテーブルに広げられていた画像や

学長から受け取った挨拶文が

綺麗にプリントされた校内パンフレットに仕上がっていたのだ


「(笑)お前という奴は…相変わらずだな♪」


「……💦」


恥ずかしそうにしながら、出来立てのパンフレットを手に取ってみる


「…これも、私の力なんですか…💦あ、先程の会長の画像が

掲載されちゃいました…」


やや残念そうなAnye


「ん?お前だけのものにしたかったのか?

それは残念だったな。だが別に良いだろう。そんなもの…

会場ではもっと多くの目に晒されたんだからな。」


「そうですけど…じゃ、こちらの画像は要りませんね?」



「え、あ!!」

しまった、と目を泳がせ、狼狽えるイザマーレ


いつの間にか、会長デスクに置かれていた

ドレス姿のAnye、1魔の画像を魔力で手元に引き寄せ

ニンマリと笑うAnye


「…Anye。」


咳ばらいをしながら佇まいを正し、厳かに宣告するイザマーレ


「それは吾輩だけの宝だ。これ以上、他の誰の目にも晒したくないと

伝えたじゃないか。だから、それはお前にもやらない。返せ」


「(* ̄▽ ̄)フフフッ♪それなら、会長だけの画像も

私だけの宝物にしたいです。交換してくださいますね?」


小悪魔な表情で、楽し気に微笑むAnye


魔界美術館のチケットを渡そうと、

生徒会室の前に来ていたウエスターレンは

2魔の打ち解けた雰囲気に、

ニヤッと笑いながら紫煙を燻らせていた


「…ウエスターレン。そんな所に突っ立ってないで、入って来い」

ため息を付きながらも、穏やかに呼びかけるイザマーレ


「お前らのスクープ映像をゲットする絶好の機会だと思ってな…」


一瞬、バツが悪そうな素振りをみせながら、

気を取り直して、堂々と部屋に入り、釈明するウエスターレン


「言い訳がましいな。それより…何か用か?」


そんなウエスターレンに目を細めて問いかけるイザマーレ




「ああ、さっき魔女部の校舎で渡しそびれたんでな。

お!早くも仕上がりそうだな♪」


手渡されたチケットを見て、一瞬、物思いに更けていたAnyeだが

ウエスターレンの言葉にハッとして、作業を進める


「あ、はい…後は、会長のお言葉だけですね」


「どれ…貸してみろ」


手を翳し、Anyeの魔力で組み込まれていた画像が

別の画像に変化した


「!!わあ♪ありがとうございます(≧∇≦)

さすがウエスターレン様!!」


「…もう一枠くらい、記事が載せられそうだな…」


「ああ…やはりそうですよね💦」


ウエスターレンの指摘に、一緒に覗き込んで確認するAnye


「…ところで、チケットって何の事だ?」


ウエスターレンに無条件に懐いているAnyeを気にしながら

話題を変えるイザマーレ


「…ああ、これなら、吾輩の元にすでに正式な通達が届いている」


「そうだったな。こけら落としのセレモニーに正式訪問だったよな」


「!…そうでしたか…じゃ、これは要りません。

私だけでは、迷子になりそうですし(^-^;」




イザマーレと一緒に行けるかも、という当てが外れたと思い込み

気を取り直してウエスターレンにチケットを返そうとするAnye


「行くのは、お前も一緒だ。Anye」


「…えっ…」

驚いて振り向くAnyeの髪を撫で、微笑むイザマーレ


「学長への報告を済ませ、屋敷に戻ってから伝えるつもりだったが…

ネタばれになってしまったな(笑)」


「///////」


「ま、正式訪問は勿論だが、

別の日に、私的にでも行けば良いじゃないか。」


「そうだな…それなら、あと1枚用意してくれ。」


「え?」

イザマーレの言葉に耳を疑い、聞き返すウエスターレン


「その時は、お前も一緒に、3魔で行こう。分かったな♪」


「!…イザマーレ…///////」


思いがけないイザマーレからの誘いに面食らい、

固まるウエスターレンに、愛くるしい顔で笑いかけながら

Anyeに振り向く


「Anyeも…異存はないな?」


「……もちろんです♪(´∀`*)ウフフ…」

ニコニコと嬉しそうに微笑むAnye




 
 
 

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