魔界美術館
- RICOH RICOH
- 2024年11月26日
- 読了時間: 11分
「校内パンフレット?」
「そうだ。前期・中期・後期ごとに発行することになっている。
前期分はもう締め切りが迫っているから、すぐに編集を始めてくれ。」
「…はい。畏まりました。」
舞踏会が終わり、週明けの月曜日
昼休みに呼び出され、生徒会室に出向くと
これまでと何も変わらず、鬼会長から指示を言い渡されるAnye
「内容は交換留学生の滞在日記…などは如何でしょうか」
「ああ、悪くないな。それと、先日の舞踏会の事も大々的に載せたら良い。」
「あ、はい。畏まりました。」
「画像はベルデが撮っているはずだから、
選りすぐりを提供してもらえ」
「分かりました♪では早速、作業を始めますね。
過去ログを参考にしたいので、とりあえず図書コーナーに行ってまいります。
あ、ついでに、このカタログも返してきちゃおうかな…」
部屋の隅に置いてある鞄の中から、ファッションカタログを取り出し
すぐさま隣の校舎に向かうAnye
図書コーナーは、本校舎と魔女部の間に設けられた
オープンスペースにある。日当たりが良く、解放的な雰囲気で
Anyeもお気に入りの場所だった
カタログを返却し、過去ログの中から校内パンフレットを探していると
ガタターン…と大きな物音がした
振り返ると、留学生のスプネリアが椅子から転げ落ちているのを、
ラァードルが手を貸して抱き起こしているところだった
(あら…あの方たち…良い雰囲気ね♪)
静かに微笑み、再び書棚に視線を戻す
「……あ。」
ちょうど目の前に飛び込んできたのが、魔界歴史百科事典
「…………」
舞踏会の途中からずっと、気にかけている事があった
イザマーレに、Anyeの知らない重要な秘密があり、それが
これまでもずっと、イザマーレを悩ませている何かだということ…
だが、すぐに気を取り直し、作業を進める
(あんなにも高貴で、途轍もないオーラを纏う悪魔でさえ
抗えないほどの何か…そんなものを、ちっぽけな脳ミソで
いくら考えたって、ひねり出せるはずないもの…)
校内パンフレットの過去ログを手に入れて、
職員室、本校舎の研究室と順番に足を運ぶ
イザマーレが事前に話を通していたようで、打ち合わせはサクサクと進み
ホッとするAnye。何故だか、自分に対する周囲の態度に違和感を覚えるが
深く気にせず、何種類かの書類の束を抱きかかえ、生徒会室に戻って行くAnye
「会長、ただいま戻りました。」
「おかえり、Anye。…百科事典は借りてこなかったようだな」
デスクで大量の契約書を捌きながら、チラッと視線を向けるイザマーレ
「え、あ…///」
見透かされていたことに気づき、目を泳がせるAnye
「学長の挨拶文は手に入れたのか?」
「あ、いえ…学長は不在でしたので、伝言してもらえるよう
担任の先生に頼んでまいりました。後程また、伺います」
手に抱えた書類をテーブルに揃えて置きながら、時間を確認するAnye
「会長が事前に手配してくださったんですね。皆さま、すぐに
対応してくださって、助かりました。あ、あと、ベルデ様は、後程
画像を届けてくれるそうです」
「そうか、分かった。ベルデの画像は吾輩が受け取っておく」
デスクから立ち上がり、Anyeの持ち帰った資料に目を通しつつ
午後の講義に向かおうとしている彼女の腕を引き寄せる
「Anyeの講義が終わる頃に迎えに行くから。頑張れよ」
軽めのキスをして、首元にチュッと口づける
赤く染まった刻印を満足そうに見つめるイザマーレ
「…! か、会長…あのっ////」
焦ってアワアワするAnyeの髪をポンと撫で、耳元で囁く
「これ以上はお預け。続きはまた後でな♪」
「…!…////」
真っ赤な顔で固まるAnyeに、不敵な笑みを浮かべる
「…どうした?早く行かないと遅れるぞ。それともこのまま喰われたいのか?」
「!!し…失礼します💢💢💢💢💢💢」
ハッとしてから膨れっ面になり、プンスカしながら駆け出すAnye
午後の講義が終わり、ノートや筆記用具を鞄にしまっていると
突如、ざわめきが起こる
「Anye。イザマーレ様が迎えに来てくださったわよ。」
「えっ」
クラスメートの魔女から声をかけられ、驚いて後ろを振り向くと
出入りする魔女の波をかいくぐり、こちらに向かってくる
イザマーレが視界に入る
「会長!!魔女部の校舎まで、いらしてくださったんですか💦」
「何度も往復させるのは時間の無駄だからな。学長室へ行くんだろ?
吾輩も一緒に行くから、ついて来い」
「あ、はい。わざわざすみません…ありがとうございます」
慌てて立ち上がり、イザマーレの後をついていく
元の喧騒に戻った教室では
2魔のやり取りを興味津々に眺めていた留学生たち
「なんだかんだ言っても凄くいい雰囲気だよね? あの御二方は(笑)」
「ホントよね~」
そこへ、颯爽と姿を現した紅蓮の悪魔
「あ、ウエスターレン長官!!」
「よお♪舞踏会ではお疲れさん。…て、あれ?Anyeは?」
「すれ違いですね。先程、会長さんが迎えに来られて、行っちゃいましたよ」
「もう…本当に。Anye様をあんな風にこき使うなんて…
閣下も意地悪だなあ…」
「そうか。ちょうど手に入ったチケットがあるから、
渡してやろうと思ったんだが…まあ、良いや。
で?あいつら、何処に行ったか分かるか?」
「たしか…委員会のお仕事の関係で、学長室に行ったみたいです」
「長官、チケットって…?」
「ん、ああ。嵐が丘にある魔界美術館のチケットだ。
展示物が新しくリニューアルされたのを機に、
民衆にも公開することになったから」
「へえ…美術館、ですか」
「そうだ。Anyeに見せてやったら喜ぶと思ってな。
だが、そうか…学長室か。連れ立って出向くとは…♪」
ニヤッと笑い、意味深に呟くウエスターレン
「長官…?どういうことですか?
学長室に何か、特別な意味でもあるんですか?」
不思議に思い、前のめりになって問い詰めるリリア
「フッフッフ…ま、明日の情報誌を楽しみに待て。」
八重歯を覗かせ、瞬間移動で消えて行くウエスターレン
後に残された留学生たち
「……もしかして」
「お付き合いを正式に発…////////」
大きな声で言いかけたプルーニャの口を慌てて塞ぐスプネリア
「!! そうなのかな?」
「嘘――――!!まさか、そんな風には見えなかったけど……💦」
学長室
「失礼します。前期の校内パンフレットに掲載する
挨拶文を受け取りに参りました。」
「あ、はい。事前に伺っております。こちらでお願いします。」
部屋の主は、学園のトップとは言え、
出迎える相手は魔界全体のNO.2であり、最高魔イザマーレ族の長だ
そんなイザマーレに対し、丁寧な物腰の好々爺。Anyeへの対応も穏やかだ。
デスクの引き出しから原稿を取り出しながら
揃って現れたイザマーレとAnyeをチラッと見遣る
「…ところで…あの…お揃いで、ここまでいらっしゃったという事は…
つまり、そういう事…なのですね?」
含みを持たせた学長に、キョトンと首を傾げるAnye
その横で、ニヤッと不敵の笑みを浮かべるイザマーレ
「そうだ。まあ…こいつが必修科目を履修し終えるまでは、
このまま在学させるつもりだ」
「…え、あの…?」
戸惑いながら、イザマーレと学長の顔を交互に見つめるAnye
学長は一瞬、深いまなざしでAnyeを見つめ、感慨深げに頷いている
「そうですか。畏まりました。では本日より
あなた方2魔の私的交際を正式に認めましょう。」
「…!!…あ…///////」
イザマーレと共に、学長室へ出向く
その意味にようやく気付き、固まるAnye
「ですが、あの…他の学生たちの目もあります。
校内においては、なるべく節度ある行動を…あ、い、いえっ…
何でもありません…」
誓約書を取り出し、サインしながら、やんわりと釘を刺す学長だったが
物凄い勢いで睨み付けてくるイザマーレに気づき、慌てて姿勢を正す
「…よし。では、パンフレット用の挨拶文も手に入った事だし
生徒会室へ戻るぞ、Anye」
ボ~っと固まったままのAnyeと手を繋ぎ、立ち去るイザマーレ
…………
……
…
「…か、会長…あの…///」
手を繋いだまま、ズンズン進んでいくイザマーレに
未だに動揺したままのAnye
「(笑)ほら、早く来い。まだ今日は、やるべき事が残っているだろ」
「!…あ、そうですね。そうだ、画像は手に入りましたか?」
「ああ、受け取っている。」
笑いを堪えるイザマーレの言葉にハッとして、すぐに切り替え
何とか歩調を合わせ、ついていくAnye
生徒会室に辿り着き、ベルデから受け取った画像を広げるイザマーレ
美しくドレスアップしたAnyeと華麗にダンスを披露するイザマーレの姿
留学生たちと共に、テーブル席で穏やかに談笑する構成員たちetc…
「…やっぱり、とても素敵ですね…」
数ある画像の中から1枚を手に取り
感慨深げに正直な感想を述べるAnye
貴公子の装いのイザマーレが、
1魔で穏やかに笑みを浮かべている画像だった
(…ずるいなあ…)
Anyeの心から聞こえてくる声に、含み笑いをするイザマーレ
「お前の好みにピッタリの、理想の王子だったか?」
「えっ…あ…///////」
ドキッとしながら、ある事に思いを馳せるAnye
「…お、覚えて…らっしゃった…のね…💦///////」
…私の相手は、強くてカッコ良くて、素敵な王子様って
決めているの♪まやかしの愛でも、折角なら楽しみたいもの…♪
「忘れるわけなかろう。お前からの愛の告白だもんな。
かなり遠回しではあったが…(笑)」
ニヤッと笑うイザマーレに、Anyeは目を瞠る
「えっ…そ、そんなつもりは…な…///」
言いかけたAnyeを引き寄せ、口唇を塞ぐ
「…///////💦💦」
「なかったとは言わせないぞ。ま、どちらでも構わないけどな♪
あの時、お前の理想の相手になってやろうと決めたのだ。
それなら、文句はないだろ」
「……」
事の真相が分かった瞬間、心の底から湧き上がる想い
イザマーレに対する愛しさが無尽蔵に溢れ出し
胸の鼓動を抑える事も出来ず、目を逸らす事すらできない
そんなAnyeに微笑み、優しく抱きしめ髪を撫でるイザマーレ
「畏れるな。まやかしではない、お前の愛の魔法で
もっと吾輩を楽しませてくれ。これからも、ずっとな…」
再び口唇を重ね、深く口づけ合う……
……しばらくして、そっと口唇を離し、見つめ合う2魔
お互いに苦笑いをしながら、同時に振り向く
目の前のソファテーブルに広げられていた画像や
学長から受け取った挨拶文が
綺麗にプリントされた校内パンフレットに仕上がっていたのだ
「(笑)お前という奴は…相変わらずだな♪」
「……💦」
恥ずかしそうにしながら、出来立てのパンフレットを手に取ってみる
「…これも、私の力なんですか…💦あ、先程の会長の画像が
掲載されちゃいました…」
やや残念そうなAnye
「ん?お前だけのものにしたかったのか?
それは残念だったな。だが別に良いだろう。そんなもの…
会場ではもっと多くの目に晒されたんだからな。」
「そうですけど…じゃ、こちらの画像は要りませんね?」
「え、あ!!」
しまった、と目を泳がせ、狼狽えるイザマーレ
いつの間にか、会長デスクに置かれていた
ドレス姿のAnye、1魔の画像を魔力で手元に引き寄せ
ニンマリと笑うAnye
「…Anye。」
咳ばらいをしながら佇まいを正し、厳かに宣告するイザマーレ
「それは吾輩だけの宝だ。これ以上、他の誰の目にも晒したくないと
伝えたじゃないか。だから、それはお前にもやらない。返せ」
「(* ̄▽ ̄)フフフッ♪それなら、会長だけの画像も
私だけの宝物にしたいです。交換してくださいますね?」
小悪魔な表情で、楽し気に微笑むAnye
魔界美術館のチケットを渡そうと、
生徒会室の前に来ていたウエスターレンは
2魔の打ち解けた雰囲気に、
ニヤッと笑いながら紫煙を燻らせていた
「…ウエスターレン。そんな所に突っ立ってないで、入って来い」
ため息を付きながらも、穏やかに呼びかけるイザマーレ
「お前らのスクープ映像をゲットする絶好の機会だと思ってな…」
一瞬、バツが悪そうな素振りをみせながら、
気を取り直して、堂々と部屋に入り、釈明するウエスターレン
「言い訳がましいな。それより…何か用か?」
そんなウエスターレンに目を細めて問いかけるイザマーレ
「ああ、さっき魔女部の校舎で渡しそびれたんでな。
お!早くも仕上がりそうだな♪」
手渡されたチケットを見て、一瞬、物思いに更けていたAnyeだが
ウエスターレンの言葉にハッとして、作業を進める
「あ、はい…後は、会長のお言葉だけですね」
「どれ…貸してみろ」
手を翳し、Anyeの魔力で組み込まれていた画像が
別の画像に変化した
「!!わあ♪ありがとうございます(≧∇≦)
さすがウエスターレン様!!」
「…もう一枠くらい、記事が載せられそうだな…」
「ああ…やはりそうですよね💦」
ウエスターレンの指摘に、一緒に覗き込んで確認するAnye
「…ところで、チケットって何の事だ?」
ウエスターレンに無条件に懐いているAnyeを気にしながら
話題を変えるイザマーレ
「…ああ、これなら、吾輩の元にすでに正式な通達が届いている」
「そうだったな。こけら落としのセレモニーに正式訪問だったよな」
「!…そうでしたか…じゃ、これは要りません。
私だけでは、迷子になりそうですし(^-^;」
イザマーレと一緒に行けるかも、という当てが外れたと思い込み
気を取り直してウエスターレンにチケットを返そうとするAnye
「行くのは、お前も一緒だ。Anye」
「…えっ…」
驚いて振り向くAnyeの髪を撫で、微笑むイザマーレ
「学長への報告を済ませ、屋敷に戻ってから伝えるつもりだったが…
ネタばれになってしまったな(笑)」
「///////」
「ま、正式訪問は勿論だが、
別の日に、私的にでも行けば良いじゃないか。」
「そうだな…それなら、あと1枚用意してくれ。」
「え?」
イザマーレの言葉に耳を疑い、聞き返すウエスターレン
「その時は、お前も一緒に、3魔で行こう。分かったな♪」
「!…イザマーレ…///////」
思いがけないイザマーレからの誘いに面食らい、
固まるウエスターレンに、愛くるしい顔で笑いかけながら
Anyeに振り向く
「Anyeも…異存はないな?」
「……もちろんです♪(´∀`*)ウフフ…」
ニコニコと嬉しそうに微笑むAnye
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