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苦悩


今から二十万年前の話に遡る


雷神帝と風神帝の両者は

皇太子時代から、何かと気が合う、気の置けない親友同士だった

雷神帝の元で愛され、美しく咲き誇るLiliumも一緒になって

多くの貴重な時間を過ごしていた


それは、風神帝にとっても間違いなく幸せな時間であり

他には代えがたい、大事な宝であった


城に戻れば、いつも自分の部屋に咲いている紫蘭の花に

楽し気に話をするのが日課だった。

「もし自分が妃を娶るのなら、あいつらのような夫婦が理想だな……」

紫蘭の花は、そんな彼の口癖を、憧れの気持ちで聞き続けていた


温室育ちで世間を知らず、純粋な心を持つ紫蘭の花は

言葉にはしないが、若き風神帝にとって

間違いなく愛しい存在だったのだが

ほんの少しのボタンのかけ違いは、一向に埋まる気配がなかった


やがて、風神界内である噂を耳にする

雷帝妃懐妊の知らせ……


これを機に風神界も代替わりをし、すぐにでも正室を迎え入れるのでは…

城内に飛び交う噂を何度も耳にした紫蘭の花は焦り、

自らの魔法で変身した女の姿で風神帝に体当たりしたのだ


元々、彼女を愛していた風神帝は、すぐに受け入れ抱きしめる





めでたく彼の正室として迎え入れられた風帝妃Bletilla


だが、イザマーレの涙で力を与えられたリリエルや

リリの種の粉で生まれたスプネリアのように

何かのきっかけを得られずに、自らの力のみで変身した場合

時間制限がついて回り、夕闇が訪れるたびに不安に苛まれる


女に化身さえできれば、憧れの彼女、雷帝妃のように

風神帝からの愛を一身に受け、幸せになれると夢見ていたはずが

こんなはずではなかったと、常に悩み、暴走を繰り返す


そんな彼女を見捨てる事もなく、やはり愛し続ける風神帝だが

事態は少しも好転しない



風神帝の苦悩にいち早く気づいた雷神夫妻は、

どうにか風帝妃を引きこもらせず、外の世界に誘い出すため

あらゆる手段を尽くす


時には雷帝妃が悪役を買って出て、風神帝に可愛く迫り

まんざらでもない彼の表情に焼きもちを焼かせ

結果として彼の元に収まり愛されることで

どうにか心のバランスを保持していた


そんな時、皇女の事件が起きる


人間として生まれ変わった雷帝妃の娘に対し、

心からの祝意を持って、

自らの花の種をウエスターレンに託した後は、

荒れ狂っていた暴走癖はどうにか収まり

静かな時を過ごしてきたのだ。


数十年もの間、リリエルに出会う数分前まで

部屋の中から出る事もなく……




 
 
 

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