追憶
- RICOH RICOH
- 2024年11月6日
- 読了時間: 7分
……
…もし、今の気持ちを忘れずに居てくれるなら、
その願いが叶う方法を教えてあげる…
「!!…べ、ベルデ様…」
いつの間にか姿を現して、のんびり告げるベルデに驚く画家魔
「この絵を持って、イザマーレの屋敷に行ってごらん。今ならまだ間に合う。
ウエスターレンに見せれば、きっと君の思いは伝わるはずだから…」
「!!…はい!! 分かりました」
慌てて立ち上がる画家魔に、ベルデがひと言、付け加える
「あ、そうそう。人間になる前に、名前を貰いなさいね。
ウエスターレンに頼むといいよ」
……
駆け出していく画家魔を見送った後、魔法陣で文化局に戻り
森の奥にある一室に向かうベルデ
特殊な魔術を施したクリスタルの中で
凍り付き、時を止めたままの悪魔
手をかざし、ヒーリングを施しながら穏やかに話しかける
「…きっと、もう大丈夫。君も逝かなければね…」
10万年前の、あの日に止まったままの時が動き出し
氷塊が溶けて水泡となり消えて行く
「…失くした心を取り戻しておいで。きっと…また会える…」
あの日―
Lilyelをあかずの扉から見送った後
屋敷に残る使用魔たちは皆、怒りと哀しみに震えながら、
リビングに整列し、口を揃えて直訴した
「わたしたちの命は、未来永劫イザマーレ様とLilyel様の為に。
その誇りを胸に、このお屋敷を守り抜く礎となりましょう…」
自らの意思で永眠の呪を唱え、
屋敷に強力な結界を施し、扉を閉ざした
イザマーレとLilyel
その両翼を失い、自我を抑制するのも限界に達していたウエスターレン
湧き上がる怒りのオーラが留まる事を知らず
その度に各地に噴煙が上がり続ける
……
文化局の正面扉に、今日もいつもの悪魔が姿を現した
長い黒髪を縛り上げ、長い脚を惜しげもなく晒しながら
受付のデスクに座る自分を眼光鋭く睨み付けてくる
「…よお。局長に繋いでくれるか?」
「はい…局長から仰せつかっております。奥の扉へ…」
ぶっきらぼうに問いかけておきながら、返答を待つこともせず
物憂げな表情のまま、消える
たった数分間だけだが、物凄い圧に、ため息をつく
「…どうせ瞬間移動するんだから、
わざわざ、受付を通さなくても良いのに…///////」
ウエスターレンがわざわざ、堅苦しいルートを守り
正面の自分に声をかける
その意味を知ったのはいつだったろう…
その時、すぐ脇のベルが鳴る
来客した相手に、茶を淹れるようにという、無言の指示だ
奥の扉を開け、中に入ると
長い脚をだらりとさせ、額に手をやりながら
物憂げに横たわっている
まだ数分しか経っていないはずだが、すでに灰皿は満杯になっている
本来なら、握りつぶすだけで煙草そのものを消滅させるのだが
吸い過ぎを自覚させるため、ベルデがわざと置いたのだ
「…吸い過ぎではないですか?」
思わず、声をかけた自分に気づき
冷たい表情のまま引き寄せ、押し倒される
宙に浮いたままのグラスを手に取り、無理やり口に含ませる
息苦しくむせて咳き込むのも構わず、服を引き裂かれ
熱い舌に犯される
「…俺は、あいつの淹れた茶以外、飲む気はない。
どうせなら、酒を持って来いと、何度言えば分かるんだ?」
視線を交わす事も許されず、背後で押さえつけられながら
快感の波に耐える
無言のまま事を終えると、最後にポンと髪を撫でられ
「…すまなかった。またな…」と
ひと言だけ呟き、姿を消す
屋敷の扉が閉ざされ、すぐの頃だった
自分の邸宅に戻り、1魔、苦しみ続けるウエスターレン
自らの能力により、見たくもない地獄の日々を
否が応でも感じ取ってしまうのだ
屋敷の中で、
ウエスターレンの腕に抱かれることを拒み
強烈に睨み返してきたLilyel
それが今では、憎きゼウスの手に堕ちて
無残に凌辱され、泣き叫んでいる…
…例えどんなに穢されようと、お前の気高さは変わらない…
熱い想いが自身の身体を支配し、
炎で焼き尽くされ、苦しみ悶えるウエスターレン
毎回、事を終えたLilyelの泣き濡れた顔を見る度に
強烈な怒りで、自分を覆う火の粉を爆発させる
目の前に広がる漆黒の闇に、見失ったままの光を求めて
止めどなく流れる涙……
見かねたベルデがダンケルに相談し、
文化局の森へ通うよう、厳命を下したのだ
自分に従わず、綻びを生み出すだけのウエスターレン
本来であれば処刑対象だ
さすがにそれだけは躊躇した、ダンケルの苦肉の策だった
「文化局の部下だから、何も気にしなくていい。
治療だと思ってくれれば良いから…」
そんな風に紹介されたのが、受付に座る女悪魔だったのだ
ただ怒りの捌け口として女悪魔を抱いた後
診察という名目で、心に抱えた闇をベルデに吐き出す
「…大丈夫。きっとイザマーレは君の元へ帰ってくるから
肝心な時に、君が暴走して壊滅させることだけは、やめてくれよ…」
そんな風に、のんびりと話しかけながら
ウエスターレンを励まし続けるベルデ
危うい綱渡り状態の中、ついにLilyelが処刑される
その瞬間、完全に理性を失い
ゲヘナの炎の如く邪眼を剝き出し、湧き上がる炎に包まれ
苦しみ悶えるウエスターレン
「ウエスターレン!!堪えてくれ…イザマーレも彼女も居ない今、
君を浄化させる事は誰にも出来ない…!!君を失ったら
光は永遠に戻らないぞ!!!!!!」
角を全開にさせ、荒ぶるベルデを見たのは、この時だけだった
ベルデの渾身の叫びを、僅かな理性で受け止めたウエスターレンは
魔界中を凍土化させながら、自身を凍り付かせ時を止めた…
心臓を停止させたウエスターレンの魔体を守るために
女悪魔の心を使い、エンバーミングを施したベルデ
そして、心を失った女悪魔にウエスターレンの世話をするよう命じた
程なくして、ヨッツンハイムを消滅させ、復活を遂げるイザマーレ
閉ざされていた屋敷の扉が開かれ、光が灯る
だが屋敷の中に、駆け寄る妻の姿はなく、拳を握りしめ
哀しみに泣き崩れる
光の粒が結晶となり、永眠の呪から解きほぐされる使用魔たち
そして…
報せを聞きつけたベルデは、すぐさまイザマーレを呼び寄せる
エンバーミングを施されたウエスターレンの元へ…
イザマーレの詠唱により、ウエスターレンの時が動き出す
……目を覚ませ、ウエスターレン…
凍り付き、震え続けるウエスターレンを抱きしめ
口唇を重ねるイザマーレ…
ウエスターレンの復活と共に、その任を終えた女悪魔は
敢え無くその時を閉ざす
大切な宝を失ったままの絆
イザマーレとウエスターレンの強い結び付きに感動しながらも
Lilyelの犠牲
それを決断した自らを悔いるベルデ
「…君は、本来であれば、
ここで朽ち果てる事しか許されない存在だ
ウエスターレンを助ける為だけに
僕が作り上げたクローンだったから…」
口調はどこまでも穏やかに、
だが、渦巻く感情で震えていた事を知るのは
抱き上げられた女悪魔だけ…
「どうしてだろう…僕は今、君を助けなければいけない
そんな気がするんだよね…」
独り言ちながら、彼女にエンバーミングを施す
…ひょっとして…君のせいなのか…?…Lilyelちゃん…
小さなため息をひとつ零し、のんびりと立ち去るベルデ
……
人間に生まれ変わった元女悪魔は、
リリエルと同様、厳しい家庭環境の中に育ち、
自然と耳にした最高魔軍の教典に導かれ、信者となる
そして
時を超え、彷徨い続けたイザマーレとウエスターレンが再び結実し
新たな奇蹟を起こす瞬間に、リリエルと運命の出会いを果たす
「あの…これまで知らなかったんですが…
もしかして、リリエル様ですか?」
「あ、はい💕 よろしくお願いしますね(*^^*)」
「///はい。噂は聞いていたんです。私は、花蓮光と申します。
これから、色んなこと教えてください💕」
「カレンコウ…?」
「はい。『花蓮』に『光』と書いて花蓮光っていうんです///
こちらこそ、よろしくお願いします♪」
照れくさそうに俯きながら、明るい笑顔を見せる花蓮光…
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