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火の館


ベルデに連れられ、向かった先は、

小高い丘になっているビターバレーの中心から

少し離れた場所にある、適度な大きさの館


窓を開け放ち、紫煙を燻らせるウエスターレン

そこから見える景色に、目を細める


小高い丘の先にそびえ立つ屋敷に灯る光


(ほう…)


モニター越しでも、邪眼越しでもない、

肉眼でも捉えられるその光に、そっと笑みを浮かべる





「とりあえず、適当な感じに見繕っておいたよ。

でも…良かったの?わざわざ屋敷を出る事もなかったんじゃない?」


「ふっ…魑魅魍魎の蠢く物騒な世界だからなあ。

魔界を統治するダンケルと2分するほどの魔力を持つイザマーレだ。

間抜けな貴族共の付け入る隙をわざわざ構築するのは

俺にとっても面倒だからな。ダンケルも建前上、苦しい胸の内ってやつだな」


「…まあねえ…それじゃ、僕はこれで失礼するよ。またね」


ベルデが立ち去った後、魔力で適当な内装に作り替えていく

ウエスターレンにとって必要なのは煙草と美酒、そしてギター。

あとは、24時間365日、常に網膜に映し出すためのモニター


自分好みの配置に整えていると、いつの間にか夕闇を迎え

窓越しに見える屋敷にも光が灯る…


「…ん?」

訝しげに目を細めた

視線の先には、こちらに向かって優雅に進んでくる馬車


(…あいつめ。わざわざ公式訪問の「てい」を装うとは…)



王都内ならまだしも、少し離れた場所に位置するここでは

かえって目立ちすぎる豪奢な馬車


ダンケルから配属された使用魔が出迎える


数分後、扉がノックされ、声がかかる


「副大魔王様がお見えになりました」


「お通ししろ」




ため息がちに返事をするウエスターレンの前に姿を現した光の悪魔


「…情報局長官殿へ、吾輩からの就任呪いだ♪」


「お前ねえ…たしかに移動は極力馬車で、とは言ったが…

俺様の監視下にない時間帯は危険だろうが!!」


「(笑) 何を言うか。吾輩、そんなにヤワじゃないぞ♪それに…

堂々と正面切ってお前に謁見できる機会を逃す手はないからな」


「…お前のために。それだけの事だったが、誰かさんのお節介が

先回りしてやがったとはな。有難く、宮仕えを拝命してやった。

そうなったからには、お前とプライベートに過ごす時間など許されない。

分かっているだろう」


「…屋敷の部屋に、お前の私物を全て残したままで…?」

そっと近づき、魅惑の視線を向けるイザマーレ


「…ま、建前はな♪」

静かに笑い、その綺麗な金髪を撫で、口唇を重ねる


…その日はそのまま、ウエスターレンの館で夜明けを迎えたイザマーレ






ウエスターレンの腕に包まれ、まどろみながら、

ダンケルから依頼された内容を相談し合う

「そうか…それなら俺も協力してやる。お前は何も心配するな」


それから、「あくまでも建前上」は住まいも別になったものの

見た目の壁などお構いなしで逢瀬を続けるイザマーレとウエスターレン


だが…


ふとした時に胸に去来する孤独感は、日を追うごとに蓄積されていく



常に自らを律し、学生と副大魔王の執務という二足のワラジを

並ではない努力でこなしていくイザマーレではあるが

愛を失くし、雄としての欲求を封印したままの身体には

計り知れないほどの負荷がかかり続ける


食はどんどん細くなり、その身体は徐々に小さくなって行く




そんな頃、新入生として入学してきたバサラとセルダ


バサラは、校舎内で初めて出会ったイザマーレの姿に、胸をときめかす。


ランチタイムになった。


「閣下~。一緒にランチ食べよ♪」


イザマーレの前にワラワラと集まり、

豪華弁当を大きな口でむしゃむしゃと食べるバサラ

だが、弁当の他にもケーキやお菓子など、たくさん平らげるバサラの前では

食欲も沸かず、そっと教室を出て行くイザマーレ


「もう~…いったい、いつもどこに行ってるんだろ」

イザマーレに振られて悔しいバサラは、何気にその後を追う


イザマーレが向かった先は生徒指導室。


「ウエスターレン…」




「イザマーレ。おいで。」


部屋の中で書き物をしていたウエスターレンは顔を上げ、

イザマーレを中に引き入れる


テクテクと歩いて、その長い脚の上にちょこんと座るイザマーレ


「ほら。今日も、お前の為にオルドに作らせた特製弁当だ。

お前用の茶碗も用意してある。一緒に食べような」


「…♪」


栄養満点で味付けも文句なしのオルドの特製弁当を

好みの量で、大好きなウエスターレンの傍で味わえる


モギュモギュと食べている間に、ウエスターレンは様々な仕事をこなし続けている

むう、と顔を向けると、そんなイザマーレに気がつき、そっと髪を撫でてくる


「美味そうだな。お前の気に入ったおかず、くれないか?」


「…ん。」


ウエスターレン用に残した弁当の中から、おかずを選び

口元に運ぶイザマーレ


「ん。美味いな。本当はお前も、もう少し量を増やせると良いんだがな」


「ウエスターレン…吾輩は、食事より…//////」

ほんのり顔を赤くしながら見上げるイザマーレと、そっとキスをする


………


ドアの隙間から、一部始終を覗いていたバサラ


(…俺はいつだって、赤い悪魔に邪魔される…)





 
 
 

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