魔宮殿
- RICOH RICOH
- 2024年11月19日
- 読了時間: 4分
そんなイザマーレを愛しく見送りつつ
ウエスターレンはその足で、反対側の巨大な建物に向かい、
長廊下をゆっくりと歩いて行く
重厚に施された結界も、彼の魔力を持ってすれば何の意味も持たない
(だが、今回だけは仕方ないな)
手続きに煩わしさを感じながら、敢えてスルーパスはせず
正面扉から入り込む
扉を抜けると、吹き抜けの広間
ドーム状の屋根に、幾重にも施された豪華絢爛な装飾
明かりは、等間隔に設置された燭台に灯された炎のみ
その中を進む、ウエスターレンの靴音のみが静かに響く
ようやく次の扉に辿り着くと、シュンッと音を立て左右に開き
絶対零度の冷気に包まれる
「…ウエスターレン様。お待ちしておりました。
皇太子殿下は王室でお待ちです。」
王室専門の警備隊、シルバが恭しく出迎え、誘導していく
やがて辿り着いた先で待ち構える、この建物の主
魔界の絶対君主、ダンケル
先代の大魔王が闇に隠れ、王座が空席となった今も
なぜかすぐに即位せず、皇太子の身分のままでいる
だが、実力・魔力ともに実質的な頂点であり
その意に反する者は、彼の意のままに葬り去られるだけだ
玉座に禍々しく座り、冷徹に睨み付ける魔王の前に立ち
最敬礼の姿勢を取る
「情報局ウエスターレン、只今参りました。」
「顔を上げろ、ウエスターレン。今日こそは先の辞令に対する答えを
聞かせてもらえるのだろうな」
「皇太子殿下を真の主と崇め、
その治世のために職務を遂行することを誓います。」
「…良いだろう。ではお前には元の役職を戻そう。
本日今、この時間より、お前は私の臣下だ。これまで以上の働きを
期待しているぞ」
「…御意」
一度も視線を合わせず、差し出された指先にキスを落とし、すぐさま離れる
「…お待たせしました」
ダンケルの呼び出しに応じて、ベルデが姿を現す
「ウエスターレン。分かっておるな。単なる臣下に過ぎないお前が
私の最も愛する悪魔と添い遂げるなど、許される事ではない。」
「………」
眼光鋭く一点を見つめてはいるが
表情から感情を推し量る事は出来ない
おそらく、この決定が下される事など、予測済みだったのだろう
「お前の根城は私が用意する。ベルデ、奴を館まで連れて行け」
「…用意はしてある。こっち…」
のんびりと魔法陣を出すベルデ
抗わず、陣の中に進むウエスターレン
「ウエスターレン」
ダンケルの呼びかけに、返事もせず、ただ振り向く
「…情報局の長として、私の愛する悪魔の専任警護をお前に任命する。
ついては、イザマーレの通う魔界高等学校の警備と、教官職をお前に任せたい」
「…御意。畏まりました」
薄っすらとほくそ笑む表情を隠すように軍帽を被り、
そのままベルデと連れ立って消えて行く
数刻後、パチンと指を鳴らし、それまで魔力でオーラを消されていた
悪魔が姿を現す
「さて…これで良かったのかな?イザマーレ。
あいつの長官職への復帰は、お前からのたっての希望だったからな」
「…はい。ありがとうございました」
「お前に任せたい職が未だに空席のままで、
私だけ大魔王になるわけにはいかない。今度こそ、逃がしはしないぞ」
「…御意。鋭意務めさせていただきます」
「…ふっ…まあ良いだろう。だが、イザマーレ。
一時の間でも、この私を闇に置き去りにしたまま、人間界などに
逃げ出した罪は重い。分かっておるな?」
「…」
「あまりにも退屈で、お前らを真似て私も時折、
人間界に降り立つ癖がついてしまったではないか」
「…(苦笑)」
「そこで知ったのだ。この世の真実と、
世に蔓延り流布している事柄の隔たりをな」
「…確かに。仰る通りですね」
「可愛いお前に極悪非道の限りを尽くした天界を
奴らは未だに『神』などと呼び、盲目的に媚び諂い続けている
これは誠に、私の美学とは反して醜い方程式ではないかね?」
「………」
「そこでだ。もっと画期的に世の勢力図を塗り替える手立てを編み出したい。
それに当たっては、お前の力も必要になるだろう。人間界に自ら降り立ち
我々の力を認識させるのだ。」
「!!」
「…この忙しい最中に、
わざわざお前を魔界高等学校に編入させたのには
理由がある。共に人間界に降り立ち、
活動するにふさわしい悪魔を選び出すのだ。
それが、お前に与える卒業課題だ。良いね?」
「…御意。見極めは、吾輩の判断でよろしいのでしょうか?」
「勿論だ。頼んだよ」
頭を下げ、その場を退出するイザマーレ
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