真昼の星
- RICOH RICOH
- 2024年11月25日
- 読了時間: 7分
「……」
Anyeも、分かってはいるのだ
相手は、魔界はおろか、世界を見渡しても唯一無二と言えるほど
高貴で、強大な力をもつ大悪魔だ
自分の渾身の抵抗など、足元にも及ばないどころか
なんの意味もないことくらい…
それでも、Anyeは攻撃を繰り返すしかなかった
それだけが…彼を憎み、闘いを挑み続ける事だけが…
生きる拠り所だったのだ
(…私に…もっと力があったなら…)
かつて、絶望の謡を歌い上げた翌朝、目にした光景が
ずっと心に燻り続けている
眠りこけていた自分の横で、何食わぬ顔で
大地を蘇らせるほどの強さ…
「…!…///////」
その後、何度か無理やり彼の手に堕ち、
口唇だけでなく、身体まで奪われた
肌に触れる手のぬくもり…
忘れようとしているが、ふいに思い出しては赤面を繰り返す
Anyeがこれまで経験したことのないほど、優しさに溢れていた
…それこそが、悪魔の誘惑の力だと分かってはいても…
…彼も、同じなんだろうか…
これまでのように、勝手にAnyeの世界に入り込み、
また勝手に消えて行くだけだとしたら…
(……)
ふと、イザマーレに言われた言葉を思い浮かべる
…吾輩なら、お前のその声に力を与えてやれる。
お前はそれを望むだけで良い。畏れるな…
だが、苦笑いを浮かべ、ため息をつきながら首を横に振る
(馬鹿ね…そんな都合のいい事、あるわけないじゃない…
それこそ彼の思うツボだわ…だけど…)
イザマーレの言葉をどんなに打ち消そうとしても
唯一記憶から離れない景色があった
瓦礫の中で目覚めた時に、芽吹いていた草花…
イザマーレの力が引き起こした奇蹟であることは
疑いようのない事実だ
「…ずるいな…」
邪念を捨て、心に抱く感情のまま、旋律を紡ぎ出すAnye
控え目な素朴な星は 真昼の空の遥かな奥に
煌めいている 目立たぬように
明るい日向を 歩むように…
輝きを包もうとする星は…
真昼の空に きらめいている 密やかに 静かに…
分かっていたのだ
イザマーレに出会った時から、心に抱いた感情は
憎しみではなく、憧れだという事も…
全ての事に虚しさを感じたAnyeは魔界から立ち去り
元のフェアリー国へ帰っていた
ほんの数か月、不在だった間に
イザマーレが蘇らせた大地には
小さな草花や苗木が豊かに実り始めていた
シンボルのように生い茂る柿の木の根元で
瓦礫の山から損傷の少ない煉瓦を運び
積み木のように小さな四角い空間を作る
柿の葉を一枚、空間の中心に敷く
「…えいっ♪」
Anyeの掛け声で、瞬く間に小綺麗なログハウスが出来上がる
丸太小屋に小窓がついて、夜になれば星空を眺めることが出来る
こじんまりとしたキッチンで、お湯を沸かし、粉を挽いて
せっせとこね始める
粉の塊をコンロに入れ、ハウスの中を掃除し
数時間後、焼き上がったパンとコーヒーを味わう
夜は灯りもなく真っ暗だが、星明りに照らされ
ホッとしながら眠りにつく
翌朝、朝露に濡れた植物の葉を数枚摘み取り、
ログハウスの近くに並べた小石の真ん中に置く
「…えいっ♪」
たちまち井戸と浴槽が出来上がる
魔力でお湯を沸かし、湯船にゆったりと浸かる
もう一枚残しておいた葉っぱを新しい服に仕立て上げ
着ていた服を井戸の水で洗濯する
小枝に通した紐に、洗濯し終えた服を干し
足元に咲く草花を眺め、丁寧に吟味しながら摘み取っていく
たんぽぽ、シロツメクサ、ナヅナ、…
これらは、イザマーレが自分に残してくれた貴重な財産だった
遠慮なく摘み取り、肥やしにしていく
摘み取った葉や花びらを木の器に抱え、ログハウスまで戻った時
扉の前にいる存在に気づき、足を止める
壁にもたれ、そよ風にマントをたなびかせ、
気持ち良さそうに腕を組み、空を仰ぎ見ている悪魔…
Anyeは一瞬固まるが、思い直したようにイザマーレの前を横切り
扉を開け、ハウスの中に入っていく
無言のまま、薬缶をコンロにかけ、お湯を沸かすAnye
背後に纏わりつく、イザマーレの視線…
「…座ったら?不釣り合いな丸太椅子で申し訳ないけど…」
「…もてなしてくれるのか?すまないな」
静かに微笑み、勧められるまま座り、優雅に足を組むイザマーレ
Anyeの淹れたお茶を飲みながら、静かな時間が流れていく
暫くして、イザマーレが口を開く
「…どうした?もう…追いかけっこはやめるのか?」
「!…」
イザマーレの言葉に、薄っすらと笑みを浮かべ視線を逸らすAnye
「…ふふっ…そうね…なんか、もう飽きちゃったから…」
「……」
じっと黙ったまま見つめるイザマーレ
「元々、苦手なの…誰かを憎み続け、怒り続けるのは…
貴方も、煩わしい女が居なくなれば、満足でしょ?」
微笑を浮かべ、自嘲気味に話すAnye
「いや…そんなわけにはいかないな。」
即答するイザマーレに、目を瞠るAnye
「!!…どうして…」
「消滅したはずの世界が、再び息を吹き返し、
強いオーラを発生させれば、見過ごすわけにはいかないからな」
「!!…///////」
イザマーレの辛辣な言葉に真っ赤になり、プイっと顔を背けるAnye
「…良く言うわ…私なんかの弱い魔力に、強いオーラなど
あるわけないじゃない!!」
「…好敵手が聞いて呆れるな。吾輩が、唯一認めた相手だというのに…
自惚れるのもいい加減にしろ。お前を狙うのは、吾輩だけではない。
お前はこれまでも、散々、傷ついてきただろ。
それでもまだ、意地を張るのか?」
「…仕方ないじゃないっ どんなに魔力を駆使しても、
私の力では、こんな、その場しのぎのような
ほったて小屋しか作れないの!!
あんなに素敵な…力を簡単に使う貴方に
少しでも追いつきたいと思うけど…無理なんだもの…///////」
俯き、口を尖らせるAnye
「…夜は?」
「…えっ?」
Anyeは思わずキョトンと首を傾げる
「夜は、どうしているのだ?
灯りもなく、暗がりで怖い思いをしているのではないか?」
「///…べっ 別に…大丈夫です!
星の光で十分だから……///」
イザマーレのまさかの言葉に、照れくさくて
ツンとしてプンスカするAnyeの腕を取り、抱き寄せる
「だから!なぜそんな、まやかしの光で満足出来るのだ!!」
抱きしめたAnyeの頬が、イザマーレの胸板に触れる
真っ赤になり、震えるAnyeに構わず
抱きしめたまま、髪を撫でる
胸の高まりに抗えず、ギュッと目を瞑るAnye
「心配は要らない。畏れるな…」
「…………」
あの時のように囁くイザマーレの優しい声に
こわばり続けた力が抜けていく……
その時、夕暮れで暗がりになりかけていた部屋に
柔らかい、ほのかな光が灯される
「!………」
驚き、ポカンとして見上げるAnyeに
イザマーレは微笑む
「分かるか?これは、お前の力だ。Anye…」
「えっ……」
キョトンとしたままのAnyeの頭をポンと撫でる
「意地っ張りのお前にも分からせてやらないとな。
明日もまた来る。どうせ、食う物にも困ってるだろ?」
「……」
言われた言葉の意味が分からず、
ボーッとしたままのAnyeを見つめ
扉を開けようとしたイザマーレ
その時
カサカサ………
「…!…へっ…え?!」
初めて聞く物音に狼狽えるAnye
イザマーレもその音の発生源に気づいた
「…温もりのある光に吸い寄せられたか…」
「ち…ちょっと、待って待って…💦 こ、この音は…何?」
「え?虫の音だろ?豊かな自然が蘇ってきた証…って💦」
「いっ いやああ…っ 。゚(/□\*)゚。」
さも当然のように話すイザマーレの言葉を遮り、抱きつくAnye
「…////おい…えっと…」
予想外過ぎて、目が点になり固まるイザマーレの事などお構い無しに
恐怖に震え、しがみついたまま離れようとしないAnye
「…💢💢 お前なあ…💦 吾輩が折角、たまには
真摯な態度を見せようと堪えているというのに…💢💢」
「///こっ怖い……いやああ(。>_<。)」
「あのな…お前は花の化身だろーが!!そんなに虫が怖いのか?
お前…そんなんで、よく…」
呆れ果て、脱力していくイザマーレ
(孤独に耐えてきたな…?)
「だ…だってだって…💦………///////」
真っ赤になって涙さえ浮かべるAnyeに、ため息をつき振り返る
「…おいで、Anye…」
優しく抱きしめ、髪を撫でるイザマーレ
(なあ…Anye…ここまでの、まどろっこしい遠回りは何だったんだ?)
その晩、ログハウスの扉が消え続けたのは、言うまでもない…
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