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絶望の謡


破壊しつくされた瓦礫の街

巨大な力の前に成す術もなく、ただ茫然と立ち尽くすAnye


大切なものを奪われた憎しみより

大きすぎる哀しみの前に、溢れる涙を堪える事ができない


震える手に、自らの種を握りしめ、息を吐く

瞳をとじて、そっと歌い出す… 


…きみは 荒れ果てた土地にも 種を蒔く事ができるか…?


どんなに我慢しても、涙で声が詰まる

途切れがちになりながら、それでも旋律を止めようとはしない


…きみは 流れる水の底にでも 種を蒔く事が…?

世界の終わりが 明日だとしても…

種は…無償の愛……



声を震わせ、フレーズを終わらせる

閉じていた瞳を開くが、目の前の景色は何一つ変えられない


震える手で握りしめている種を

どうしても蒔く事が出来ないAnye


(…やはり…私の力では…)


涙で滲ませながら、その瞳に光を宿す


(…それなら、私のやるべき事は一つだけ…)




Anyeが立ち去った数刻後、同じ場所に現れた悪魔


姿を隠し、オーラも消した状態で、Anyeの歌い上げる旋律に

耳を澄ませていた


花と緑に溢れたこの国の美しい街並みは、イザマーレも知っていた


(たしかにな…)


憎むべきは、魔界を脅かす天界と一部のフェアリー族であり

咲き誇っていた草花には何の罪もないのだ


大魔王の厳命に従い、容赦なく鉄槌を下した自らの行為に

これまでは恥じる事などなかったが…


Anyeの歌声を耳にして

初めて抱いた感情に戸惑っていた


イザマーレは何気なく、オーラを探した

住処も、何もかも奪われ、彼女の暮らしていた跡地で

瓦礫に埋もれるようにしゃがみ込んでいる


(…安眠など、出来るはずもないか…)


俯き、涙を瞳に湛えるAnye

その心に抱いた決意を見透かしておきながら

直ちに処刑することはせず、

闇のような漆黒の口唇を開き、小さく詠唱する


夢幻月詠イザマーレの言霊で

泣きはらした顔で眠りにつくAnye


そして…Anyeが歌っていた場所に

新たな生命が芽吹き始めたのを見届け

その場を立ち去った




ふと、目を覚ますAnye


(…いつの間にか、眠っていたんだわ…)


あれから時折、同じような事が起きる

身も心も疲れ果て、深い眠りなど訪れそうにない。そう思っているのに

気づかぬ内に寝落ちしているのだ


「……あ…やはり…」


あの絶望の謡を紡いだ夜もそうだった

ふと目覚めると、それまでと何かが異なるオーラを察知した


「!」


驚いて駆けつけてみると

Anyeの謡では叶わなかった奇蹟が起きていた


荒れ果てた土地に、小さな芽がまばらに生えていたのだ


「…まさか…こんな事、誰が…」


破壊しつくされた街、あの瞬間、この場に居たのは…

自分の他には、あの悪魔しか考えられない


「……すごいな…」


……想像しようとして、考えるのをやめる

憎しみしかなかったAnyeの心に

別の感情が芽生えたのを認めたくないのだ


改めて、手に握る種の感触を確かめ、強い視線で見据え

誤魔化すように、その場を離れる



 
 
 

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