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Prologue ―大魔王の事情―


魔宮殿


野獣の内臓を模して、歪な円形で縁取られた

禍々しい空間


そこに姿を現した、黄金の怒髪天


「失礼します。ダンケル殿下…」

マントを優雅に捌き、跪く姿は、

玉座に座る皇太子さえも息を呑む美しさだ


「わざわざ、お時間をいただき有難うございます」


「うむ…まずはその、愛くるしい顔を見せたまえ。」


優雅に差し出す指先に、そっとキスをして視線を交わす


「果てなき闇の世界に、お前という光があれば

それだけで心が潤う。その為に、時間を作るなど

造作もない事だ…おいで、イザマーレ…」


「有難きお言葉…ですが、殿下の貴重なお時間を

無駄にするわけにはいきません。」


心から忠誠を示しているはずのイザマーレは、視線を合わせず

さりげなく身体を離し、上手く立ち回る

そこへ、鬱陶しく羽搏きを続ける目玉蝙蝠


「やれやれ…せっかくのお前との時間くらい、優美に過ごしたい

だが、お前にも都合があるだろう。用件を述べよ」


忙しない目玉蝙蝠に紅蓮のエレメンツを感じ取りながら

ダンケルは退屈そうに玉座に座り直す




「実は、殿下にご報告がございまして。」


何かを見つめ、微笑むイザマーレに興味を示しながら

無言でその先を促すダンケル


「…ある女を、吾輩の正式な妻として迎えました。」



冷徹な微笑……

私を深く知らぬ者は皆、一様にそう表現する


この時の私も、まさにそのように見えただろう


だが……


驚きのあまり、言葉すら失っていたという事に気がついたのは

随分後になってからだ


「そうか。であれば、お前の婚礼に合わせ、

空いたままの役職をお前に任せたい。どうだ?」


「有難うございます。先代が永眠されてから数年……

やっと御恩に報いる報告ができます」


「しかし…皇太子である私が今は独身だというのに…

この際、立場そのものを交換したいくらいだ。私は構わんぞ(笑)」


「ご冗談を…」

静かに微笑み、その場を立ち去るイザマーレ




しばし、その場に佇むダンケル

これまで、自分が妃に迎え入れた女は皆、

政略的な意味合いのものでしかなかった

日頃、ウエスターレンと強い絆で繫がるイザマーレの事を

熟知しているダンケル


今回イザマーレが嫁にするのも、同じように形式的なものだろう

思い込もうとして、立ち止まる


…あいつが?


同じ魔王という立場にありながら

自分とはあまりに違うオーラを纏うイザマーレ


迷いもなく決めた相手だとしたら…?


氷河よりも冷たい闇の中に閉じ込めた感情が疼く

それは嫉妬なのか、憧憬なのか


それすら、分からぬままに…




 
 
 

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