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オペラ座の魔物(上)


座席番号666の謎


その劇場の客席は不思議な配席になっている

661、662……665、667、668……


一夜の夢舞台を待ち焦がれ、訪れた客たちは皆、一様に不思議がる

なぜこの劇場は、欠番があるのだろう……


初来場者は決まって間違え、キョロキョロと探す羽目になるのだ

そんな若者に、常連の貴族夫婦がやさしく話しかける


「大丈夫です。貴方の席はここで良いのですよ。

666番はここではなく、ほら、あそこ。」


貴族が指さした場所は、ステージの上。

舞台の真正面で全てが見渡せる特等席。

厳かな装飾が施され、だが誰も座る事は許されない


きな臭い戸惑いの中、暗転し、幕が開かれる



オケピットから奏でられる豪華絢爛な音楽

煌びやかな照明と共に繰り広げられる夢舞台

客の誰もが引き込まれ、夢心地になり始めたその時

空席だった666番に現れる影


全身黒ずくめのマント、仮面をつけており、その素顔は分からない

鋭くも深い眼差しで、舞台上で繰り広げられる様を見つめている





その影が現れてから、踊り歌う踊り子たちに緊張が走る


ビブラートの伸びが足りないと、その指をトン、と動かす

リズムが崩れると、トントン、と動かす

歌詞を間違えた時は、なぜか口元に笑みを浮かべるだけ……

一番厳しい表情になるのは、音程を間違えた時


その指が3回動かされると、出演者たちは皆、一様に青ざめる


「3回」の判定を、3回繰り返された者は皆

非業の死をとげるのだ






「整列!! レッスンを始めるぞ!!」

劇場内のトレーニングルームに響き渡る怒号、しなる鞭の音


厳かな金髪を存分にふりまき、その表情は冷徹そのもの

振付師ダンケルの指導のもと、踊り子たちは今日も訓練を続けている


「気を抜くな! 細部にまで美に気を配れ!甘えは許さない!!!」


「おい、ダンケル。ちょっと良いか」


冷酷に睨み付け、怒鳴り散らすダンケルの元に近づく男の影

赤い長髪を垂らし、やけに脚の長いイケメン

ダンケルの厳しい指導に喘いでいた踊り子たちは、彼の登場に浮足立つ


「キャー(≧∇≦) ウエスターレン様よ!!」

「いつも素敵ね……」


彼女たちの黄色い声には目もくれず、

ダンケル以上に鋭い眼光を持ち合わせるこの男

劇場の支配人で、かつ警備官だ




「先の舞台で、カッカトムの『魔の宣告』で

リーチとなった奴が居たが、恐れをなして逃げ出したようだ」


「!!何だと?!…またか……っ」


「どうする?劇場に穴を開けるわけにはいかない。

今日も幕は上げるしかない」


「急遽、代役を用意するしかないだろう…」


苦み潰したようなダンケルの言葉に

それまで色めきだっていた踊り子たちは一様に息を呑む


代役への抜擢…それは、またとないチャンスであると共に、

悲劇への幕開けでしかない


「そうだな。メルサ。お前がやれ」




トレーニングルームのベンチに座り、

その足をぶらつかせ俯くリエリーヌ

お茶のペットボトルを手にしたダイヤが隣に座り、彼女に渡す


「お疲れ、リエリーヌ」

「ダイヤ、ありがとう…は~あ、今回も駄目だった…( ๑´࿀`๑)=3」


代役に抜擢されなかった事が悔しいのだ

そんなリエリーヌにダイヤは優しく笑いかける


「まあまあ。仕方ないよ。また次のチャンスあるって!!

リエリーヌなら、絶対いつか選ばれるから」


「う~ん…ありがとう♪そんな事言ってくれるのは貴女だけよ、ダイヤ

自分でも分かってるの。まだ、今の私では無理な事は…

でもいつか、あの夢舞台に立ちたい…私の願いなんだもの…」


明確な目標を持って、高みを目指そうとするリエリーヌ

ダイヤはいつも羨ましく思う




そしてリエリーヌなら、きっといつか願いを叶えて見せる

そんな風に思いながら、見守り続けている


「うわああああっ」

「キャ―――――――――――!!」


「!!?!?」

表舞台から響き渡る叫び声に驚き、立ち上がる2人


バタバタと慌ただしくなる舞台裏


「あの…どうなさったの?」


大道具スタッフのエレジアが叫びながら応える

「舞台に設置していた大道具が崩れ、メルサが下敷きになった!!」


「!!」


「あの大道具は、舞台と一体化されていて、

人間の力で操作することなど不可能。

彼女を代役にしたことは、許されなかった

カッカトムの怒りの犠牲に……」


楽器隊の一名、ベルデがため息がちに呟く


一方、苛立ちを最高潮にして右往左往する振付師ダンケル


「え~い、カッカトムめ💢仕方なかろうが…お前のお眼鏡にかなう者を

用意するなど、砂漠で宝石を見つけるがごとく至難の業だというのに…」


「ダンケル。つべこべ言うな。これがあいつの意思なら黙って従え。

さっさと次の代役を用意しろ。分かったな」


「!!ウエスターレン💢💢

お前はいいよな、命令するだけなら楽だろうよ!!

無理難題を言う前に、目ぼしい奴を連れて来やがれ!!」




そんなやり取りを、じーっと見つめていたリエリーヌとダイヤ


「あの~…」


「なんだ!!今、忙しいと言って…!!」

青筋を立てて振り返ったウエスターレンは、

声の主の姿を見て息を吞む


「もし…猫の手も借りたいようなら、私では…ダメ?」


俯きがちに首を傾げ、上目遣いになるリエリーヌに、

一瞬でハートを撃ち抜かれたウエスターレン


「ダンケル!!お前、こんな可愛い娘を隠してやがったか!!

早く言え!!代役どころか、主役!!行けるだろうが!!

この娘ならカッカトムも気に入る!!!」


「馬鹿野郎💢💢こいつはまだ、

私のレッスンさえ卒業できない新人だぞ…」

胸ぐらを掴んで捲し立てるウエスターレンに翻弄されながら

ムキになりダンケルが怒鳴り始めたその時

闇の中から厳かな声が響き渡る


「問題ない。むしろ吾輩の好み、ジャストミート♪♪

さっさと選んでもらおうか…💕」






 
 
 

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