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ディアブロスの偏愛

更新日:2024年11月17日


火花シリーズ Ⅰ


手順を違えるのは危険です…

花は、宙を美しく彩る大輪の花であればこそ

可憐でいられるのです




ウエスターレンとリリエル、双璧の宝を手中に収め、

新たに発生したソラを庇護しながら

ますます光り輝く大悪魔イザマーレのオーラにより

平穏な空気に満ち溢れ、安定したように見える


だがそれは、魔界の中でもほんの一部

王都ビターバレーを中心に高級住宅地ヒバリーヒルズ

下級悪魔が多く生息する地域と、その境界を繋ぐ唯一の交流の場

市場の中と、そのすぐ近くに存在する丸太小屋


王都内の特殊コミュニティである

「プエブロドラド」近辺に蠢く猛獣たちも

大魔王后と副大魔王妃、彼女たちの存在により、

王族に対する忠誠に異を唱えるものは皆無と言ってよい


だが


そこから一歩、外へ出た途端

イザマーレ族という存在は知りつつも、大魔王陛下の顔も知らず、

権謀・謀略・殺戮・酒池肉林の快楽に邁進する

ただ自らの欲に従い、隙あらば王位奪還を目指す無数の悪魔が

今この瞬間にも、無数に自然発生を繰り返しているのだ


王都内で起こる事象など無関係過ぎる

そんな彼らの恰好のエサは、ゴシップとスキャンダル

どこかの世界とよく似た話だ




広大無辺の魔界に無数に点在する、落ちぶれた集落の一角


道端に捨てられていた雑誌を拾い上げ、

何となく棲みついた小汚い小屋に戻って行く女


素足に、だらしのない下着姿

煙草を燻らせ、腰を下ろした瞬間

小屋に棲息している悪魔の餌食になる


女は熱に浮かされる事もなく

悪魔に身体を開きながら、退屈そうに雑誌を眺める

「……」


ただ単に、己の食欲を満たすためだけの行為に

情愛のかけらもない


食らいつく悪魔も女が手にする雑誌を見遣り

濁った眼で顔を震撼させる

それが悪魔の笑顔だということに

女が気づくはずもない


「お前のような女でも、憧れるもんなんだな」


ざらついた悪魔の声に、我に返る女


「月と太陽が入れ替わっても、お前がその方に相まみえる事はないだろう

俺にだって、それくらいは分かる。近寄っただけで消滅しそうなほど

高貴で眩いオーラ。そして、選ばれた相手は極上すぎる。諦めるんだな」


容赦ない辛辣な言葉を吐く悪魔に、イラつく女


「ふんっ 酸いも甘いも知らないような、可愛いだけのお嬢ちゃんの

どこがそんなに良いんだい?」


「……(苦笑)」




女の暴言にすっかり興ざめて、酒を煽る悪魔


再び雑誌に視線を戻し、恍惚な表情を浮かべる女


「…この綺麗な顔立ち…虐め抜いて、この澄んだ瞳いっぱいに

涙を浮かべ、悶える姿を想像してごらんよ。極上のディナーじゃないか♪」


同じ言葉を、女が焦がれる相手の隣で微笑む妃に想像し、

再び湧き上がる食欲に抗わず、女を押し倒し暴虐の限りを尽くす悪魔

淫らに嬌声を上げ、到達しそうになった瞬間、白目を剥く女

肌を引き裂き、血を飲み干す悪魔にも毒が回り、敢え無く消滅した

花に向けた刃と、光を虐げる罵詈雑言…当然の帰結である






情報局の諜報部員から仕入れた情報を元に

目玉蝙蝠を忍ばせていたウエスターレンから報告を受け

淡々と残務処理を行うリリエル


「……」


報告の途中で、腑に落ちない様子で首を傾げ、

考え込むリリエルを気にかけるウエスターレン


「消滅した奴らの跡地は、俺が焼き払った。

余計な心配はいらないぞ?まあ…人間に生れ落ちて

信者となる可能性もなくはないが…」


「あ、いえ…人間として数々の障壁にぶつかり

その果てに信者となるのであれば、望ましい事です

ただ…途中から報告の内容の意味がよく分からなくて…//////」


「?」

戸惑うリリエルの様子に、不思議そうに見つめるウエスターレン


そこへ、公務から戻ったイザマーレが姿を現す


「ただいま、リリエル」

「あ♪お帰りなさい、閣下(*´艸`*)」


いつものように髪を撫でるイザマーレに

嬉しそうに抱きつくリリエル


「…リリエル?何かあったのか?」


リリエルの惑いを見逃さず、

問いかけながらウエスターレンを見遣るイザマーレ

目配せし合うウエスターレンも合点がいかない様子だ


「閣下…あの…//////わ、私…」





「閣下に王子様を求め過ぎでしょうか…💦あの…//////」


「えっ…」


「いつもカッコ良くて素敵でいらっしゃるなんて、ほ、本当は

お疲れになるのでは…💦💦」


すっかりパニックになって両手で顔を覆いながら

アワアワし始めるリリエル


「で…でも💦どうしよう…

わ、私…そんな事出来ません(´;ω;`)ウゥゥ

閣下を…い、虐めるなんて…💦💦」


「……(笑)」


思い余り、動揺し続けるリリエルに

吹き出しそうになるのを堪えるイザマーレ


ウエスターレンもようやく理解して、ニヤニヤ笑う


狼狽えるリリエルを優しく抱きしめ、耳元で囁くイザマーレ

「心配するな。吾輩は、可愛い花の姫君を虐める方が好みなのでな♪」


そのまま抱き上げてプライベートルームへ連行する

見送るウエスターレンは紫煙を燻らせ、リリエルの代わりにキッチンに立つ


「まあ…可愛いイザマーレを辱めていいのは俺様の特権だからな(笑)」



その日は夜通し、扉が消え続けたという……





さて。

そんな小ネタにしかならないほどの、

些細な出来事が起きてから数年後


ウエスターレンが懸念していた通り、人間になり果てた男女は

ともに人間界で最高魔軍の映像を目にし、信者になっていた


副大魔王といえども、人間界で活動を行う際は

慕う信者には破格の好待遇でもてなす


信者となった女―ゼリアは、さすがは元魔女。

容姿端麗で、周囲にも好意的に迎えられ

人間の信者の中でも目立つ存在だった


元来の気質は変わらず、自由気ままに動く彼女

ただ、構成員に対し、とりわけイザマーレに対して

臆面もなく逆らい続ける


ゼリアのような女でも、恋焦がれ、

導く存在として君臨し続けるイザマーレに

より一層、敬愛の念を深めるリリエル


だが同時に、喉元に刺さる小骨のように

時折、考え込むようになったのだ


「…そういえば、閣下に逆らってばかりのダイヤ様の事も

殊更、可愛がってらっしゃったもの…きっと彼女の事も

可愛らしくて仕方がないはずだわ…」


黒ミサ会場で見かける度に、積極的に声をかけ

親し気に微笑みかけるリリエル


そんなリリエルを、遠巻きにじーっと見つめる視線

リリエルに向けた刃の呪いに操られ

ゼリアを絶命させた元悪魔―ナツだった




きな臭い空気漂う中、

リリエルの背後に姿を現し、髪を撫でるイザマーレ

抱き寄せたと思った瞬間、髪に座らせその場を立ち去る


「閣下、お疲れ様でした♪」

リリエルはいつものようにニコニコと微笑みながらお茶を淹れる


「……」

リリエルの様子が気になるイザマーレ

手を引き、膝の上に抱き寄せる


「////あ、あの…//////」

真っ赤になって俯くリリエル


「…どうした?」

「!…///////」

問い掛けに応えず、動揺して更に不安そうに見つめるリリエル

その口唇を優しく塞ぐ

一度口づけをやめ、髪を撫でて覗き込む


「…また、お前の悩み癖か?」

「////閣下…だって……」

困ったように俯き、口元を手で覆うリリエル


「ほら…」


「えっ」

キョトンとするリリエル


「お前は、吾輩の前では口癖のように『だって』と言う。

四六時中、逆らい続けているくせに、何を悩む必要がある?」


「!…だ、だってだって……///////」

思わずムキになって言い返すリリエルの頬を指で挟みこむ




「そうやってなあ、じゃなきゃそいつを吾輩に差し出すとか

余計な事を考えないでくれた方が、どんなに有難いか…」


「!!///////」


「(笑)分かったら、安心してお前を差し出せ♪

お前を手懐ける事が、どれだけ至難の業か

思い知らせてやろうな…」

そのまま押し倒し、身体を重ねる…


やがてまどろみ、腕の中で眠るリリエル

あどけない寝顔を見つめ、髪を撫でる


「ったく…どんだけ無防備なんだ…どうせ不安になるなら

もっと、お前自身の心配をしたらどうなんだ…?」


会場の外で、リリエルを迎えに行った時に感じた男の視線

そっとため息を零すイザマーレ


…どうやらまた、面倒な事になったようだな…


翌朝


いつものようにご機嫌に

キッチンで朝食を用意するリリエル


珍しく、あれこれと考え込んでみたものの

結局、自分にない性分について

よく分からない事は早々に諦め

ただイザマーレの心が穏やかでいられるよう

目の前の雑務をこなしていく


そんなリリエルの様子を見守りながら

目配せし合うイザマーレとウエスターレン




朝食を済ませ、執務室の激務を捌きつつ

寝室でウエスターレンと寄り添う、いつもの時間


「…リリエルは最早、『そのこと』については手放したようだな(笑)

自己評価が著しく低く、諦めの早い事♪さすがはお前の姫君だな」


「…ウエスターレン。だからと言って吾輩は、まだ気が済まんけどな」


「お前、意外と嬉しかったんじゃないのか?珍しいよなあ

あいつにウルウルした目で見つめられて(笑)」


「はっきりとおねだりを聞く前に、つい可愛がってしまったな(笑)」


「俺もそろそろ、お前を可愛がりたい。イザマーレ、おいで…」


サラサラな金髪を優しく撫で、口唇を重ね合う

甘いぬくもりを享受し、うっとりと流し目で見つめる澄んだ瞳

そのまま魅惑の身体に赤い刻印を施していく

ツボを心得た的確な攻めに、堪らず嬌声を上げるイザマーレ

熱く優しい営みを終え、息も絶え絶えになりながら眠りにつく間際


「レン…じゃじゃ馬な女はともかく、男の方は少々厄介だ

どうやら、無償の愛の呪縛に囚われたままのようだからな」


そんな風に吐露するイザマーレを腕に包み

安眠できるよう、髪を撫でてやる


「…さすがは姫君の王子様。忠告申し上げるまでもないな。」


そんなウエスターレンの言葉を子守歌に、眠りにつくイザマーレ


そう…お前の言う通り。

どうせ心配するなら、「そっちの事」

空いている方の手で呼び寄せた目玉蝙蝠が

静かな羽音を立てて飛び立って行った




数時間後


ウエスターレンとの甘い時間を終え

いつもなら執務室でリリエルと過ごすひと時


「あ、閣下♪お疲れ様です」


リリエルの淹れたお茶を味わいながら告げる

「ありがとう。リリエル、今日はこの後、出かけるぞ。

ベルデの所だ。お前も来い♪」


「えっ…」


「ウエスターレンも一緒だから心配するな。分かったな」


急な予定変更に驚くリリエルに構わず

髪に乗せ、魔法陣で文化局へ向かう


鬱蒼と生い茂る緑の森に囲まれた文化局

角の生えた悪魔が、相も変わらずのんびりと出迎える


「やあ。いらっしゃい。3魔で一緒とは、珍しいね」


「突然すまないな。どうしても確認しておきたい事があってな」


リリエルを髪から降ろしつつ、サンルームの丸椅子に腰かけ

単刀直入に話し始めるイザマーレ


「うん…ウエスターレンから伝令が来てから、僕なりに調べてみたよ

やはりイザマーレ。君の杞憂は正しい。通常、リリエルちゃんに関わる事は

すべてイザマーレが取り仕切っているよね。犯罪者の処罰も含めて」


当時の資料を読み込みながら、

あくまでものんびりと話し続けるベルデ




「ところが今回は、リリエルちゃんに向けた刃と、

イザマーレに対する罵詈雑言。その影響で

自然界の怒りに抵触し、自然消滅したわけだね」


「なるほど…通常どおり、イザマーレが処刑していれば

人間として生まれ変わる事すら不可能だったはずなんだ

それが、偶然の招いた不幸により、

再び息を吹き返してしまったんだな」


「まあ、そうだね。今の所、ただの人間だから

たいした厄災は招かないだろうけど…」


「ところが、さらに厄介なのは、我々の信者だという事だ

否が応でも抵触する機会が多ければ、

その呪縛はさらに力を増す事になるからな」


ここまで、三者三様の言葉をキョトンとした顔で

聞いていたリリエル


そんなリリエルの髪を撫で、微笑むイザマーレ


「やれやれ。誰かさんに余計な誤解を生まないよう、次の黒ミサでは

ゴツ目な曲をラインナップしようかとも考えたけどな。」


「…え (^-^;」


「リリエルちゃんの愛の呪縛から解放させるには

穏やかな癒しの謡にするしかないだろうね(笑)」


「そうだな。そしてリリエル。

お前はしばらくの間、自由行動は禁止する。

片時もイザマーレの傍を離れず、守ってもらえ。

身の安全の為だ。分かったな♪」


「…えっと…💦💦」




ウエスターレンの言葉にますます焦り、真っ赤になるリリエル

だが3魔による意思決定は、やがて大魔王直々の厳命となり

口を尖らせつつ粛々と従うしかないリリエルだった




それからというもの

何かが大きく変わったかというと、そうではない


イザマーレがいる間は、屋敷の中であれば

これまでと何ら変わらず、仲睦まじく過ごすだけだ


公務の際も、大抵はリリエルを髪に乗せ、帯同するのが常であり

Lily‘sと女子会をする際も、ウエスターレンと共に送り迎える

いつもの光景だ


変わったことといえば

ほんの少し、イザマーレが屋敷を留守にする

ちょっとした時間も、常にリリエルを傍に置く事だった


枢密院では、イザマーレがミルから仔細な報告を受けている間

同じ部屋でお茶を淹れ、にこにこと傍に控えるリリエルに

働く666師団のスタッフたちは自然と表情が和らぐ


「…本日の報告は以上となります」


「ご苦労。リリエル、待たせたな。疲れてないか?」

報告を終えたミルを労いつつ

隣にいるリリエルを見て髪を撫でる


(…ふふっ 片時も離れずリリエル様を傍に置くことで

副大魔王様のご機嫌も麗しいこと♪)


報告書で顔を隠し、ほくそ笑むミルに

咳払いをして睨みつけるイザマーレ




「ミルさん、いつも御苦労様です。私までお邪魔してしまって

ごめんなさいね。何かあれば、私にも何なりと申しつけください」


「いっいえいえ💦…とんでもございません……」


ほんわかと微笑むリリエルに、

却ってイザマーレの視線が強くなるのを

敏感に感じるミルは心から震え上がる


ミルの反応に満足したのか

イザマーレはニヤッと笑い、立ち上がる


「さ、リリエル。おいで。今日はついでに情報局に行くからな」


「あ、はーい💕」


いつものように、髪に乗せられるかと思いきや

手を繋がれる


「///あ、あの……💦」


「ん?ああ、今日は正式訪問だからな。」


そのままエスコートされ

元老院の入口に待機させていた馬車に乗り込む


「///閣下、あの…」

真っ赤になって照れながら、呼びかけるリリエル


「どうした?疲れたか…?」

「…ん……///」


フワッと口唇を重ねられ、ほんの少しエナジーを吸入される

舌を絡め、たちまちリリエルのコーディネートが完成する




「///も、もう……」

「なんだ?」


「情報局への正式訪問って……」


「ん?ああ…この週末にも最高魔軍の黒ミサがあるだろ?

その間、流石にお前の傍にいれない瞬間がどうしてもあるからな。

おまけに、頼みの綱のウエスターレンもステージにいる。そこでだ。

ウエスターレンが抜擢した局員を、SPとして配置させる」


「!……そうですか。お手間をおかけして、申し訳ありません」


やがて到着した情報局で、待機していたウエスターレンから

紹介されたSPに驚くリリエル


「せ、先輩……💦」


「リリエル。黒ミサの本番中のみ、お前の傍に配置させる

俺の部下だ。お前をエスコートするのに不自然じゃないよう

変身させた。お気に召したか?」


軍服姿ではなく、黒のスーツをバシッと着込み

眼光鋭く、口元に笑みを浮かべ、頭を下げる


「よろしくお願いします、リリエル様」


「あ…は、はい。こちらこそ、よろしくお願いしますね」


ウエスターレンの説明を受けて、すぐに頭を切り替えるリリエル


「…お名前は?何とお呼びすれば良いかしら?」


「リリエル、お前の好きなように決めろ。」

「えっ……じゃ、やはり『ウォル先輩』で良いかしら💕」





「…畏まりました。構いません」

表情ひとつ変えずにその悪魔は応える


「ふふっ じゃ、ウォル先輩💕本当にそっくりさんなのね(*^^*)

綺麗な歌声は聴けないのかしら……」


「リリエル様がご所望なら、いつでも。では、また後日。

会場でお待ちしています」


礼儀正しく頭を下げ、ウォルは部屋を立ち去る


「どうだ、リリエル。お前のお眼鏡に適った相手か?」


紫煙を燻らせ、ほくそ笑むウエスターレン


「びっくりしちゃいました…でも、私にSPって…

閣下も長官も、心配し過ぎでは💦💦💦」

今ひとつピンと来ないリリエルは、困ったように俯くだけだ


そして、週末を迎える


黒ミサ会場に集まる信者たち

開場まで楽屋に帯同していたリリエルは

SPのウォルに連れ立って、客席に座る


見ず知らずの悪魔ではあるが、

見た目は旧知の仲にしか見えず、

リリエルは特段緊張することも無く、穏やかな笑顔で過ごしている


事情を知る極わずかなメンバーはLily‘sだけ

遠巻きに眺めながら、口々に感想を言い合う




「か〜〜 いくら、リリエル様に特別な護衛が必要だからって

あんなイケメン…しかも、リリエル様と並ぶと

とてもよくお似合いよね」


「閣下もよく、お許しになった事……」


「そうよね💦気になって、

私もつい、リリエル様に聞いたんよ。でも……」


「ふふっ リリエル様ったら、あんなイケメンですら

単なる先輩のようにしか思ってらっしゃらないのよ(笑)」


「あのイケメンの横で、ステージに居る閣下に

目を輝かせちゃうもの💕流石だわ」



やがて、昼公演が終わり、夜公演までのインターバル

Lily‘sとはしゃぎながら、楽しそうに過ごすリリエル


ウォルはスーツに装着した高性能マイクで

上司であるウエスターレンから逐一指示を受け、

周囲に目を光らせつつ、リリエルの傍らに控える


「我々の作戦に、まんまと掛かったホシが

間もなく動き出すだろ。よろしく頼むな」


リリエルは近くの石垣に腰掛け、

ワイヤレスイヤホンを装着し、イザマーレの歌を聞いて

にこにこしている


ウォルは魔力でペットボトルを出し

蓋を開けてリリエルに差し出す


「…あ💕先輩、ありがとう💕 うふふ、やっぱり

閣下がカッコよくて💕💕💕」


ウォルはそのまま背後に控える




その時、全てのチャンスを逃さず近寄る影―ナツ

リリエルの隣に遠慮なく腰掛け、話しかけてくる


「本当に素敵だよね」


話しかけられたリリエルは振り向き、ナツを視界に捉えた


「すごく良い機種使っているんだね。それなら、閣下の声も

より魅力的に聴こえるだろうね」


屈託もなく、親し気に話しかけてくる

髪は柔らかめにカールしていて、一見曇りもない笑顔に見える


「ふふっ 閣下の御声だけじゃないわ。構成員の皆さ魔の織り成す

音の洪水よ♪聴いてるだけで、とっても胸が高まるの♪」


「…素敵だね」


「えっ」

普通の会話をしていたはずが、突然距離を狭めて来たナツに

キョトンとしたままのリリエル


それまで黙って控えていたウォルがリリエルを引き寄せる

「リリエル様。そろそろ開場のお時間です。参りましょう」


「あ、は~い。ホントだ、もう皆、並んでるわね。行きましょう♪」


ウォルに連れられ、その場を立ち去る

先に並んでいたLily‘sに声をかけ、相変わらずご機嫌なリリエル




放置されたままのナツは、しばらく経って、ようやく腰を上げる


「イザマーレ様を愛する貴女の笑顔は本当に素晴らしい。

その笑顔を奪うような事は絶対に許せないよね…

大事な君の傍に居れないほどお忙しい閣下に代わって

邪魔者はこの僕が排除してあげないとね…」


あどけなさを装う顔立ちで、濁った目で標的を捉え、静かに近寄る


入場の列に並ぶリリエルの様子に

ゼリアが遠巻きに揶揄する


「は~あ、やけにイケメンに守られちゃって。閣下もだらしないわよね

リリエル様、取られちゃってもいいのかしら。ま、それならそれで

あたしがお慰めしてあげるけどね(≧∇≦) 

あ、その前に、あたしを相手にしてくれたらの話だけど(笑)」


天真爛漫にはしゃぐ彼女に

周囲の客も悪い気はせず、愛想笑いで応じている


ロビーを抜け、展示物やグッズなど、

各々が興味惹かれるものに関心を寄せている


各自、客席に向かい、準備を整えるが

先程まで楽しそうに一緒に居たゼリアが一向に姿を現さない

彼女を知る者は一様に不思議がるが、普段から自由すぎる彼女の事

特に気にもせず、開演時刻を待ちわびる


ゼリアは濁った目の男ナツに連れ込まれ、会場の隅で凌辱されていた


「やめて…っ 何すんのよ!!」

激しく抵抗するが、構わず口唇を塞がれ

身体を弄られる




「…リリエル様と副大魔王様に対する侮辱は断じて許さない

これに懲りたら言動を控えるんだな」


「な、何よ…別にこんな事くらい、どうって事ないわ

時間ギリギリじゃない…用が済んだならもう行くわ! 

大人しくしてりゃいいんでしょ!!じゃあねっ」


ゼリアはナツを振り切り、足早に客席に向かう



客席では、飛び込むように駆けつけたゼリアを

にこやかに出迎える信者たち


「もう、遅いよ~ 何してたの?」


「ん~?へへ♪トイレだよ。我慢できなくなると困るじゃん♪」


いつもと変わらない笑顔で、純粋に黒ミサを楽しもうとするゼリア


「……」

すぐ近くで座っていたリリエルは、

彼女の纏うオーラの微妙な変化を敏感に察知していた


「リリエル様」

隣に座るウォルがそっと声をかける


「ご安心ください。事態を事前に把握した局員の手で

奴は拘束しております。終演後、楽屋裏まで

リリエル様をお連れするようにと言付かっております。」


「分かりました。どうもありがとう、先輩…」

いつもどおりに微笑み、ステージに目を向けるリリエル





黒ミサのステージは淀みなく煌びやかに繰り広げられ

夢心地の内に終演を迎えていた


退場すると同時に、ウォルに連れられ

楽屋裏に向かうリリエル


事前に悪魔軍のスタッフが手配し

連れてこられたゼリアと、拘束されたナツが居た


姿を現したリリエルに、頭を下げるスタッフ


「ご苦労様です。閣下にこの事は……」


「勿論把握されてます。」


「そうですか…畏まりました」


スタッフと小声でやり取りするリリエルにヤキモキし

ゼリアが喋り出す


「ねえ、ちょっと〜 何なのよ。この後打ち上げに行きたいし

あたしの事なら気遣ってくれなくて良いのよ?

箱入りのお嬢様に心配されるほど、ヤワじゃないしね」


ゼリアの声に振り返り、笑顔で見つめるリリエル


「あら。それは良かったわ。安心しました。

貴女のようなプライドの高い方に、余計な心配は無用だと

端から思ってましたから💕」


「…!!」




「そうよね。あの程度なら、とるに足らない事と思うわ。

ただ、折角なら、蹴倒して跪かせる様子を

見せてもらいたかったけど…

お勉強できる絶好の機会だったのに、残念だわ♪」


にこやかに笑顔のまま、ゼリアを抱きしめるリリエル


「だけど、ごめんなさいね。今夜のその体験だけは

消させてもらうわ。勘違いしないで。貴女の為じゃなく

これは、私の我儘よ💕」


言葉とは裏腹に震えているゼリアを

ゆっくりと浄化させていく


「……💦💦よ、余計なことを…」


「貴女が良くても、私は許せないの。

栄えある最高魔軍の黒ミサを、醜い記憶に

塗り替えられるのは。」


静かに見つめるリリエルの視線は

いつもの微笑みではなかった


「それとも…忘れたくないほど、素敵な体験だった?

まさかね。あんな程度で……」


「!!い、いえ……」


雰囲気が変わったリリエルにたじろぎ、首を振りながら

身を正すゼリア


「そう? なら良かった💕この後の黒ミサも

楽しみましょうね💕」


いつもの天真爛漫な笑顔でゼリアの手を握り締めるリリエル




「…! …あ…じ、じゃ、もう良いですか?

お腹空いちゃったし、打ち上げ行きたいんで‼️」


慌てて荷物を纏めて立ち去っていくゼリア


その一部始終を見届け、蔑んだ瞳のままニヤつく男


「悪意のある相手をお救いになるなんて

やはり、貴女様はお優しすぎます。

貴女の為ならば、いくらでも汚れ役を買って出ますよ」


ナツの言葉にゆっくりと振り向くリリエル


「ふ〜ん…他人の空似かと思ったけど

顔が似ると性格もそのままなのね。

とんだ勘違いの坊や💕」


「!…えっ」


「ウォル先輩といい、何なのかしら。

きっと、閣下が私に機会を与えてくださったのね」


「???」


リリエルの意味深な言葉に

ナツだけでなく、取り囲むスタッフが一様に不思議がる


「私のため、閣下のためと言いながら、

独りよがりな英雄気取りね。いい加減になさいませ。

それをお決めになるのは貴方ではないわ。」


「…っ……」


徐々に凄みを増していくリリエルの静かな怒りに、ナツは息を呑む




「貴方のような存在に、声を揃えて使われる言葉があるわ

“天使のような顔をして、悪魔のような奴だ”と…

冗談じゃないわ。私の愛する悪魔の品位を貶めるような行為は

決して許しません」


「!!」


断罪するリリエルの言葉に打ち震えるナツ


すかさずウォルが近寄り、声をかける

「リリエル様。こいつの処分は我々にお任せください。

決して触れさせるなと、上司から固く言い渡されております」


リリエルはすぐに表情を入れ替え、

いつもの天真爛漫な笑顔で振り返る


「ふふっ 先輩、ご安心ください。残念ながら、

今回はそのお役目を仰せつかっていないの。

この程度で怯えた子犬のような坊やを𠮟りつけるのも

もう飽きてしまったし♪」


「…では、間もなく上司と副大魔王様がいらっしゃいますので

少々お待ちくださいませ」


そんなリリエルに穏やかな笑顔を浮かべ、

速やかにエスコートするウォル

ほんの数時間、リリエルの傍で任務に就いただけだが

それだけで、彼女を理解するには十分だったようだ


ちょうどその時、魔法陣が現れ、ダンケルとダイヤが姿を見せる


「おや…こんな所で、どうかしたのか?」


「だ、大魔王陛下…💦何故こちらに??」

居合わせたスタッフは一様に畏まり、慌てふためく




「ああ、何やら面白そうな波動を感じたのでな♪」


「リリエル様~(≧∇≦) こんな所でどうなさったの?

もう!!閣下だな!!リリエル様をお待たせするなんて!!

心配要りませんよ♪ダイヤが来ましたからね」


「…何でかなあ…陛下なら、いくらでも

困らせて差し上げたくなるんですけど」

そんな2魔を見て、ブツブツと呟くリリエル


「はあ?」


「ふっ 何でもありませんわ♪」

不敵な笑みを浮かべるリリエルに、首を傾げるダンケル


そこへリリエルの背後に姿を現し、髪を撫でるイザマーレ

「リリエル。待たせたな」

「あ、閣下♪黒ミサ、お疲れさまでした☆彡」

心底嬉しそうな表情を浮かべ、抱きつくリリエル


「今回は、お前に任せようと思ったが…もう気は済んだか?」

静かにほくそ笑むイザマーレに、困ったように俯くリリエル


「…私のせいで、閣下の手を煩わせるのは嫌なのですが…」


「(笑)心配するな。それくらい、どうって事ないから。

後は、吾輩に任せろ」

ポンと髪を撫で、微笑むイザマーレ

だが、リリエルはまだ、やや腑に落ちない様子で口を尖らせる


「やれやれ。そこまで言うなら、

吾輩からお前に頼みごとをしても良いか?

お前と吾輩で、奴を解放させてやろうと思うのだが…どうだ?」


「!!…は、はい!喜んで💕///////」




思わぬイザマーレの提案に、ようやくホッとして

本来の笑顔を取り戻すリリエル


そして、イザマーレとリリエルによる言霊が紡ぎ上げられる



目を逸らすな その罪深さを思い知るのだ 


花の呪縛に導かれ、お前はここに辿り着いた

だがそれはまやかしの道標

運命に従い、その悩みの深さを思い知れ


どんな言葉も枯れ果てる世界に

身を委ねるしかなかった私を

救い出してくださったのは、ただ一つの光だけ


燃えるこの思い 熱いこの願いが 互いの魂を呼び合う


2魔の物語が再び始まり いつの日にかひとつに溶け合う 

想像を絶する孤独の前に それだけを心の支えに…


恋の血が通い 恋の炎が燃え 私を焼き尽くそうとも

誠の愛が消える事はない 決して…

行く手には ただ一筋の道

2魔の愛が消える事は決してない

どこまでも…永遠に…

……





2魔の旋律に触れ、ナツの濁った瞳から涙が溢れ出す

無償の愛の呪縛に囚われながら、その行為は

花に向けた刃に他ならず、いつしか自らを蝕み続けた愚かさに


ただ一つ、直感は確信に変わり、昇華されていくのを感じる

近寄る事も許されないほど気高く眩いオーラ。

2魔の固い絆の前に、ただ平伏すしかない


イザマーレとリリエルによる調教が終わり、

ナツは情報局員に連行されていく

細やかに指示を出しながら、紫煙を燻らせるウエスターレン


「ご苦労さんだったな。イザマーレも、リリエルも♪

この後は、煮るなり焼くなり、好きにして構わない。どうする?」


「…そうですねえ。困った悪癖さえなくなり、お利口さんになれば

番犬代わりにはなるかしら。せっかくの信者さんですものね」


「(笑)そうだな。ダンケル、どうだ?

姫君はすっかり飽きてしまわれたのでな

お前の遊び道具にしてやるか?」


「はあ?何だ、それ。」


長い脚を微動だにせず、含み笑いをするウエスターレンに

魔の第六感が働き、警戒を強めるダンケル


「クス…陛下♪どうやら彼は、

私や長官と閣下の仲を邪魔立てする輩は

身体を張って阻止してくださるそうなの。陛下なら、

退屈しのぎ程度になるんじゃないかしら?(* ̄▽ ̄)フフフッ♪」


いつも通り、微笑みかけるリリエルに、ますますシラケるダンケル





「…おい、リリエル。何が『飽きた』だ、馬鹿野郎。

さっさとお前が対処すれば良かろう」


「嫌で~す♪後は陛下にお任せいたしますわ。

よろしくお願いしますね」


「…か、勘弁してくださいよ💦リリエル様」

顔を引きつらせて固まるダイヤ


「こら、リリエル。駄目だぞ?お前の手に負えないのなら、

吾輩に任せろと言っているではないか。

陛下。申し訳ありません。いつもの事ながら失礼しました。」


笑いを堪えながら、イザマーレがリリエルを叱り

ダンケルに頭を下げる


「もしも、奴の処遇に異存がないのであれば

我々に任せていただいても宜しいですか?」


「ふむ。構わんぞ。好きにすれば良い。

さ、では皆の者、楽しい宴に繰り出そうではないか💕」


ダンケルの魔の一声で、一行はその場を撤収したのだった




さて、その後


SPを務めたウォルは、その実績を認められ

情報局の最高責任者、ウエスターレン腕利きの部下として

補佐を務めるようになった


そして、ある一定の欲に対して鬼畜ではあるが

それ以外の局面では、むしろ、跪き、こき使われる事を

嬉々として受け入れる、ドМ体質、ナツ


諜報部員として、汚れ役に抜擢するには便利と判断したウエスターレン


情報局の小間使いとして、

また時には多忙すぎる局員のストレスの捌け口として

愛するイザマーレとリリエル、至極の宝を守り抜く為の最終兵器として

監視しつつ温存させ、自由に弄ぶ玩具とされた


魔界はまた、安定を取り戻し

屋敷の中は、相も変わらずいつもの光景が繰り広げられている


ただ、副大魔王のちょっとしたお出かけの際に、

リリエルが帯同する機会は、なぜか減る事がなく

増え続ける一方だ




「ところで、ウォル。リリエルに言ってたよな

お前も歌を歌えるのか?」


屋敷の情報局部屋で、報告書に目を通しつつ

物憂げに紫煙を燻らせながら、モニター越しに控える

部下に問いかけるウエスターレン


「…(笑)どうでしょう…ただ、リリエル様があそこまで

そっくりと言われましたので、骨格が似れば声質も

それほど差異がないように思いまして」


ウォルは相変わらず、鋭い眼光ながら

静かに笑みを浮かべる


「俺がお前を抜擢したのは、ごく僅かな音感のズレを

嗅ぎ分ける耳の良さだ。確かに、素質は十分だな」


「…そうだと良いのですが」

遠慮がちに呟くウォル


「少なくとも、あんなシワガレ声の鬼畜野郎など

自分の力量のみで跳ね返して差し上げたい…

そんな風に思ってしまいまして…出過ぎた戯言です。

ご容赦ください」


「…なるほどな。」

ウエスターレンは目を細めて静かに笑う


それは、数多の部下の中から選び抜いた己の含蓄なのか

リリエルの持つ特有のキャラがそうさせるのか

SPとして、申し分ない適材適所であったと確信する


だが…




「生憎だな。あいつ等を守るのは俺様の役目だ。諦めて任務に戻れ」


「…! も、もう…分かっておりますよっ 

逐一、邪眼を見せつけて脅かすのは止めてください💦」


そんな上司と部下のやり取りが

情報局内の風物詩として見慣れた光景になっていく




🔥ディアブロスの偏愛 Fin.🔥



 
 
 

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