怖がりの花
- RICOH RICOH
- 2024年10月20日
- 読了時間: 5分
やがて終業時刻となった
校長室で新しくPCを繋ぎ直したり、環境を整備したり
慌ただしくしているうちに、あっという間に時間が過ぎていた
就任したばかりだというのに、なぜか引っ切り無しに来客があり
その対応に追われているうち、校長室は花束で溢れ返っていた
「せっかくだから、少し持って帰ろうか…でも、ご迷惑かな…////」
独り言ちながら、ここ数日の事を思い返して
真っ赤になってしまうリリエル
ずっと憧れていた悪魔の傍で働けるようになった初日に、
偶然出会えて、話しかけてもらって…
想像通り、いや、想像してたより、もっともっと
優しくて、素敵で…///////
その後、起こった事が、まだ信じられない。
ずっと恋していた悪魔に、まさか「好きだ」とまで言ってもらえて、
そして…////
キャーーーーーーー(≧∇≦)
い、いや、そんな訳ないじゃない。
私の境遇があまりにもアレだったから
同情してくださっただけよ!そうに決まってる…!
それでもいいの…嬉しい……////
1魔きりの校長室で、
あまりにも激しい環境の変化に胸をときめかせ、
心の中でキャーキャーはしゃいでいた
すぐ隣の副理事長室で、その全てを聞かれているとも知らずに…
その副理事長室では、ウエスターレンが訪れ、
今後のスケジュールの確認を行っていた
「プッ…たいそうな気に入られようだな?
差し詰め、理想の王子様ってとこか?
そしてお前にとっても理想の姫君。そうだろ?
お前があそこまで執着するとは♪」
ニヤッと笑いながら、そのきれいな髪を撫でる
「…そうだな。お前との関係を教えても、
いやな顔一つせず、むしろ喜ぶ女なんて、初めてだ。
お前にも、認めてもらえたら嬉しいんだが…」
にっこりと微笑み、見つめ返すイザマーレは、
リリエルの前で見せた顔とは異なり、とても愛くるしい。
この表情を出せるのは、ウエスターレンの前だけだ
「お前が選んだ相手なら、間違いはないだろう。
あの子のことも、俺がまとめて守ってやる。心配いらない。
愛してるぞ、イザマーレ…」
ウエスターレンは自身の赤い口唇を、
イザマーレの黒い口唇にそっと重ねた…
数分後、遠慮がちなノックの音が聞こえ、
扉の向こうからリリエルがそっと顔を覗かせた
「あ、あの…終業のチャイムが鳴って、周りが暗くなってきて…
一魔だけでは、あの…///////」
恥ずかしそうに俯きがちに見上げるリリエルの仕草に、
ウエスターレンも思わず見とれた
だが一寸早く、イザマーレが動く
「構わないよ。おいで、リリエル。寂しかったのか?」
「…すみません、いつも花に戻っていたこの時間は、とても怖くて…」
真っ赤になって震えるリリエルを、イザマーレは優しく抱きしめる
「大丈夫だ。お前が花に戻っても、すぐ女に戻してやる。
吾輩が傍にいるから、安心しろ」
イザマーレのぬくもりにホッとするリリエル
傍で様子を見ていたウエスターレンは、
後ろからリリエルの髪を撫でる
「お前、本当にちっこくて可愛いな。俺の足で跨げそうだよな(笑)」
「…(・∀・)♪ いつか、ウエスターレン様の足の下、
潜ってみたいです(≧∇≦)」
急にウキウキして元気になるリリエル
「やれやれ、寂しがりの姫君にはまだ褒美が足らないようだな。
イザマーレ、しっかりやれよ♪リリエル、また屋敷でな♪」
ウエスターレンはニカッと笑い、守衛業務に戻っていった
「…ウエスターレン様とのお時間、お邪魔してしまってすみません…」
恐縮するリリエルに、イザマーレは微笑み、髪を撫でる
「いや、良いのだ。終業時間が過ぎたのに待たせてしまって
すまなかったな。帰ろう。…持って帰るのは、どの花だ?」
「…!…え、あ……、ま、待って待って……」
イザマーレの言葉に驚き、慌てて引き返し
チューリップの花束を抱えて出てきたリリエル
「この子だけ、もう少しで花が咲きそうなので…良いですか?」
「もちろんだ。では行こうか。」
イザマーレに連れられ、一緒に屋敷へ戻ったリリエル
専属の使用魔たちに一斉に出迎えられ、
ランソフから衣装を手渡される
「お帰りなさいませ、リリエル様。
昨日、イザマーレ様から仰せつかっておりました
ご衣裳でございます。
お気に召していただけたら良いのですが。
それから、当面のご衣裳も必要でしょう。
お部屋にカタログを用意させましたので
何なりとご注文くださいませ」
「…!ありがとうございます、えっと…貴方は…」
「ランソフと申します。以後、お見知りおきを♪」
柔和な笑顔を見せるランソフの手をそっと握るリリエル
「ランソフさんね。今着ているこの服も、
ランソフさんがクリーニングしてくださったと聞きました。
とても気持ちがよくて…丁寧なお仕事、ありがとうございます。
分からないことばかりなので、いろいろ教えてくださいね」
リリエルとランソフのやり取りを、
静かに見守っていたイザマーレは
屋敷内の空気が一変したことを感じ取っていた
実は、イザマーレたちが戻るまでの間、屋敷内は殺伐としていた
いきなりどこの馬の骨とも分からない、身元不明な女を連れ帰り
そのまま居座らせたのだから当然だ
魔界一の魔力を誇るイザマーレ族の長。
私利私欲を求める魔界中の悪魔が、その正室の座を虎視眈々と狙い
駆け引きし合う故に結果的に何もできず、手をこまねいていた間に
イザマーレ自ら、その相手を決めてしまったのだ
たった、週末の2日間で…
その余波がどれだけの影響を及ぼすか、気にかけてはいたのだが
リリエルの前では、どんな毒気も抜かれてしまう
そして、新たな心配の種が付きまとう
リリエルの持ち帰った花束を見て、
気づかれないようため息をつくイザマーレ
(お前に信頼されるまで、もう少し時間をかけるつもりだったが
陛下への報告も、急いだ方が良さそうだな…)
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