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憂いの魔クスブルク帝国(前半)


王宮―


から遠く離れた、ここハンガリー

義母からの厳しい躾、慣れない皇族としての生活から逃げ出し

世界各地に旅を続ける皇妃ダイヤベート


取り巻く女官たちは、彼女に振り回されながらも

生まれ持った美貌となぜか憎み切れない皇妃を

愛情をもって尽くし続けている


毎日3時間のネイルの手入れ

筋トレと極度のダイエット、美容のためのミルク風呂


ダイヤベートの気持ちを安定させるため、

出来る限り願いを叶えてやり、つねに穏やかに寄り添う女官たち


数日前に、新たな女官として王宮入りした下女―リリエルは

3時間ネイルの間に、すべての家事、身の回りの世話を終え

扉越しに受け取った手紙を皇妃の元へ届ける


「ダイヤベート様。皇帝様からお手紙が届きましたよ。」


「!! 見せて!!…キャー(≧∇≦)」


「ちょっと💦動かないでください💦💦」

ネイルを施していた女官メーラの戸惑いを余所に

リリエルから手渡された手紙の中身を読んで、周囲の目も憚らず

顔を赤くして喜ぶ皇妃ダイヤベート


「今日は公務に余裕があるらしく、お久しぶりにお越しくださるって!!」


「クスっ 良かったですね♪思う存分、甘えてらっしゃいませ」

少女のように飛び上がって喜ぶダイヤベートを

微笑ましく思いながら、リリエルは彼女の髪を整える




「今日は素敵な日だわ!!ドキドキして落ち着かない~

馬に乗って胸いっぱい空気を吸ってくるわ!!」


「…へっ?!」


呆気にとられる女官たちの視線と、固まる空気を余所に

颯爽と飛び出して行く皇妃


「ダイヤベート!!皇妃ともあろう者が乗馬など!!

慎みなさい!!聞いてるの?!ダイヤベート……!!!!」


たちまち、宮内に響き渡る義母の怒鳴り声…


さて、周囲の事など何も目に入らないほど、心が湧き立ち

浮足立つダイヤベート。爽やかな風を肌に感じながら

颯爽と馬に跨り、街中を駆け抜けていく

やがて草原に辿り着き、ふと向けた視線の先で

捉えた光景に愕然とする


光り輝く黄金の髪。


「…ミカンツ様?? 予定よりも前に来てくださったの…?」

さらに胸が高鳴り始めた矢先、その黄金の髪に寄り添う

美しい女性の姿…


「!! 嘘…嘘よ!! ひどい、なんで!!!」


取り乱した途端、馬の蹄が石に躓き、横転し落馬する


防御すら忘れ、涙を流すダイヤベートの前に現れる

禍々しい程に美しい闇の帝王―ダンケルトート


驚き固まるが、その視線の隅で

口づけを交わし合う愛しい男と憎き女の姿…




「…酷い。私に会いに来ると手紙を書いておきながら

普段はもっと美しい女性と愛し合っているなんて…

もう嫌。耐えられない!! 」


「…ダイヤベート、何を言うのだ。

この世にお前以上に美しい女などいるものか。

お前の美しさ、純粋さ、それだけで、至極の宝なのだぞ…」


「!…そんな言葉をかけてくださるのは、貴方様だけ。

どうか貴方様の元へ、私を連れて行ってください…!!!」


「甘えるな、ダイヤベート。お前はまだ、私を愛してなどいない」


厳かな言葉を残し、消えていくダンケルトート


そして…


「ダイヤベート様!!こんな所で…心配しましたよ!!

お怪我は…なさそうね?まあ!こんなに汚して…💦さあ、参りましょう。

旦那様がお越しになるまでに、お着替えしなければ…」


女官のプルーニャとバナトラが駆けつけ、

しょんぼりと項垂れたまま宮に戻って行くダイヤベート





更地となった草原に佇むダンケルトート

その背後に従える黒天使たち


「…最大のチャンスをお作りしましたが、何をなさってらっしゃるのです?」

「お前なあ…あそこで突き放すのではなく、抱きしめてやれよ!!まったく…」


「うぬぬぬ…やかましい!!💢💢 私にもたまには失敗はある!!!」









「…たまにって…毎回じゃない!! もう~…それにしても

なぜあの時、あんなに動揺なさったのかしら?ダイヤベート様…」


「ああ、吾輩とお前のラブシーンを見せつけてやったからな♪

あいつの旦那は、なぜか吾輩とそっくりなんだ。そのせいで上手い具合に

焼きもちを焼いたんだろうな(笑)」


「…イザマーレ様以上に、素敵な方がいらっしゃるんですか?へえ~」


「やれやれ、また失敗だ。最初から計画を練り直さねば。

リリエル、もうしばらく我慢してくれ」


「ふふっかしこまりました。大丈夫ですよ。確かに暴走癖で空気を読まない

困った皇妃ですけど。あんなに純粋で可愛らしい魂の持ち主は

滅多におりませんもの」


「お色気作戦は止めだ!!あれじゃまるで、愛しいダイヤベートが

お前に焼きもちを焼いたように見えるではないか!!

イザマーレ。奇襲作戦に変更し、直ちに実行せよ」


青筋を立て、瞳を赤く染めながら、ダンケルトートは吠える


「ええ~、またかよ~普通の奇襲作戦だと、からっきし駄目だったじゃんか…」

声を揃えて不満を訴えるのはバサラとセルダ


「ふっ(笑) あいつ、無駄に筋力だけは鍛えてるようだからなあ」

イザマーレは失笑しながら呟く


「ようやく何とか上手く行って、深傷を負わせたと思ったら

『やっべ~、ダイヤベートめっちゃ可愛い💕ダンケル感激』とか言って

悶えてる間に気づかれて逃げ出されたのは、どこのどいつだ?まったく…」


黒天使の中で最年長のウエスターレンは

ぐうの音も出ないほど、冷静にこき下ろす。

ますます苛立つダンケルトート




「お前ら…いい加減、私を見下すのはよせ!! 

少しはダイヤベートを補佐する女官たちを

見習ったらどうなのだ?!💢💢」


「あの子たち良いよね~。俺はネイル担当の子も好きなんだけど

今駆けつけてきたバナトラって子?なんか気になるんだよね~」


「マジで?俺はその横に居た、プルーニャって子かな。

なんか、癒される♪」


「ダンケルさんさあ、やっぱり奇襲攻撃より

お色気作戦の方が効率良さそうだよ。この手で行こうよ」


「そうだよ…今まで色々考えて失敗してきただろ。あやまれよぉ」


ラァードルとベルデは、のほほんと提案する


ワナワナと怒り震えながらも、渋々承諾するダンケルトート

「仕方がないな。もぉちろん、いいよお👍」


―再び魔界に戻り、作戦を練り直す黒天使たち


「リリエルちゃんのような恋魔がいる閣下をリスペクトしちゃってるから、

いつも閣下ご指名なんだよね(苦笑)」

「リスペクトしてるなら、なんでいつも閣下の言う通りにしないんだよ」


相変わらずのんびりしているベルデに、

冷静にツッコミを入れるラァードル


「…知らねえよ」

据わった目で睨み返すウエスターレン


「あれって何気に俺達に失礼だよね」

「そう?閣下見てたら大変じゃんね。いつも疲れ切ってるし」


分不相応な不満を漏らすバサラに

呆れながら、付き合うセルダ




「それに、いつも閣下とリリエルちゃんが一緒にいる時に

決まって指名が入るよね。あれってわざと?」


「そうだろうねぇ。リリエルちゃんの目がどんどん冷めて行ってるの

気付いてないんだろうねぇ💦💦」

「自分で出来ないから閣下に頼んでるんだろ?本当にわかんねぇ奴だわ。」

至極最もな意見を述べるラァードル


「だから!お前たちがもっと協力しろっつってんだ!」


それでも律義に応え続ける愛しいイザマーレに想いを馳せながら

なんとか場を収めようとするウエスターレン


「意味がわからん…閣下の言う事聞かんのに

俺らの言う事聞くわけないじゃんね(笑)」


魔界のお茶会はしばらく終わりそうにない…








 
 
 

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