紫蘭の受難 第二章
- RICOH RICOH
- 2024年11月5日
- 読了時間: 21分
天空首脳会談を終え、魔界―雷神界へと瞬時に移動した一行。
宮殿で、シセンが出迎える
「ようこそ、いらっしゃいました。
わざわざ御足労おかけし、申し訳ありません💦」
「いえいえ。お気になさらず。
どうなさいましたか?シセン殿のような方でも
緊張する事があるなんて、思いもしませんでしたよ(笑)」
いつも以上に腰の低いシセンに、穏やかに応じるイザマーレ
「…それは買い被りというものですよ💦
そして、秘め事企み事に対しては、慎重に慎重を
課すくらいでちょうど良いのです。お忘れですか?」
イザマーレとウエスターレンの登場に、やや緊張感が解れたのか
本来の武闘家気質を取り戻し、柔らかな表情で応じるシセン
「(笑)そのお心積もりであれば、何の心配もないでしょう♪
安心しました。我々の僅かな手助けでお役に立てるのであれば
何でもおっしゃってください。」
「ありがとうございます。それなら、
幼少のみぎりに、私のことを捕まえて『つけ髭~💕』などと
ほざいていた、鼻たれ小僧の事については、
お姫様には秘密にして差し上げますよ(*´罒`*)」
「(*^艸^)クスクス シセン殿💕イザマーレ様の
お可愛らしいお姿の事なら、いつでもお聞かせくださいませ♪」
厳つい男同士のやり取りに、朗らかに微笑むリリエルにも
柔和な笑顔で応じるシセン
「リリエル様も、ようこそいらっしゃいました💕
お妃様がお待ちです。どうぞ、こちらに」
スプネリアは宮殿の調理場で料理長にお願いして、
疲れて戻ってくるラァードルの為に、
大好きなカツ丼のトンカツを揚げ、
ナポリタンの下準備をしていた
人間界の料理に、シェフたちは興味深々で眺めている
1人前を見本として仕上げた時、突然姿を現したリリエルに驚く
「り、リリエル様!?どうしたのですか?」
「スプネリア様、頑張っているみたいですね♪
私はお父様と風神殿にお願いされて、パンを作りに来たの。
料理長さん、少し場所をお借りしてもよろしいでしょうか?」
リリエルがニッコリと微笑むと、料理長はポーっとして承諾する
場の空気が一気に和らぎ、穏やかなオーラに包まれる
リリエルは鼻歌を口ずさみながら、手際良くパン生地を捏ねて行く
リリエルがパン生地をこね始めたキッチン内で
一つのテーブルに各々座り、見守っている誠に豪華絢爛な方々
雷神帝、風神帝、雷神の皇太子、
魔界の副大魔王、さらに紅蓮の悪魔
始めはリリエルの登場に顔を赤くさせていたシェフたちも
そのあまりの厳かさに目を奪われている
「では早速だが…シセン殿が杞憂されている事を、
まずは聞かせていただけますか。」
口火を切ったのは、我らが副大魔王。
「はい。相手は所詮、地方の片隅に居を構えているだけの
末端貴族です。企んでいる事など、読むまでもなく分かります。
それは、イザマーレ様であれば、衣食住と同じくらい
当たり前の事だろうと思います…」
「…まあ、自分は悪魔ですからね。」
「ただ…無能な輩ほど、追い込まれた時、
とんでもないことを考えるものです。大は小なりと言いますが…
筋書きの悪い出来損ないの戦略など、企てた事がありませんから…」
「なるほど。仰ることは、凄くよく分かりますよ」
イザマーレの横で、長い脚を惜しげもなく晒しながら
ウエスターレンが我が意を得たり、の表情で頷き、
イザマーレの髪を撫でる
「そこまで徹底的に調べ上げる事。最悪の事態を想定し、
被害を最小限に食い止める事は、警護の上で何よりも重要な姿勢です。
そう言う事なら、少しお待ちください…」
…数秒後、ウエスターレンはイザマーレと目配せする
「…そうだな。シセン殿の推察通り
最悪の事態となれば、面倒な事極まりないな(笑)
それさえ回避出来れば、まあ…大丈夫でしょう」
「ウエスターレン。その最悪の事態とは?」
「邪魔者を、ついウッカリ、
時空の狭間に閉じ込めてしまうおつもりらしいな(笑)」
「…ウエスターレン君。それって、ヨッツンハイムじゃないか💦
馬鹿も大概にしてほしいよな」
聞いていた雷神帝も呆れ顔だ
「(笑)そうだな。それは確かに、そんじょそこらでは
脱出もできない面倒な事だな」
当事者だったイザマーレも苦笑する
「シセン殿。我々を呼んだのは正解でしたな♪お任せください。
暫くの間、雷神界ごとお守りしますよ。」
イザマーレの魔力で、強力な結界で覆い尽くされる雷神界。
少しも動じず、すぐさま処置を講じるイザマーレたちに、
シセンはややホッとする
「さて後は、火に炙られる虫が飛び出すよう、
仕向ける必要がありますが…」
ちょうどその時、とてもいい香りが漂い始めた
「お待たせしました~。パンが焼けましたよ~(*´艸`*)」
焼き立てのパンを運んできたリリエルを見つめ、
不敵な笑みを浮かべるイザマーレ
「ラァードル。言いつけを守らず、
フラフラと出歩き癖のあるお前の姫君なら
願わずとも動き始めるだろうな♪」
「ちょっと!!勘弁してよ💦まさかスプネリアを
餌にしようとしてる?💦」
イザマーレの思惑に気づき、狼狽するラァードル
「より深く理解させるには良いのではないか?
我々にしても、あのような事態を繰り返されるのは困るからな」
「そ…そうだったよね…💦本当にごめん…」
イザマーレの鋭く厳しい言葉に、素直に謝り
項垂れるラァードル
「それに、ラァードルなら、どんな状況になっても助けるだろ?」
ニヤッと笑うイザマーレ
「スプネリアの事も、保護してやるから
不測の事態だけは免れるだろう。良いな?」
「うー…💦分かったよ。」
渋々、了承するラァードル
「なるほどな。まだ尻の青い嬢ちゃんや、息子のお前に
帝位を譲る気など更々ないが、いずれはこの雷神界を
背負っていく立場だからな。世界のバランス維持のために
何を優先するべきか、理解してもらう必要はあるだろう。
ラァードル。分かったな。」
全てを見届けた雷神帝は、深い眼差しでラァードルを諭す
「儂も雷神と同意見だ。イザマーレ君。
手間をかけるが、よろしく頼むな♪
いや~、本当に美味いな…Bletillaにもやらせてみるか…
いや、無理だな💦(笑)」
そう言いながら、リリエルのパンを食べてご満悦な風神帝
そこへ雷帝妃もやってきた
「リリ~いらっしゃい♪何やら凄く良い匂いね♪」
「あ、お母様(*´艸`*) 御挨拶が遅れてごめんなさいね。
ちょうど今、焼き上がったところです。
どうぞ、召し上がってくださいな♪」
「ええ~!!リリの手作りなのね?!凄―い(≧∇≦)
へえ~…私も後で、作り方教わっちゃおうかしら♪」
「クスクス…勿論ですよ♪」
「お♪マミィ~美味しそうな匂いに惹かれて来たな。
おいで。一緒に戴こう」
雷神帝は嬉しそうに雷帝妃を隣に座らせる
「リリエル。お疲れ。お前もこっちにおいで。」
イザマーレもリリエルを隣に座らせ、
誠に豪華な茶話会が続けられた…
「おお~これが噂の手作りパンか?💕」
大喜びで受け入れ態勢バッチリな雷神帝と風神帝
リリエルが運んできたのは、いつもの大きさのパンと
ひと口サイズのカップケーキのようなパン
「ミニバラパンですよ(*´艸`*)
歓談中でも、お手に取りやすいかと思いまして💕
バターを多めに練りこんだのと、
チョコ風味のと作りました(*^^*)」
「さっすがー💕 でもいいの?サムちゃん、甘いの苦手でしょ?💦」
はしゃぐように喜びながら、確認するラァードルに
リリエルはにっこり笑う
「フフフ(´^∀^`)フフフ… 良いのですよ
なんだか、金と赤の悪魔様たちに、どうやら
騙された気がしてますので。これくらいなら
召し上がってくださいますよね?閣下💕」
「(笑)…勿論だ。有難く頂きます」
ニヤニヤしながら殊勝に手を合わせ
味わうイザマーレ
「ふふっ♪ あまり甘くないビターチョコにしましたから。」
小悪魔な表情を浮かべつつ、にっこり微笑むリリエル
2魔のやり取りを見ていたラァードルが、唐突に言い出した
「そうだ、リリエルちゃん、ついでに夕飯も作ってくれない?」
そこへ調理長がやって来て話しかける
「お話し中申し訳ございません
実はスプネリア様がラァードル様や
皆様の為にとお作りしていたのですが……
いつの間にかお姿が見えなくなってしまったので
どうして良いものやら……
下ごしらえは、ほぼ済んでいるのですが……」
「えっ」
調理長の言葉を聞いて見渡すとスプネリアの姿がない
「……」
調理長からの相談を聞いていたイザマーレは
リリエルの髪を撫でる
「せっかくの食材を無駄にするのは申し訳ないからな。
リリエル。すまないが、頼めるか?」
「……閣下…」
「心配するな。これは吾輩の意思だ。魔界においても、これ以上
お前に尻拭いさせるわけにはいかないからな」
「…そういう事なら…畏まりました。殿下。
スプネリア様のお料理のお手伝い
させていただきますね。あまり、ストレスをため込まないよう、
お腹いっぱいになってもらわなくっちゃ♪」
リリエルは努めて、いつものように微笑む
「料理長さん…私が作り方をお伝えしますので、
ご協力お願いできますか?
皇太子妃様のお料理を完成させてあげましょう(*´艸`*)」
リリエルの言葉にホッとしながら、調理場へ案内する料理長
母娘のやり取りを遠巻きに見ていたスプネリアだったが
その直前には雷神帝、風神帝もワクワクしながらやってきて
調理場が賑やかになっていく
それと同時に孤独感がスプネリアを襲い始める
自分が作った料理は誰も見向きもされないと思い
その場をそっと離れた
調理場を出たところで、ラァードルとイザマーレ、
ウエスターレンが揃ってやって来た
「……殿下、お帰りなさい
閣下、長官、会談警備お疲れ様でした……」
「ただいま。今日はリリエルちゃんが腕を奮ってくれるって!
楽しみだよね」
「そ、そう…… ごめん……ちょっと用を思い出したから
すみません、失礼します」
とにかくそこから離れたかった
仲良しの母娘の姿を、微笑ましく見ている彼ら
そして、ラァードルからの一言にショックを受けた
まるで自分の事は、そこに居なくてもいい様な
彼らの振る舞いに戸惑う
嫉妬、妬み、悲しみのどす黒い感情を抱いたのを
誰にも気が付かれたくなくて、
リリエルに迷惑をかけてしまった時の事を思い出す
パンの香りから逃げる様に離れていく……
嫉妬心から、また周りが見えなくなったスプネリア
気がついた時には宮殿から出てしまっていた
(もう皆呆れてるよね……)
そう思うと益々自分の性格が嫌になる
自分なりに頑張ってみたけど、どうしても比べられている様で…
もう疲れた…… このまま何処かに消えてしまいたい……
そんな事ばかりがスプネリアの脳裏をしめていた
宮殿の周りを見張っていたホセとグリアが
フラッと出てきたスプネリアを目敏く見つけ、後をつける…
「そろそろ捕まえてもいい頃合かしら?」
「そうだな、これだけ離れれば誰も判らないだろう」
物陰から睡眠効果のある煙をスプネリアに向かって漂わせる
足元から巻き付くようにうねりあがってくる煙に気が付き
払おうとするが、だんだんと力が抜け目の前が暗くなって行く
煙はスプネリアの全身を隠すように包み込んでしまった
ホセとグリアはスプネリアを抱え上げると屋敷に連れ去った
グリアに捕まったスプネリアは
屋敷の地下の一室に閉じ込められていた
時折感じる血生臭い匂いが漂ってくる
気が付いたスプネリアの目に飛び込んで来たものは、
檻に閉じ込められた無数の動物達…
ここはグリアの欲望を発散させるだけの拷問部屋だった
奥からは呻き声が響き、いたぶるのが趣味なグリアが
返り血を浴びながら狂喜乱舞していた
スプネリアが目覚めた事に気が付いたグリアが
ニヤッと嫌な笑みを浮かべる
「あら?やっとお目覚めかしら?
雷神界の大事な皇太子様を奪った人間様
どういたぶってあげようかしら……フフフ……」
「な!何してるの?それにこの仔達は一体……」
「ああ、そいつらは私が飼ってる獣たちの餌でもあるし、私の
不満解消用の玩具なの 自分の欲望には素直にならないとね」
「そんな……自分勝手な欲望なんて、殿下も雷神帝様も許さないわよ!
そんな事を繰り返せば各界のバランスが崩れてしまうわ!」
「バランスなんてどうでも良いのよ
自分の欲しい物はどんな手を使っても手に入れる
気に入らなければ壊せば良いだけなのよ」
「……貴女、何を考えてるの?」
「貴女が現れなければ、ラァードル様をどんな事しても手に入れたわ
皇家の一員になれば、天界にすぐ行ける様になり、
崇拝するゼウス様のお側に行けるから」
「……貴女達の本当の目的は、殿下でも地位でも無く、天界の
ゼウスの元に行く事だったのね?そして各界に争いの火種を
落とすつもりね?」
「そうよ!こんな世界全部壊してしまえば良いのよ!
そして、ゼウス様を中心にまた新たな世界を…理想郷を創るの
その前祝いに皇太子妃の貴女を血祭りにあげるのよ!」
短刀を振り上げスプネリアに襲い掛かるグリア
その時、いつも一定の距離を保ちながら
スプネリアを見ていた白蛇が現れ、グリアの前に立ち塞がる
「ひいぃぃ!へ、蛇! 邪魔するんじゃないわよ!おどき!」
『退かぬ! この方を守り通せと言われておるからな!
それに、この場所とお主の所業は全て
シセン様、そしてラァードル様に既に伝達済みだ
もうすぐ到着される。覚悟しろ!』
「なんですって!?」
『この方に手を出したのが間違いだったな
それに魔界の副大魔王様とお妃様、ウエスターレン殿が
お前達の野望を既に見抜いておったわ!』
「くっ…… そこまで見抜かれていたなんて……
だったら、お前も道連れにしてやるわ!」
グリアが雷を白蛇に向かって放つ
「だ……だめーー!きゃーーー!!」
咄嗟に白蛇を庇い、背中で雷を受けたスプネリアがいた
白蛇はスプネリアのとった行動に驚き、叱り付ける
『何故お逃げにならない!?何故、ご自分の事
そしてラァードル様だけをお考えにならないのです!?
私の事など捨て置かれませ!!』
「ご、ごめんなさい…… でも……嫌なの……
誰かを……何かを……犠牲にしていくのは……辛いの……
だったら……守られるより……ま、守って……い、きたい……」
そこまで言うとスプネリアは気を失ってしまった
白蛇は再びギッとグリアを睨み付け、人型に変化すると
数匹の蛇を投げ付けた
蛇達はグリアの身体に巻き付き縛り上げた
「ひいぃぃ!へ、へ、蛇がーー私の身体にぃーー!!」
『その蛇達は暴れれば暴れるだけ、主の身体にくい込んでいくだけじゃ
本来なら私が引導渡すべきだが、それではラァードル様の
お気持ちが晴れぬだろう。それにお前の父も既に捕らえたからな』
白蛇は振り返り、傷を負ったスプネリアの背中に薬をふりかけた
その時、ラァードルとシセンが現れた
『ラァードル様!スプネリア様にお怪我を負わせてしまい
申し訳ありません……』
「気にしなくても良いよ……この怪我だって
コイツが勝手に動いた結果でしょ?
でも、ありがとう。居場所を教えてくれて助かったよ。
とりあえず、スプネリアは連れていくね。
シセン、後のことは頼んでいいかな?」
「かしこまりました………」
ラァードルは意識が無いスプネリアを抱き上げ
壱蛍の背に乗り飛び去っていった
『シセン殿……申し訳ありません……』
その場に佇み、険しい表情を浮かべる白蛇…
魔界―
屋敷で、普段滅多に使う事のない
2階の扉をノックする音が聞こえた
通常使う扉は、リリエルやLily‘sたちが出入りする1階の扉。
2階に訪れる構成員は魔法陣を使うため、扉を使う者はおらず、
ノックする者など皆無と言っていい。
それでも、明らかに聞こえるノック音に、
不思議に思いつつ扉を開けてみる
「…あら?貴方は…」
ドア越しに佇んでいたのは、紫雲だった。
一応、魔界に降り立った後、ヒト型に化身したらしい。
「突然、お伺いしてしまい、驚かせてしまって申し訳ありません…」
「どうかなさったのですか?わざわざ、魔界までお越しになるなんて…
お父様はご一緒ではないようですね?」
「はい…💦 叱られることは重々承知の上で参りました。
是非、魔界の副大魔王様とお妃様のお力を賜りたいと思いまして…」
「? ともかく、お入りくださいな。中でお話を伺います」
いつも礼儀正しく、威風堂々としている雷神帝の使い龍、
紫雲の項垂れて思いつめた様子に、
リリエルはいつもの朗らかな笑顔で部屋の中に招き入れた。
……
「まあ…そうでしたか…」
ひと通り話を聞いたリリエルは、口元を手で覆い、考え始めた
「その場に居た、シセン殿の専用ペットであった白蛇から
話を聞き出したのですが、その後、白蛇の姿を見なくなりました
恐らく、スプネリア様をお守りしきれなかった責任を
感じているのだと思います。」
「お気持ちは分かりますわ。
身を挺してでもお守りしたかった筈でしょうから…
だけど、お父様やラァードル様は、
その事をお責めになったりはしないでしょう?」
「…はい。帝も皇太子殿も、優れた気質をお持ちで御座いますから…」
リリエルの言葉に、紫雲も心を解きほぐされ
少し笑顔を浮かべる
「ただ…」
「?…紫雲さん…?」
再び、物憂げな表情を見せる紫雲に
リリエルは優しく問いかけ静かに見守る
「今、あいつは宮殿内の一室で縄に括り付けられ、
拘束されています。主であるシセン殿の命令を受けて…」
「…なるほどな。正義感と責任感の塊、いかにもシセン殿らしいな」
「!!…閣下…」
突然姿を現し、リリエルの髪を撫でるイザマーレに
紫雲は深々とお辞儀をする
「!! イザマーレ様…急な訪問で、申し訳ありません」
リリエルは、紫雲に近づき、その手を優しく握る
「…紫雲さん。その白蛇さんはきっと、シセン殿にとっても
最も信頼の厚い、大切な存在なのではないですか?」
「!!…は、はい…そうなのです…
シセン殿の分身と言っても差し支えないほどの存在だと
私どもは思っているのです…」
リリエルに心の鍵を押し開かれ、涙が止められずにいる紫雲
「本当に、素敵な方々ですよね。
雷神界にお邪魔する度に、いつも感じておりました。
紫雲さん…私に何かお役に立てる事があるのかしら?」
「!!」
どう切り出せば失礼でないのか、考えあぐねていた紫雲は
驚いて顔を上げる
傍で聞いていたイザマーレは、「やれやれ」とため息をつきながらも
静かに微笑んで、リリエルを見つめていた
「クス♪ そのために、お越しくださったんでしょ?紫雲様…」
「…リリエル様…///////」
顔を真っ赤にする紫雲
「あら♪ようやく私の名前を呼んでくださいましたのね(*´艸`*)
そのお礼に、ひと肌、脱がせていただきますよ♪」
イザマーレがリリエルを髪に乗せて、ウエスターレンと共に
雷神界へ降臨すると、出迎えたのはいつものシセンではなく
壱蛍だった。
「イザマーレ様…ウエスターレン様…それにリリエル様…
ようこそいらっしゃいました…父龍、紫雲より承っております
こちらへどうぞ…」
「壱蛍さん。お出迎え、ありがとうございます💕
よろしくお願いしますね」
壱蛍に誘導され、宮殿の中に行くと
スプネリアのいる部屋の前で、悲痛な表情を浮かべるシセン
「シセン殿💕お邪魔しております♪」
「!…あ、これは…申し訳ありません、ご挨拶が遅れまして…💦」
「そんな事、お気になさらないで💕
言いつけを守らない、じゃじゃ馬の怪我くらい、
放っておいて下さいませ」
「!」
リリエルの思わぬ辛辣な言葉に驚くシセン
聞こえていたスプネリアもベッドの中で固まる
「自分を省みず、突発的に動くという事は
美談のように思えるけれど…
でも、より良い結果を導き出せないのなら、
それはエゴでしかありません。」
聞いていたスプネリアは、ますます驚愕して青ざめる
「も、もう無理…一度人間界に行ってやり直します💦」
そんなスプネリアに、リリエルは厳しく睨みつける
「スプネリア様。いい加減になさいませ。
それを決めるのは貴女ではありません。閣下の御意思です。」
「!!」
これまで知らなかったリリエルの厳しい視線に
固まり震え出すスプネリア
「いい加減、ずっと我慢して、
それでもスプネリア様に寄り添っていらっしゃる
殿下のお気持ちくらい、気が付かれたらどうなの?」
リリエルの焚きつけるような言い草に
つい、スプネリアもムキになり、本音を零す
「いえ…私はただ…たとえ小さな命でも
弄ぶような彼女が許せなくて……」
「命を容易く弄ぶ行為…小さくて儚い命…
それは、誰のことなのかしら?スプネリア様。
生まれ変わる事…それがどんなに大変な事なのか
貴女には分からなくて当然ね。
でも、その間の殿下のお苦しみをお考えになれば
踏みとどまれるはず。貴女には、長官と私の残骸のような
オーラが受け継がれているのですから……」
リリエルの言葉にハッとして、俯くスプネリア
「ですから、シセン殿。今回は誰にも責任はありませんわ。
処罰など、必要ないでしょ💕」
パッと表情を変え、にっこりと微笑むリリエルに
慌てふためくシセン
「で、ですが…傷も残ってますし💦💦💦」
「治しちゃえば良いのね?お任せくださいませ💕」
リリエルはニッコリとスプネリアを抱きしめ
あっという間に傷跡を消した
「シセン殿💕こんな、とるに足らない事で
気に病む必要などないですよ。
これからもお元気でご活躍くださいませ💕
閣下の可愛らしい武勇伝、お聞かせくださるお約束でしょ💕」
見届けたイザマーレがリリエルの髪を撫でる
ずっと静かに見つめていた白蛇は、
やや顔を赤らめ俯いたまま呟く
『……////僭越ながら、私はどうなっても良いのですが…
主であるシセン殿がお元気をなくされるのは遺憾に思います』
「お前……💦💦💦」
白蛇の言葉に、さすがのシセンも視線を泳がせる
すっかり落ち込むスプネリア
「スプネリアの散歩癖など、折り込み済みだ。そのおかげで、
雷神界に巣食う亜種のような病原菌を駆逐出来たんだ。
ま、気にするな♪」
紫煙を燻らせ、ほくそ笑むウエスターレン
気が付くと目の前にラァードルの顔があった
「で、でん…… ご、ごめ……」
バッチーーン!!!!
一瞬何が起きたのか理解出来なかった。
徐々に頬に痛みが出て来た
いつも飄々としているラァードルが本気で怒り叩いたのだ
顔が上げられない。
何が悪かったのか、自分が1番分かっている
何を言っても言い訳にもならない
このまま電撃を喰らい、消滅させられても文句言える立場でもない
ラァードルから告げられるであろう決別の言葉を覚悟した
が、予想もしていなかった事がおきる。
抱きしめられていたのだ
余りの事態に混乱するスプネリア
「何をそんなに不安になる!?吾輩の事、信用出来ないの?」
「そ、そんな事ない!信用してる! ただ自分に自信が無いの……
何をしても雷帝妃様と比較されるから…… どうしたらいいのか
判らなくなって…… 寂しくなって……
気がついたら宮殿から飛び出てしまって……
どうしたら雷帝妃様みたいになれるの?(泣)」
「何言ってるの?別に母ちゃんみたいにならなくていいじゃん
吾輩はスプネリアの事、スプネリア自身に惚れて
妻にしたつもりなんだけどね」
「! わ、私……もう捨てられると思って……
白蛇さん助けたくて……だから……」
「それでリリエルちゃんに叱られたんでしょ!それでなくても
サムちゃんから餌にするって言われた時から嫌な予感してたし
今回に限っては、シセンを悩ませてた問題も解決出来たよ。
だけどそれは、サムちゃんたちのお陰だからね!!」
「ごめんなさいごめんなさいっ呆れてるよね!?
……許されるなら、花に戻れるなら戻って殿下だけ見ていたい……
でもそれも許して貰えないよね? またやってしまいそうで怖い……」
ガタガタ震え更に泣きじゃくる
「…とにかくお前の身勝手な行動のせいで、
白蛇は処罰されるんだよ!?気の毒だよな。
でも、その白蛇を救ってあげれるのは
スプネリア、お前しかいないんだよ?」
「!! どうして!?処罰されるのは私でしょ!?
雷神帝様は今どちらにいらっしゃるの!?
お願い!雷神帝様の所に連れて行って!」
「呼んだぁ?」
驚いて振り返ると、悪戯好きな表情で佇む雷神帝
その後ろに、雷帝妃と風神帝。
イザマーレとウエスターレン、それに…リリエル。
「雷神帝様! 申し訳ありません!白蛇さんに何の罪は有りません!
全ては私の身勝手な行動から招いた結果です! 許してあげて下さい!
処罰なら私が受けますから! お願いします! お願いします!」
その場に土下座して頭を下げ、懇願し続けるスプネリア
傍に行き、スプネリアを抱き起したのは雷帝妃だった
「スプネリアちゃん…ラァードルの妃として言うべきことなら、
土下座はやめなさい。さ、立ち上がって頂戴な♪」
「!!///////」
「帝♪ 良いに決まってますわよね♪
私のゲームのお相手が減ってしまっては困りますもの(*´艸`*)」
天真爛漫を装い、おねだりする雷帝妃に
その場に居た誰もが笑顔になる
「マミィ~。勿論だとも♪ 皇太子妃の命令とあっちゃ、
逆らうわけにはいかないからな(笑)」
「その様子なら、心配は不要ですね。ただ…」
一連のやり取りを見届けたイザマーレが、
笑いを堪えながら話しかけたが…
「おっと♪イザマーレ君。分かっているよ。君たちがよくやる
あの真似事をすればいいんだろ?」
「クスクス…お父様ったら…
いつもそうやって、見てらっしゃったのね(´∀`*)ウフフ」
雷神帝のおどけた仕草に、リリエルは楽しそうに笑う
彼らの少し後ろで、ずっと佇んでいたシセンに近づく雷神帝
「シセン。白蛇を今すぐここへ呼び出したまえ」
「はっ!」
雷神帝の命を受け、シセンは直ちに白蛇を呼び寄せた
「白蛇よ。お前は今後もシセンに従い、
これまで以上に職務を遂行するように。
お前にはまだやるべき事が残されている。
今度はしくじるなよ?」
『…畏まりました。この度の身に余る厚意、
決して無駄には致しません。今後も我が身を捨て駒として、
何なりとお申し出下さいませ。』
全てを見届けたリリエルは、
イザマーレと見つめ合い、静かに微笑む
イザマーレも笑顔でリリエルの髪を優しく撫で
ウエスターレンと目配せする
「では、我々はこの辺で、失礼します。
台風シーズンはまだしばらく続くのでしょう?
ラァードル、頑張れよ♪」
「イザマーレ様、リリエル様…ありがとうございました。
またいつでもお越しくださいませ」
シセンも、穏やかな表情を取り戻していた
リリエルを髪に乗せ、
鮮やかに立ち去るイザマーレとウエスターレン
その金と赤のエネルギー体を見送りながら、
紫雲は堪えきれない涙を浮かべていた……
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