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虎の子8 男子会編


パンデモニウム宮殿で運動会が開催されてから数週間後の週末

文化局の森でいつものようにお茶会を催す構成員たち


「しかし…元はと言えば、セルダが拾ってきた『たまご』だったが

面白い魔材に育ったもんだな」

「そうだな。案外、魔宮殿で働かせてみるのも悪くないかもな」


器量の良さついては認めざるを得ないイザマーレに

それとなく提案するウエスターレン


「完璧な王子役を演じるお前に、付け入る隙は無かったが、

それでもリリエルの為に、ひいてはそれが魔界の為に

率先して動こうとする貴重な魔材になる。

…お前が以前、koji をプエブロドラド入りさせた理由も

今なら、何となく分かるぞ」


「…そういや、そんな奴もいたな(笑)」

ティーカップに口を付けながら、静かに微笑むイザマーレ


「…やっぱ、良いよな~。セルダ、どうなのよ。子育て経験者としては。」

2世というワードに興味を持ち始めたラァードルが

セルダに問いかける


「俺はやっぱ、過干渉になれないし、

シューゾウが本当に困ってる時、悩んでる時に

そっと寄り添ってやれたらって思うんよ。

人間界で世話になったあいつも、同じような事言ってたし。」


養い親になる事で一皮向けたようなセルダを

羨望のまなざしで見つめる構成員たち




「セルダなら、自分の体験談やあの人間の体験談を、

そのままアドバイスとしてシューゾウに話してやれれば十分だろうな」


一刻も早く、自分も『たまご』を見つけようと、バサラは改めて決意する


「俺はまあ、言うても父親役じゃんね。

母親を務めたプルーニャは、愛着も俺以上みたいで。

シューゾウの失恋と、独り立ちする寂しさで

いまだにちょっと、落ち込んでるみたいね」


「そんな寂しさは、お前が埋めてやれば良かろう?セルダ」


「!!…閣下…」


思いがけないイザマーレの言葉に驚くセルダ


「そうだよな(笑)お前ら、まだ婚姻の儀すら済ませてないのに

シューゾウの養父母をしっかりこなして、すっかり熟練の夫婦のようだぞ?」


「そ、そんなだった?💦💦」


ニヤニヤするウエスターレンの言葉に

照れくさそうな笑顔になるセルダ


「ダンケル、どうなの?シューゾウを立派に育て上げた功績で認めてやったら?」


お代わりのハーブティを注ぎながら、ダンケルを促すベルデ


「そうだな…もぉちろん、いいよお♪☝」


(…おい。これ、リリエルに聞かせてやったら大喜びだろうな♪)

(………♪)

テレパシーで目配せし合い、ほくそ笑むイザマーレとウエスターレン




翌週末、文化局の森で

セルダとプルーニャの婚姻の儀が

しめやかに執り行われる事になった


堅苦しく仰々しい事は苦手な2名を考慮し、

仲間うちだけの囁かなイベントだ


テーブルの設営や料理の準備など、

ご機嫌な笑顔でサポートに回るリリエル


プエブロドラドの主だったLily‘sの元には、毎度の如く

悪魔軍 666 師団が赴き、会場に誘導する


プルーニャの晴れ舞台と、

噂を聞きつけたベロチーバと領地の悪魔達も駆けつけ

森の外側でプエブロドラド周辺にいる低級魔たちと早速宴会を始めている


「あら♪ベロチーバ様。今日はどうもありがとう(*´艸`*)」


「ふん…これくらい、どうってことないさ。今日は特別な記念なんだろ?

ちょうどあの時育てた林檎の木から、立派な果実が採れたんでね。

脚の長い悪魔なら、すぐに熟成する事もできるだろ?」


ニマっとほくそ笑むベロチーバに、リリエルは大喜び。


「わあ♪すごーい💓💓さっすが、ベロチーバ様(≧∇≦)

そうね。長官に頼んでみますね♪」


文化局の森ならば、

ベルデの施す超強力な結界で守られるため、手厚い警備が不要だ

それならば、音楽で華を添えてやろうと王室専属の音楽隊に加わり

リハを行っていたウエスターレンの元に、

ベロチーバから受け取った林檎を手に駆けつけるリリエル。


「ちょうか~ん。お忙しいところ、すみません。

この果実で美味しいワインにして貰えませんか~?」


「お!アダムの林檎だな。任せろ♪」


ウエスターレンの魔力で炎を絶妙に操り、

たちまち美味しいワインが出来上がる




「ほらよ。…ぼちぼち、準備も整ったか?ん、イザマーレはどうした?」

ワインのボトルをリリエルに手渡しながら、辺りを見渡すウエスターレン


「あ、閣下なら、何か急用があると仰られて…

時間までには戻ると思うのですが」


「…へえ…さては何か、サプライズか」


含みを持たせるウエスターレンに、リリエルはキョトンと首を傾げるだけだ


「リリエルちゃま~」


「あら♪ソラちゃん。

今日はプルーニャ様の綺麗な姿、一緒に楽しみましょうね

いらっしゃい。ソラちゃんも可愛らしくお洒落しないとね♪」


「リリエル様。おかんは何だか、ド緊張しているようで

朝から挙動が可笑しいです。会場の設営は、僕もお手伝いしますので

おかんに会ってやってください」


ソラと手を繋いで館から出てきたシューゾウが、

リリエルの持っていたワインボトルを受け取り、

中央のテーブルに運んでいく


「そうね。じゃ、ソラちゃん。一緒に館に行きましょうか。

シューゾウくん、後はよろしくお願いしますね」


「はい。畏まりました!!」


そんなやり取りを見守りながら、僅かに邪眼を開き

イザマーレの様子を窺っていたウエスターレンはほくそ笑む


(…なるほどな♪)


この時、イザマーレは人間界のとあるマンションの一室に降臨していたのだ




仲の良い友達数人とおしゃべりしながら下校し自宅の玄関を開けた。


その途端、いつもと違う空気を感じるリナ。


「ただいま…?…変だな」


首を傾げながら、マスクを外し、和室の前を確認しに行く

そこはかつて、母親のリリエルがいつも居た場所。

奥の壁にはイザマーレのポスターが飾られている

そこで目にした光景に、驚いて固まる

後ろ姿で、自分のポスターを興味深く眺めている存在…


「…あ、あの…💦」


「ようやく来たか。待っていたぞ。」


リナの小さな声に振り向き、静かに微笑む


「…閣下…ですよね。ホンモノ?」


「(笑)そうだ。お前は…たしか『リナ』だったな。お帰り」


突然、自分の前で起きている出来事に

目を白黒させながらハッとするリナ


「どうしたんですか。閣下がここにいらっしゃるなんて…

まさか、ママに何かあったんじゃ…」


「リリエルの事なら心配するな。元気にしている。」


「/////…それじゃ、いったい…」




「高校受験、頑張ったな。

お前の様子をしきりにリリエルも気にしていてな

お前の頑張りに、リリエルも喜んでいたぞ」


「!…あ、ありがとうございます…/////」


「高校受験合格の褒美に、一日限りの夢をプレゼントしてやろうと思ってな♪」


「…へっ?」



「コロナ渦で、大好きな仲間たちと遊びに行くこともままならないだろ。

我々の居る魔界なら、そんな心配は無用だ。

吾輩が連れて行ってやるから、すぐに仕度しろ。」


「!! 魔界に…?ママにも会えますか?!」


「そうだ。悪くないだろ?」


「…あの…知らない人に着いて行ってはいけないと言われています」


そこまで聞いておきながら、美味しすぎる話に警戒信号を発令するリナ


「…人ではないがな…(苦笑)まあ、そうなるよな」


「初めての場所に、ひとりで行くのは怖いし…そうだ、友達も誘っていいですか?」

そう言って、すかさずタブレットを取り出し、友達を誘い出すリナ


「やれやれ…そうしたいなら、好きにしろ。」


数十分後、リナからのメッセージを受け取った仲良しメンバーがマンションに集結した

小学生の頃から長年、同じ吹奏楽部のメンバーとして強い絆で結ばれている仲間だ

チハル、チヒロ、ヒナ、アオイ、

ヤマアオ、ライト、シュウジ、コウタ、ケイシ…




LINE の内容では意味不明すぎて疑心暗鬼だった彼らも

部屋にいるイザマーレの姿に目を丸くし、

同時に好奇心に満ち溢れワクワクし始める


「これで全員か?それでは行くぞ。」

十数名の子供たちを従え、魔界に向かうイザマーレ

文化局の森に併設された館では

ちょうどソラのドレスアップを済ませ、プルーニャと談笑していたリリエル


「あ、閣下♪お帰りなさいませ…えっ?!」

そこに現れた一行に目を丸くして驚く


「…ママ…」


久しぶりに肉眼で捉えたリリエルの姿に、涙を浮かべるリナ


「あ!リナのお母さんじゃん!! すっご~い♪久しぶり!!」

ヒナとアオイが大喜びではしゃぐ


「リナ…よかったな」

隣にいたケイシがリナの髪を撫でている


チハルとチヒロは森の景色に目を奪われ、興奮を隠せないでいる

いつの間にかシューゾウの手伝いをしていたコウタの元に駆け寄り

その他のメンバーも一緒になって

666 師団のスタッフともすぐ打ち解けてしまう


「か…閣下…///////」


一番驚いて固まり、動けずにいたリリエルが、ようやく口を開いた


「シューゾウにソラに…ちびっ子どもばかりの儀式になりそうだからな。

お前の娘だって、立派に成長してるんだ。

卒業祝いにはまだ早いが、記念になる事をしてやっても良いだろ」


「イザマーレ…さすがだな。まあ、猫に魔獣にちびっ子に…

セルダの晴れの門出には、ピッタリだな♪」





リナとその他のメンバーは、王室専属の音楽隊とすぐに仲良くなり

この日の演奏に加えてもらう事になった


数が多すぎるとお役御免になったウエスターレンが

イザマーレの元に歩み寄り、紫煙を燻らせる


久しぶりに耳にした彼らの奏でる音に、リリエルも嬉しそうに微笑む


軽やかなホイッスルが鳴り響き、小粋なリズムが胸を躍らせる

宝物を探す冒険家たちのメロディに自然とワクワクした気分になる


「へえ~…案外と上手いじゃない。」

「やっぱり、良いよね。多くのメンバーと協力し合って

ひとつの音楽を作り上げるのって」


正装の姿で優雅にテーブルを囲い、

お茶を嗜みながら時間を待つ構成員たちも、穏やかな笑顔を浮かべる


「あのパーカッション、リリエルちゃんの娘ちゃんなんでしょ?

さすが、我々の音楽を胎教にしていただけあって、

リズム感は抜群なんだな(笑)」


最高魔たちも認める程のグルーブを作り上げる彼らの音に

いつの間にか、森の木立も耳を澄ませ、澄んだオーラで満ち溢れていた


「…ところで…肝心の主役はどうしちゃったの?」

「まさか、直前になってバックレるなんて、しないよね…💦」

やや不安顔なラァードルとバサラ

「あいつも男だ。心配なかろう。」

ティーカップに口を付けながら、何気に周辺のオーラを確認するイザマーレ


「や、どうも~」


「! やっと来たか、セルダ…ってかお前💦」


ちょうどそこへやって来たセルダの姿に、一同目を丸くする


いつもの袖なしの戦闘服にギンギラシルバーのニーハイブーツで颯爽と登場したのだ




「セルダ…今日はお前とプルーニャにとって大事な日だろ?

きちんとした格好にしなさい💢」


リリエルが激おこになるのを察して、

思わず強めに言ってしまうイザマーレ


「ええ~、これが一番、俺らしいじゃんね」


「ちょっとセルダ💦勘弁してよ~(^-^;

こんな時くらい、もっとお洒落な格好にならなきゃ!!

あ、何なら、俺が衣装を出してやろうか?」


エレガントな装いに関しては誰よりも拘りの強いバサラが

自分好みのシーなスルーのブラウスを魔力で出してみるだが…


「俺、そんなの趣味じゃないじゃんね💦そんなら、閣下、出してよ」


即効で拒否するセルダ


「…お前も火のエレメンツだからなあ…

意外とウエスターレンのような軍服も似合うんじゃないか?」


そう言いながら、

ウエスターレンのような赤い燕尾服に変身させるイザマーレ


「…だが、これじゃ流石に、セルダっぽさがなくなるな…

お前は魔猫だからなあ…これなんかはどうだ?」


ヒョウ柄のファーがついた、某ミュージカルのチャラ猫が着るような

ど派手な衣装に変えてみる


「うーむ…どれもしっくりこないか…」


「ちょっと…閣下…///////」




好き勝手に着せ替え魔形にされ、挙句、似合わないと酷評され

見ていた他の構成員は、腹を抱えて笑いを堪えている


ブチっ…


思わず、堪忍袋の緒が切れ、プンスカし出すセルダ

自分の魔力で、元の姿に変身する


「いいじゃんね

俺はいつもの格好に誇りを持ってんの💢それで良いじゃんね💢」


何気に、婚姻の儀という晴れ舞台に際し、

少し緊張していたセルダ。不器用な性格が暴走しかけている


「し…仕方あるまい💦」


面倒な事は避けたいイザマーレも、渋々了承した。


「…ま、確かにセルダ、お前はいつものその姿が

一番お前らしくてカッコいいもんな。良いんじゃないか?

事情を話せば、リリエルも納得するだろう(笑)」


ニヤニヤするウエスターレンのひと声で、本日の花婿の衣装が決定した





ちびっ子音楽隊の奏でる音が鳴り響く

森のカーテンが開け放たれ、リリエルとLily‘sにエスコートされながら

清楚な白無垢姿のプルーニャが現れる


森の外に特別に設けたウェブカメラで上映されるのを眺めながら

歓喜に沸く低級魔たち


セルダはすくっと立ち上がり、プルーニャと並んでにこやかに見つめ合う


「ええ~、みんな、ありがとう。これからも、

プルーニャを妻として楽しくやっていこうと思うから、よろしく頼むね。」


「///////」


プルーニャは、ど緊張 MAX で、

両手両足がロボットのようにぎくしゃくしたまま

真っ赤な顔で、なぜか居合わせている構成員をガン見している


「セルダ、プルーニャ、おめでとう。末永く、幸せにな」

イザマーレの言葉に、参加者全員が拍手喝采で盛り上げる


「…ゃ。…ーニャ…おい、プルーニャ?」


「ひえっは、ははは、はい!!」


有り得ないと思っていた光景に、

幽体離脱を起こしかけていたプルーニャ

セルダの呼びかけに素っ頓狂な声を上げる

「(笑)大丈夫?そろそろ、こっちを向いてくれるかな?」

「…!…///////」

固まり続けるプルーニャの顎に手を添え、そっと口づけを交わし合う…





イザマーレの目論んだ通り、夢のような時間が過ぎ去り

リリエルの娘と仲間たちも人間界に戻され、日常生活を送っていた


アダムの林檎の差し入れという、

粋な計らいをしたベロチーバの元を訪れたり、

その他の公務もこなしつつ、

相変わらず忙しい日々を送っていたイザマーレたち


そんなある日の事

珍しく慌てた素振りでベルデから伝令が届く


不思議に思いながら文化局へ向かうと

森の中でキラキラとエナジーを放出させるエネルギー体が

そこかしこに出現していたのだ


しかも…何体も…


「! えっ💦これって…」

リリエルは驚いて目を丸くする


「偶然の巡り合わせなのか、それとも、自然界からの恵みなのか…」

にこやかに笑うベルデ


「おい、イザマーレ…さてはお前、狙っていたな?」

眼光鋭く見つめるウエスターレンに、イザマーレはニヤッと笑う


「リリエル。お前から散々聞かされていたからな。

リナを中心に、あのちびっ子どもは、

我々にも匹敵するほどの好奇心と才能に溢れ、

固い絆で結ばれた、すごい連中なんだってな♪」


「!…閣下…///////」

あまりの事に口を両手で隠し、涙ぐんでひたすら頷くリリエル


「ソラが発生した時から、ずっと考えていた。

我々、最高魔軍の事も、改めてな。

それで、ひょっとしたら、とは思ったが、

こうまで物の見事に的中するとはな(笑)」


穏やかに笑うイザマーレを、改めて尊敬のまなざしで見つめるリリエル




「…そうか…それなら、不思議な事でも何でもない。

これからが…楽しみだね」



…この時、森で発生した 13 種の生命体は、

ベルデの見立てた通り、最高魔イザマーレ族として、

ソラと共に成長を遂げる仲魔になっていく…



 
 
 

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