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魔王の物語


ー魔界


いつものように朝が訪れた


ダンケルは任務遂行しつつ毎日を過ごしていた


公務の際、イザマーレはリリエルを髪に座らせる

ダンケルも最近、ダイヤを公務に連れて行く機会が増えていた

公務終了後はリリエルとダイヤ、ダンケルとイザマーレで軽食をとり

次の公務へと向かう


楽しそうに話してる彼女たちを、イザマーレ越しに見つめるダンケル


こんな光景を見れるとは…

あの時は思ってもいなかった


…魔界史上最悪の忌まわしい事件…






ヨッツンハイムの事件が起こる数ヶ月前…


ダンケルの元に使用魔が訪ねに来た。

「皇太子に謁見したいと申してる悪魔が居ますが…

いかがなさいますか?」


当時の妃もたまたま側に居た。使用魔の話を聞いてクスッと笑う

「殿下に謁見?高貴の悪魔ではないのなら

お断りすればいいじゃないですか…。

今、ゆっくりなされてるのよ?」


…また始まった。余計な口出しをしおって…


全く愛情すらわかない妃…皇太子たる者、

妃くらい持てと周りから言われ、気は乗らないが渋々、妃をとった

ただの飾りとしか思っていない。


イライラが募る…そろそろ…始末してやろうか…今夜…


使用魔はダンケルのイラつきに気が付き

「殿下に伺ってるのです。

お妃様のご意見はお伺いしていません。あしからず…」

深々と頭を下げ言った。


「分かった。その悪魔は名は?」

不機嫌な顔になる妃にげんなりしつつ

その先を促すダンケル


「…ルシファーとお伝え下さいと…」

ダンケルは一瞬固まった

「…何?…ルシファーだと?!直ちに客室に通せ!すぐに向かう」


ダンケルの言葉に使用魔は一礼をして姿を消した


ルシファー…忘れもしない魔名…本悪魔なのか疑問にも思ったが

ダンケルは直ぐに部屋から姿を消した。




大きな客室に通された悪魔は部屋を見回し

出された紅茶を一口飲んでいた。

そこへ扉を開け放ち、足早にダンケルが入って来た


悪魔は立ち上がり頭を下げた。

「ご多忙の中、謁見有難うございます」


ダンケルは悪魔の声を聞きハッとした…

懐かしい声…間違いない…ルシファーだ…


「…ルシファー…なのか?」


確認するようにダンケルは聞いた。

その声にルシファーは初めて顔を上げて微笑む


「久しぶりだな…ダンケル…元気にしていたか?」


「生きていたのか…ルシファー…」


にこにこと微笑むルシファーを

ダンケルは万感の思いで見つめる


「それは俺のセリフだ。天界では暴れたそうじゃないか。

堕天し、まさか魔界を統一する皇太子になっていたとは…驚いたよ」


嬉しそうに話すルシファーを抱きしめた



「それにしても、お前が都に来るなんてな…どうかしたのか?」


「ん?ああ…いや…」


細かい事は何も告げず、静かに笑みを浮かべ

穏やかに立ち去るルシファー




…!…


自室に戻ったダンケルは、その光景に驚く


目の前には、重厚な装飾で施された鈍色の剣

鍔に刻まれた翼の紋章に目が留まる

遥かな昔の記憶が蘇る…


…まさか…


思いを巡らした時、ダンケルの手元にルシファーの声紋が届く


『…驚かせてすまない。お前の見識のとおり。

その剣は太古の昔より、天界において門外不出とされた宝剣だ。』


……


『私が堕天した際に、ちょろまかしたのだ。

彼は数万年の間、私と共に魔界の森に棲みつき、慣れ親しんできた

それが、どうした事か、お前の元に向かうと言い出してな。』


「…ルシファー…私もそこまで馬鹿ではない。

天界の宝剣が動く時…それは新たな宝が誕生する時。いついかなる時も

例外はない。そうだな?」


ルシファーと対峙しながら、同時に想いを巡らすダンケル

「宝か…」

その脳裏に、愛してやまない光の悪魔を思い浮かべる


『森に宿る精霊たちの噂話を聞きつけたんだろう。

そいつは自らの意思でしか動かん。

ま、だだっ広いお前の部屋なら、苦にもならんだろ?』


「なるほどな…」




ほんの少し、闇の奥で感情が泡立つのを自覚しながら

冷酷な微笑を浮かべるダンケル


…………


数日後、王室に招集されたイザマーレ、ウエスターレン、ベルデ


ルシファーから託された宝剣を話の肴に

お茶会を繰り広げる


「へえ…これがそうなんだね…」

細やかに彫刻された宝剣に興味があるのか

繁々と眺めるベルデ


「しかし…ルシファー殿も困ったものだな。

強奪品となると…天界に攻撃の口実を与えてしまうのでは?」

優雅に笑顔を浮かべ、チラッと宝剣を見遣るだけのイザマーレ


「森の精霊たちの噂話だと…?

俺の監視網を潜り抜けるルートがあるとはなあ…」


「…! なるほどな、ウエスターレン。そういう事か…」


含み笑いをするウエスターレンに、イザマーレも思い至るが、

ダンケルの手前、表情には出さず、瞳の奥で静かに笑う




さて

この時、イザマーレが抱いた懸念は

残念ながら杞憂に終わらず

現実のものとなる


ルシファーが魔界の森の奥深くで匿っていた宝剣を

王都、魔宮殿に運んだことにより

その波動は天界に察知される事となった


ルシファーが堕天して以来、

天界で守るべき宝剣を紛失していた事すらも

まるで気づいていなかったゼウスは愕然とする


ましてや、強奪されていたなど…


元は、天界の宝とはいえ、

己の意思に従わず、ただ鎮座するだけの剣など

ゼウスにとっても愛着があるわけではない

だが、それを所持している事こそが

正統たる神として君臨する証しであり

「奪われていた」だけで済まされる話ではない

自己管理能力の低さを露呈させただけに過ぎないのだ


このままでは、自らの立場すら

危うい状況になる事を恐れたゼウスは

天空の首脳会談の開催の折、

「強奪された」事だけを殊更、声高に捲し立て

返還せよとの主張を繰り返すようになる


だが、魔宮殿に鎮座した宝剣は、

皇太子ダンケルを以てしても動かす事ができずにいた


なぜ、宝剣が己の意思で王都に移動し、鎮座したのか…


実はそれこそが、皇太子ダンケルが、真の宝を手中に収め

この世を安泰に導く事を予見していたに過ぎないのだが…



 
 
 

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