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魔界高等学校


週明け


珍しく朝から学校に訪れ、退屈そうに授業を受けながら

休み時間になると、校舎内を歩き回るセルダ


教官室や屋上…最後に生徒指導室


ようやくお目当てを探し出し、そっと扉を開ける


「お?どうした。お前がこんな時間まで居るなんて珍しいな」


すでに放課後の、緩慢とした空気が漂う時間帯

大抵、屋上で昼寝をし、遅くても一時間目の授業が終わる頃には

消えているセルダ


それに対するウエスターレンの言葉も、生徒指導の教官とは言い難いが

細かい事など、どうでも良い事なのだろう


気さくな態度で応じるウエスターレンに苦笑しながらも

それ以上に感じる、言葉では言い表せない想い

この数日の僅かなやり取りの最中に、生じた気分の正体を付き止めたくて

超本悪魔を探し続けたのだ


「…あんたも、ギターをやるとは知らなかったんだ。

何て言うか…あんたのギターの音色を聴いてから、変な気持ちになるんよ

それが全然、嫌じゃないというか…」


「…そうだったか?ありがとな♪」


ウエスターレンの言葉に、さらに顔を真っ赤にして、驚いたように見上げる


「…なあ…あんたは、敵に火をかける時、躊躇いもなくやるよな。

そんな自分に恐怖を覚えたり、自責の念にかられることはないのか?」



「あんたは、それ以外にも、無敵の力を持っているよな。

だけどそれは、必要最低限にしか使わない。

でも、俺よりもいつだって堂々としているように見える。」


「…そうだなあ。俺は、お前のその感覚も理解できるよ。

まあそれは、イザマーレに言わせれば、甘ったれかもしれんがな。

それはまだ、お前にとって、全てを投げ打ってでも守りたい何かが

ないからだろう。」


「!!」


「誤解するなよ?今はまだ、と言っただろ?

お前にだって、そのうち、大事な何かは生まれるはずだ。

その時、お前は躊躇う奴ではない。それも、俺には分かる」


「…//////」


「それで?お前の今日の目的は、その事だけか?」

ウエスターレンはニヤッと笑う


「え、あ…////// いや、それは二つあった理由の一つ目。」


「…もう一つは?」


「あんたも、それから、あのお坊ちゃんも…俺の中でずっと

こびりついて離れないんよ。それが…どうしてなのか分からんけど

嫌じゃないんよ…」


セルダの、不器用ながら正直な告白に、静かにほくそ笑みながら

耳を傾けているウエスターレン


「俺…ずっと周りからは煙たがれて

嫌われるのが当たり前だったから…

だけど、あんた達の事を、もっと知りたいんよ。そばに…」




「構わないさ。あの時、そう伝えたろ?

お前のギターで遊んでやる。浮かんだメロディがあるなら

躊躇わずに持ってこい♪」


「………♪」


初めて、満面の笑みを浮かべるセルダ


「でも…俺、も少し激しく、パッションの強い感じが好きなんだけど…」


「俺は、音楽ならどんなジャンルでも構わない。

そこは、イザマーレもオールマイティだから気にするな。

それを選ぶかどうかも含めて、一緒にやれば問題ないだろ?

なあ、イザマーレ」


「へっ?」

思いがけず、キョトンとするセルダ


「(笑)実はな、先日のこいつのオイタに対して

こってりお仕置きしたせいで、小型化してしまってな」


ウエスターレンの脚に腰かけ、デスクの影に埋もれていたイザマーレに

唖然として、直後に爆笑するセルダ


「ウエスターレンの言う通りだ。よろしくな。セルダ」


「! 俺の名前、知ってた?」


「おいおい…吾輩を誰だと思ってる?」


プンスカと仰け反って見せるが、こじんまりと見上げるイザマーレの

破壊力満点な可愛さに、笑いが止まらないセルダ


「…わ、わかった…(笑) こちらこそ、よろしくね。イザマーレ閣下♪」





それから、ほぼ毎日のように

暇を見つけてはお互いに顔を合わせ、

好きなようにセッションを繰り返す3魔


曲のジャンルによって、ウエスターレンがドラムを担当したり

自由に音楽を楽しむ彼ら


程なくして、「俺たちでやりたい曲ができた」と

セルダが数曲、作り上げてきた


「ほう…確かに、面白いな。カッコいいし」


「だが…これならバンド形式じゃないと難しいよな。

少なくとも、ギター2本、ベースにドラム、ヴォーカル…

俺、ドラムしながらベースは無理だぞ(笑)」


「ベルデを誘うか?」


「学内のお遊びだからなあ…声をかけてみるか」


そこでつぎの授業が始まる5分前チャイムが鳴り、

各々、教室へ向かう


イザマーレは、教室ではいつも最前列に座り

物凄い集中力で勉学に勤しむ


その日もいつものように、最前列の特等席に向かうと

背後から感じる視線


思わず振り向いて、視線の主を探す


「…あ」


凶悪そうな紋様をくしゃっとさせ、惜しげもなく笑顔を見せる悪魔

大柄な体に、ふさふさの尻尾が揺れていた




授業が終わり、さっそく近づいてみる


「よ! ここでは、初めまして、かな(笑)」

「本当に同級生だったんだな(笑)気づかずにいて、すまんな」


笑顔で挨拶を交わしながら、ふとひらめくイザマーレ


「…そうだ、お前…エレジアだったな。たしかベルデと面識があったよな」


「如何にも。ベルデは俺のベースの師匠だ。」


「! そうだったのか。…じゃ、ベース出来るんだな?」


「なかなか、一緒にやれる仲魔がいなくてな。

俺ほら、一見、凶悪っぽく見えるだろ?」


屈託もなく話す素振りからは、相変わらず素朴で

草叢の中で作業に当たり、お互いの柵もとっぱらう程の

優しい心根の持ち主にしか見えないエレジアの自虐的な言い方に

イザマーレは一瞬で、心を解放できる相手と理解した


「ちょうど我々も、仲間内でベーシストを探していてな。

もし良ければ、一緒にやらないか?」


「…え。…ええっ?!」


イザマーレの言葉をキョトンとして聞いた後、驚く素振りを

惜しげもなく晒すエレジア


「なんだ?なにか、問題でもあるのか?」


「い、いや…」


(お前らのようなアッパークラスと、俺では違和感しかねーだろうがよ💦)


心の声が丸聞こえで、尻尾もピキーンと固まるエレジア

素知らぬ顔で、改めて手を差し出すイザマーレ



「一緒にやろう、エレジア。今日からお前は、我々の仲魔だ」


ニコッと笑うイザマーレに魅せられ

だが、次の瞬間、激しく咳ばらいをして

衣服の布地で自分の手を何度も拭き

そっと握手に応じるエレジア


「…お、おう…こちらこそ…よろしく。イザマーレ…」


「……♪」


今回編入した魔界高等学校内で、初めて自分を

呼び捨てで呼んだエレジアに、

殊更嬉しそうな笑みを浮かべるイザマーレだった


 
 
 

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